二千年の稲作の歴史。その記憶と知恵を後世に繋ぐために

2015/04/20

 

ここが昔のように一面の水田に戻ったら、どんなにきれいだろう。。。

「ここに住みたい」と思ったのは、そんな農地への一目惚れからでした。

 

谷戸を望む

 

 今私が住んでいる対馬市上県町(かみあがたまち)志多留(したる)地区は、人口が67名、高齢化率は6割を超える限界集落です。担い手がいなくなった農地は放棄され、空き家も随所にみられます。

 志多留地区は、対馬の考古学の幕開けを飾る「志多留貝塚」が発見された地です。縄文時代から集落が存在しており、弥生時代初期の地層からは、稲穂の採集に使われたとされる石包丁が出土しています。

 

 

志多留貝塚_石包丁

志多留貝塚から出土した石包丁(弥生前期)

 

 

三千年にわたる集落の歴史。

二千年ものあいだ受け継がれてきた稲作の営み。。。

 

 私は3年と少し前、この集落に一目惚れして移住しました。まず目についたのが、谷あいに広がる農地の美しさです。稲作伝来伝説も残る、歴史ある水田。今はほとんどが放棄地ですが、ここが水田になったら、どんなに奇麗だろうと思いました。

 

耕作放棄地が広がる志多留の水田

耕作放棄地が広がる志多留の水田

 

 田んぼだけではなく、山、川、畑、集落、浜、海…里山を構成するすべての要素が、志多留地区内に揃っていました。私には、これらが宝の山であり、真っ白なキャンパスに見えました。その土地にある資源を活用し、物質循環を可能にする地域づくりを行う上で、必要な要素はすべて用意されているように思えました。

 

志多留航空写真

志多留地区の航空写真 山、川、畑、集落、浜、海…すべてつながっている

 

 思い起こせば、農村へのあこがれは子供のころからありました。はじめの小学校の周りは田んぼとリンゴ畑がたくさんありました。少し年上の近所のお姉さんは、田んぼの生きものを捕まえるプロフェッショナルで、ドジョウは首を捕まえるとキュッと鳴くことを教えてくれました。転校した先の学校で仲良くなった子は農家の娘でした。遊びがすごく豊かだった。何でも知っているし何でも出来る。私はそんな彼女に憧れていました。私の父は百貨店に勤めていて、とにかく転勤が多い家でした。幼馴染という関係を、うらやましく思いました。漠然と、土地に根差した仕事や、自然と対峙する仕事への憧れと尊敬があったのかもしれません。

 

 農業を中心として、地域資源を循環させる。循環の仕組みで経済も回し、人が生きがいを持って暮らせる地域。そんな地域を作りたい。。。

 

 最初はそんな、自分の夢を実現するフィールドとして、志多留に住みたいと思いました。しかし住んでみると、住民の人々の暮らしそのものが、とても味があるのです。

 春になるとホンダワラ類の海藻が浜に打ち上げられます。おばあちゃんたちはそれを拾って乾して腐らせて、畑に入れます。川を伝って海に流れた有機物を、再び農地に還元する仕組みが、暮らしの中に息づいているのです。

 おすそ分けは当たり前です。野菜を作る人と魚を獲る人が、うまく「もてるもの」を交換し合って成り立っています。日常の中で、地域資源が循環している。そして、みんなとても親切で、新参者の私に対して、我が子我が孫のように接してくれます。

 この方たちの故郷を、消滅させたくない。いつしかそんな風に、思うようになっていました。

 

志多留地区の人たち

 

志多留地区の人たち

大好きな、地区の人たち

 

どうやったら、この地で農業を再生させられるのだろう。地域の人に聞いてみました。

みんな、口をそろえて「それは無理だよ」と言いました。

 

志多留の水田は圃場整備がされていません。

昔ながらのぬかるむ田んぼで、機械は埋まってしまうので使えません。

灌漑設備もないので、雨水に頼るしかありません。

大規模集約化、機械化の流れからは取り残されたこの水田では、現代の農業の仕組みに乗っかって収益を上げることは、到底不可能です。

 

 でも、そんな大規模集約化、機械化の陰で人知れず失われてしまった、自然の仕組みを活かす知恵が、ここにはまだ息づいているのです。

 ぬかるむ田んぼは、冬でも水が切れません。冬の水場は、冬鳥たちにとって貴重なエサ場です。冬になると沢山のカモたちがやってきて、田んぼをかき回し、たくさんの有機物を落としていってくれます。雑草の種も食べてくれます。そんな水田では、イトミミズたちがせっせと土を耕してくれています。

 地下水のポンプアップに頼れない志多留の水田では、「川を作るな」という言い伝えがありました。せっかく降った雨を、できるだけゆっくりと流すためです。石で組まれた水路に谷間からしみだした雨水を集め、水を散らして田んぼに溜め、田んぼから田んぼへと使いながらゆっくりと海へと流す。石で組まれた水路には、天然ウナギがうじゃうじゃいます。当然メダカはうじゃうじゃいます。水路沿いには、ササを植えてソフトな堤防が作られていますが、そこは野鳥たちの隠れ場、ヤマネコの通り道です。

 

ウナギと原田さん

水路で獲ったウナギ

 

そんな生きものたちの楽園が、今、失われようとしています。

日本で最初に稲作が始まったかもしれない場所が、今、消えようとしています。

二千年の時を経て受け継がれてきた自然の仕組みを活かす知恵が、途絶えようとしているのです。

失われる前に、「教材」としてそれらを残すことはできないだろうか。

製品としての米ではなく、歴史と知恵を売ることができないだろうか。

 

そんな思いで始めたのが、田んぼのオーナー制度です。

自然とともにあった人の営み。結果としてそこにすまうたくさんの生き物たちの息吹。

その記憶と知恵を後世に繋ぐために。。。

 

対馬里山繋営塾_田んぼのオーナー制度

 

田んぼのオーナー様、募集中

 

趣旨に賛同してくださる方の応援をお待ちしています。

 

★オーナー制度詳細・お申込みはこちら 

 http://www.sun.tcctv.ne.jp/jhwx4795/8_paddy3.html

 

◎3つのコース

 ①応援コース:一口5千円

 ②サポートコース:一口3万円(10aの契約栽培)

 ③米作り入門コース:一口2万5千円(10aの水田貸出し)

 

◎イベント

 ●田植イベント、稲刈りイベントの他、月1回の田んぼの教室開催

  (イベントへの参加は必須ではありません)

 ●ニュースレターの発行(年4回)

 

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