大切な海の森

顔の写真
執筆者 細井尉佐義
所 属一般社団法人MIT

2015/06/10

 

 夏もそこまで。対馬の野山もすっかり緑が濃くなりました。そして、海の中でも温かな春の日差しを受けて様々な海藻が成長していきます。その海藻の一つ「ヒジキ」、皆さんも食べた事がありますよね?だけど、きっと主役ではなく付け出しなどの脇役料理として食べたことがあるのではないでしょうか?そんな名脇役のヒジキさんをご紹介します。

 

ヒジキ

 

 この絵はつい先日、家族や近所の方々に手伝っていただき、ヒジキを浜に広げ、干しているところです。ご近所さんあってこその浜の暮らしです!

 私が暮らす上対馬では、毎年この時期の大潮に合わせて、「長ヒジキ」漁が行われますが今年は5日間限りの解禁となりました。浜ではこの解禁を「口開け(くちあけ)」と言います。

 

ひじき

 

ひじき漁

 

ひじき水揚げ

 

 このヒジキ、通常流通している商品の約9割が韓国や中国からの輸入で、ほぼ養殖物です。残り僅かが国産なのですが、長崎県は全国一の生産量で、その中でも対馬はダントツの生産量を誇ります。簡単に書きますと国産のヒジキの相当量を対馬が占めているという事なのです。質、量共に凄いのです。豊かで栄養豊富な海の証です。

 画像を見ていただけると分かるように、もともとヒジキは美しい黄金色です。そして茹でると緑色になります。ではなぜ食べているヒジキは黒いのでしょうか?鉄釜や鉄製の物と一緒に煮ることでその鉄分から、お馴染みの黒いヒジキになるのです。豆などの、クギ煮と同じですね。

 

釜茹で

 

天然ヒジキ

 

同じ頃、解禁になるムラサキウニ。海で採りながら食べて、帰って開けながら食べて、ビールのつまみで食べて、お昼にもどんぶりで食べてと、痛風まっしぐらの幸せです。

 

ムラサキウニ

 

ムラサキウニ

 

 国産、天然ヒジキの味、香、歯ごたえは外国産養殖物とは比べものにならない旨さです。

 そして更に、我々浜で暮らす者のヒジキの特権があります。このヒジキも陸上の植物と同じく、春先に成長を始めます。長い物では1m程にも成長しますが、その成長したヒジキではなく、3月頃のまだ10cm程の新芽を刈り取り食べるのです。野山の山菜採りのようなものでしょうか。資源保護や、その後のヒジキ漁への影響から、各家庭3カゴまでと刈り取り量が制限されています。

 申し訳ないけど、旨いものは先に浜で食べて、おすそ分けを全国の皆さんにお届けしております。刈り取り後、すぐに4時間ほど大釜で茹で上げます。そしてそのまま茹でたてをポン酢で食べるヒジキの美味しさは格別です。その磯の香と歯ごたえといったら一度食べると忘れられない味なのです。

 

 しかし、そのヒジキに危機が。全国的、世界的に広がる「磯やけ」という現象をご存知でしょうか?これは、海の森である海藻が消失し、むき出しになった海底の岩肌が白くなる事から呼ばれる現象です。対馬でも南の地域ほど海藻が減少しており、最南端の地域では壊滅状態にあります。そして年々磯やけは北上しております。ワカメなど他の海藻も同じ状況で、餌となる海藻がない海にはアワビもサザエもおらず、産卵する場所、餌や隠れ家がない海には小魚もいなくなります。

 

 ではなぜそのような現象が起こるのか? 原因として、「地球温暖化」と同じように海水温の上昇で海藻自体が弱ってしまう事、そこに追い討ちをかけるようにアイゴヤイスズミといった魚やウニなどに食べられてしまう事が考えられます。以前は水温が低い冬場はそうした海藻を食べる魚が南下したり食欲が低下したりしてバランスが保たれていました。温度の変化は非常に重要なんですね。他にもいくつもの原因が指摘されていますが「いずれにしても我々人間の経済活動による影響」が大きく関わっているものと考えられます。陸上の森の消失と同様に、海の森の消失も大きな問題であり、その事は単に漁業活動に影響するだけではなく、様々に繫がって陸上の生活に深く関わってきます。

 

虹

 

 さて、採るときにはあんなに重かったヒジキが干すとこんなに小さく軽くなってしまいます。それを袋に30キロほど詰め、漁協や取引業者に出荷し、更にヒジキの専門業者が煮たり詰めたり製品にして、皆さんの食卓に並んでいきます。

 

ヒジキ出荷

 

マグロ

 
 学生の頃、屋久島で乗船させて頂いた一本釣り漁師さんはこう言いました。

 

「漁師になるなら漁場が近いことが大切だよ。屋久島は磯焼けや黒潮の変化で島に魚が寄らなくなり、漁場も遠く経費がかさんで行くから」

 

天才サザエボンのTシャツを着てピースをふかし、庭で作った小さなバナナをくれながらもらった先輩Iターン漁師の一言、私が対馬で生きる大きなきっかけでした。

 

 私がこだわる「一本釣り」で生計が立つ地域は数少なくなりました。マグロ漁も年中マグロを狙うわけでもなく、その浜皆が狙うわけでもありません。マグロやブリを狙うためには豊かな海の森があり、ピラミッドのように多様な生物が混在することが絶対条件なのです。対馬は私のような移住者でも釣りにこだわり、毎日家族のもとに帰る事が出来る漁業が営める島です、かろうじて、これまでは。

 

ブリ

 

 四季折々に旬があり、島にやって来てくれる魚と春に実る海藻。その海の恵を「頂く」こと。「繋ぐ」こと。その姿勢がこれからの漁業には必要だと思う春の一日です。

 私が代表理事を務める一般社団法人MITもそのような島の暮らしを繋ぎ、紹介発信していく組織を目指し取り組んでおります。

 

 現在募集中なのは、大学生向けの研修です。今年度MITでは、エコツーリズム推進プロジェクトの支援と古民家再生プロジェクト支援、地域の人々が集う場所「老稚園いいとこ」運営支援を担いたい学生さんをインターンとして募集しています!

 また、短期で対馬で地域づくりの実践を網羅的に学びたい方は、8/20-25に開催される「島おこし実践塾」に参加ください!その他にも定置網漁業体験や農林業体験など、学生を受入れるプログラムが充実しています。たくさんのご応募・お問い合わせお待ちしております(MITが対馬市からの委託でコーディネートを担っています)。

 

追記 対馬での日々の暮らしや漁をブログやフェイスブックで発信しております。ご覧ください。

   Gooブログ「海子丸」で検索!

 

 

 

記事の感想送ると100ポイント進呈!
ポイント貯めてプレゼントGETしよう

いなかマガジンを読んだら「いなかパイプアプリ」へ感想をぜひお送りください。
アプリを下記からダウンロード→「お問い合わせ」へ感想を送信でOK!
ポイントを集めるとプレゼントがもらえます!

FacebookTwitterLine
顔の写真
細井尉佐義さんのプロフィール・記事一覧はこちら
    • <img class="alignnone size-full wp-image-11087" src="https://inaka-pipe.net/wp2019/wp-content/uploads/2014/04/b96dbad3f6d15d0d05d13d73a61d8bab.jpg" alt="細井尉佐義" width="200" height="336" data-mce-src="https://inaka-pipe.net/wp2019/wp-content/uploads/2014/04/b96dbad3f6d15d0d05d13d73a61d8bab.jpg" /><h2>細井尉佐義/Hosoi Isayoshi</h2><ul><li class="syozoku"><a title="一般社団法人MIT" href="https://inaka-pipe.net/mit/" data-mce-href="https://inaka-pipe.net/mit/">一般社団法人MIT</a></li><li class="tokugi">釣り</li> </ul><p data-tadv-p="keep">1972年長崎県生まれ。長崎県対馬市在住。東洋工学専門学校卒。一本釣り漁一筋で、家族5人を養っている。自然環境保全と資源保護を第一に考え、地元、他府県の漁協組合関係のイベント、講演等に積極参加、これまでにそのような活動が大きく認められ、テレビ取材、多くのメディアにも出演している。2013年当時島おこし協働隊の木村幹子・松野由起子とともに一般社団法人MITを立ち上げた。MIT理事。</p>
    • 細井尉佐義