農作業が高齢者福祉にいい理由

 

 今回は、農作業が高齢者福祉にとって有効である、という事を実例を交えて、その理由も含めて描いてみたいと思います。

 これは、あくまでも私が新潟県の中山間地に住んで、見聞きした事を元に書いていますので、全ての方に当てはまるかどうかはわかりませんが、事実ベースで書いていますので、当てはまる人には当てはまっているはずです。

 

 いきなり結論ですが、農作業が高齢者福祉にとっていい理由は、主に次の3点だと思います。

 

①身体を動かす

②頭を使う

③喜びがある(やりがい、生きがいにつながる)

 

これらを一つ一つ具体的な実例を挙げながら説明したいと思います。

 

 「①身体を動かす」については、説明するまでもないと思いますが、農作業は結構身体を使います。作物によって面積や重さは違いますし、機械を使うものからほとんど機械を使わないものまで多種多様ですが、全く身体を動かさないで収穫までできる作物はありません。

 例えば、私はお米は販売するぐらいの面積を作っていて、野菜は自分たちの家族が食べる分プラスαでお小遣い稼ぎ程度に販売するものもある、という程度の面積しかやってませんが、その面積の少ない野菜でさえ、肥料まき、植え付け、草対策、収穫、ものによっては支柱を立てたり、ネットで囲ったり、と作物が無事育つための環境づくりをします。

 

 お米については、農繁期はとても重労働になります。田植えの際は、田植え機に乗る以外にも苗を運ぶのですが、これが水分を含んでいて重たいです。また、中山間地では田んぼの水の管理が地味に大変です。自然の水を田んぼに流し込むために鍬やスコップで溝を掘って誘導したり、田んぼの畔から水が漏れているのをふさいだりと、農作業の華やかな部分に隠れた、作っている人しかわからない作業に、かなりの時間と労力が割かれています。

 

水源から水を引っ張ってくる

 

上の写真は、水源から水を引っ張ってくるために、水路を掘って沢の流れを変えている様子です。去年までは雨が降るとすぐに元の流れに戻ってしまったので、かなり大がかりに土を移動させました。

 

木を切って行き来しやすく

 

また、木を切って行き来しやすくしました。

 

家庭菜園

 

 家庭菜園でさえ、貯蔵できる野菜を一気に収穫する際には一仕事です。

 そういう事で、農作業は適度に(農繁期はかなり)身体を動かすのですが、お年寄りも(中には80歳前後の方もいます)こういう作業を日々やっています。都会から移り住んだばかりの時に、

 

「この人達には満員電車で出くわしても席を譲る必要はないのではないか?」

 

とさえ思うほど近隣に住むお年寄りの方々は達者です。

 また、身体を動かすと疲れるので自然と早く眠たくなり、早く寝ると朝は明るくなったら目が覚めるという事で自然と早寝早起きが習慣になるのですが、これも健康のためにはとても良い事だと思います。

 

 

 「②頭を使う」についてですが、意外と農作業は頭も使います。農作業にとって私は最も重要なのは段取りだと思うようになりました。どの作物にも植え付けの適期というのがあって、適期に植えて適期に収穫するという事が作物の生育にかなり影響します。(これは屋外での栽培に関してであり、野菜工場などは私は経験がありませんが、別だと思います。)

 そして、その適期に合わせて植え付けまでの下準備をする必要があります。例えばお米であれば、植える時に丁度いい苗の大きさになる時期に種を撒きます(すじまき)。

 

すじまき

 

 すじまきをする前に、芽が出るタイミングをそろえるために浸種と芽出しをするのですが、これがそれぞれ10℃より少し高い水に積算温度が100℃になるまで浸します。

 例えば10℃の水であれば、10日間で積算温度100℃という風になります。その後、32℃のお湯に16時間浸ける事で芽が少し出た状態にします(ハト胸状態と言います)。

 

芽が少し出た状態

 

 こういう作業があると、一夜漬けなどはできません。計画的に少しずつ準備をしないと絶対に間に合わないです。なので、スケジュールを逆算して予定を立てます。他にも、もっと色々ありますが、本題からそれますのでこの辺で辞めておきます。

 また、肥料を撒く際にもチッソ、リン酸、カリの成分計算をして撒く量を決めます。ここでは算数の計算をします。なので、農作業は結構頭を使います。このように自分で色々主体的に考えて頭を使っていたらそうそうボケないのではないでしょうか。

 

 

「③ 喜びがある(やりがい、生きがいにつながる)」という点については、作物を育てるとわかりますが、日々成長していく姿を見ると無条件に喜びを感じます。また、よく地域の方がこのような事を言います

 

「農業は、1年に1回しか経験できないから、俺もまだ完全にわかったとは言えない。毎年勉強だ。」

 

 これは私も実感していますが、毎年自分自身が農作業についてもっとこうやった方がいいなという学びがあり、自分自身の成長を感じる事も出来るのです。

 多くの人は成長する事について喜びを感じると思います。これを読んでいる方の中にもロールプレイングゲームでレベル上げにハマったり、新しい武器や防具を手に入れたら嬉しくなるという経験がある方は多いのではないでしょうか?農作業は作物も日々成長するし、自分も年々成長するという事で、現実世界で成長を2倍楽しめるというものです。

 しかも、作った作物を売る事ができれば、実益にもなります。これも喜びの一つだと思います。作物を売った際の喜びとしては、金銭的なものもそうですが、それよりも食べた人から「美味しい」と言ってもらえた時の喜びの方が大きいです。

 

 私が住む飛渡地区には「食と農を考える飛渡の会」という会があり、地区内の生産者の方々から野菜を仕入れて、市内の飲食店や学校給食に出荷しているのですが、生産者の方の中には、この野菜の出荷の活動に非常にやりがいを感じて一生懸命に取り組む方がいます。そして、そういう方は、若手の農家や地域おこし協力隊等との交流も積極的に行っていて、世代を超えて飲む機会も結構ありますが、これも喜びにつながっていると思います。

 写真は、公民館で飲んでいる時の様子です。文字通り老若男女が一緒になって飲んでますが、都会ではこういう機会はそうそうないと思います。

 

公民館で飲んでいる時の様子

 

盛り上がってくると84歳の貞夫さんがアカペラで歌い始めるなんてこともあります。

 

84歳の貞夫さん

 

 83歳の文夫さんは

 

「若い人と一緒に色々やれるのは刺激を受けてます。」

 

とおっしゃいます。

 このように、農作業をずっと続けているお年寄りの方々は、非常に元気で80歳を超えても現役という方が、私の身の回りだけでも何人もいらっしゃいます。そして、こういう方々の中には、自分だけが元気というだけではなく、周りの人達も元気にしたいという方もいらっしゃいます。

 一つの象徴的な例として、飛渡地区には「あわせおけさ保存会」という会があるのですが、この会の方の中には70代~80代の方も数多くいらっしゃるのですが、この会は年に数回施設に慰問に呼ばれて踊りや歌を披露しています。

 

あわせおけさ保存会

 

 私もメンバーの一員ですが、70代~80代のメンバーの方々からすると、もしかしたら自分より若い人に対して慰問で踊っているという事もあるわけです。ここに一つのこれからの高齢者福祉についての答えがあるのではないかと思います。

 これから年金が出るかどうかわからない我々のような世代は、高齢者医療や介護に対して高いお金がかかるけどどうなるのだろうかと不安になるよりも、その予防策として農山村に住み、農作業をやるのはいかがでしょうか?

 これは自分の実感としてとても効果があると思います。自分自身が都会に住んでいた時に比べると年は取ったけど明らかに体力はついたと感じています。

 

 私自身が田舎暮らしを始めた理由の一つには老後の健康の事を考えという事もあります。十日町では「ピンピンコロリ」という言葉があります。これは昨日までピンピンしていた人が次の日にはコロリと死んでしまったという意味です。

 私自身もどうせ死ぬなら「ピンピンコロリ」と死にたいですし、実際に親戚が「ピンピンコロリ」で亡くなったある方は(話題が話題なのであえて名前は伏せます)、「いい死に方をしたもんだ。俺もああいう死に方をしたい。」という風におっしゃってました。

 

 長期的な事を考えると、若いうちから農山村に住んで、自分自身の老後の安心を、自分の手で守れるようにした方が良い、と思うのは私だけでしょうか?

 

 

 

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