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トマトの哲学

2018/04/30


 こんにちは。対馬の事務屋です。今年の冬は寒かったですねえ。
 寒い季節の真っただ中、突然「今月分のいなかマガジン担当よろしく」と言われたものの、寒くて釣りにも行ってないし、冬は畑もやっていないのでネタもなく、どうしたもんじゃろのー?と考えておったのですが、書かないといけないらしく、困っておりましたところ。
 今は畑をやっていないけど、夏に向けていろいろ準備もしておりまして、そんな中で考えたことを書かせていただきました。
 
 さて、意外な事ですが、東京に住んでいた頃よりも対馬に引越してきてからの方が有名人に会う機会が多くなりました。東京の場合、街で有名人を見かけることはよくありますし、イベントや講演会のような1人対多人数という機会は多いのですが、小人数で有名人を囲むような機会はそれほどなかったのですが。
 しかも、対馬に来てからお会いしたのは、○○の世界的権威だったり、日本の第一人者だったり、有名なドキュメンタリー番組に密着されてしまうようなスーパースターで、そんな方と膝を交えてお話できたりして、なんとも贅沢な交流の機会が増えたのです。
 
 超有名人以外にも、仕事柄接することが多いのは所謂「地域おこし業界」の有名人ですが、引越してきた直後にお会いできた塩見直紀さんは、この業界でも屈指のビッグネーム。塩見さんに影響を受けて都会を脱出した人も少なくないでしょう。
 その塩見さんの代表作と言えば『半農半Xという生き方』という本ですが、この中で塩見さんは『私にとって田んぼは思索空間である。』と書かれています。先日、今年の夏野菜の準備をしていてそれを実感したので、今回はそのテーマで書かせて頂こうということでございます。

 

サインしてもらいまして、今や家宝の一つ
サインしてもらいまして、今や家宝の一つ

 

 さて、塩見さんのおっしゃるとおり、農作業をしているときは身体を動かしながらいろいろなことを考えますし、休憩するときも考えます。育苗培養土を満たしたセルトレイに一粒づつ種を植えるという地味な作業をしていると、いろいろな考えが浮かぶのです。
 
 例えば、畑を耕せば疲れますし、まだまだ先は長いと気づいてまた疲れるのですが、これはどうしたものだろうかと。
 なにしろ、畑は広い方が収量が増えますが、広くなれば草取りの手間も増えるし、苗を植えたら自動的に実が成るわけじゃなく、様々な手入れや管理をしなければならないのです。苦労は増えるが、収量も増える。手間を惜しめば食い分が減るという二律背反なのです。悩ましいことです。

 

普段読み用に新書版
単行本にサインしてもらったので、普段読み用に新書版も買いました

 

 畑の外にも主題が転がっています。のっけから「どんなトマトを作るのか」が、簡単なようでなかなか選び難いのです。
 大きく2つに分けて考えると、「お店で売っているのと同じトマト」を作るのか「お店では売っていないトマト」を作るのかが最初の分岐点になります。お店で売っているトマトは、ほとんどが「桃太郎」という品種(の仲間)です。とても美味しいし、売っているのと同じ「桃太郎」を自分の手で育てることができたら嬉しいですよねえ。
 
 そう思ってホームセンターに行くと、桃太郎以外にもトマトの種がたくさん並んでいますし、百円均一のお店では桃太郎の種は売っていなくて、「世界一」とか「ポンデローザ」という聞いたことのないトマトの種が売られています。
 さらに、ネットで調べると、黄色いトマトやオレンジ色のトマト、熟しても緑色のトマトもあります。表面がツルっとしたトマトだけじゃなくて、プリーツの入ったトマトもあれば、桃のような産毛の生えているトマトもあるのです。面白い。
 ここで興味が湧いてくるでしょう?この聞いたことのない品種のトマトも食べてみたいなと。桃太郎より大きなトマトが作れるなんて、自分で育てなければ得られない大きなメリットですもんね。

 

インスタ映えする入れ物
もうちょっとインスタ映えする入れ物で収穫したいものですね

 

 育てるなら、売っているのと同じトマトか、お店では売っていないトマトか。トマトを知れば知るほど、悩みは深まる一方です。
 
 育て方にも、「苗を買って植える」「種を買って育てて植える」「育てた実から種を採って育てて植える」という違いがあります。
 お値段で比べると、苗なら1株で100~300円くらい。種なら1粒あたり3円~100円くらい。実から採る種ならほぼ無料。手間で比べる場合、苗なら植えるだけだとしたら、種から苗まで育てるのに1~2ヶ月かかり、種採りは翌年の分を見越して準備しないといけません。
 では、どの選択肢が最善なのでしょうか。
 
 これが単純に「損得勘定の話」だとしたら、答えは簡単。種を撒くよりも、苗を買うよりも、「実を買う」のが最もお得です。
 畑を耕したり、雑草を抜いたり、虫を獲ったり、収穫に至るまで相当な手間がかかります。お店で買えば、何の苦労もなく手に入るのに、半年かけて育てる手間はけっこう大変。大きな台風で倒れてしまったり、熟すのを待っていたら鳥や獣に食べられてしまったりして、半年の苦労が台無しになったりするのですから。

 

食い散らかすから腹立たしい
しかも、ちょっとだけ食い散らかすから腹立たしいことこの上ない

 

 一方、都会の時給で考えたら、30分も働いたらトマトが1パック買えます。それに、売っているトマトはとても美味しい。
 たまに意識高い系の人が、最近のお店で売っているトマトは味が薄いとか、自分の畑のトマトは味が濃いとか、農薬がどうとかいろんなことを言ってますけれども、そんなものは誤差の範囲です。お店のトマトは確実に美味しい。
 
(もちろん、冬とか春先のトマトは美味しくないですけど、冬とか春なんてトマトの季節じゃないですから。そんな季節外れの作物が美味しいわけが無いし、畑でトマトを育てたら、冬や春にトマトなんて手に入らないから比較できないのが当たり前。あと、売ってるトマトが硬いとか赤くないとか言ってdisってる人もいるけど、それが桃太郎なんだよ!柔らかいのを出荷すると店頭に着くまでに割れちゃうし、割れたトマトなんて買ってくれないじゃん!赤い品種だと売れないから桃色の桃太郎を開発したのに、なんでそんなこと言うんだよ!って感じでしょう?)
 
 だから、何が最善かを考えるなら、損得勘定のことは一旦忘れて、実を買うか、どのように育てるかを考えないといけないのかもしれません。
 損得勘定を忘れると、かなりスッキリします。つまり、お店で売っている品種か、売っていない品種かを選ぶ場合、お店で売っている品種を育てる動機は、「売っているのと同じトマトが、お金を払わずに手に入るから」ではなくて、「売っているのと同じくらい美味しいトマトを育てたい」ということになるのではないかと。
 それは、お店で売っていない品種を育てる動機が「お金を払っても手に入らないトマトが手に入る」のと同じで、「自分でトマトを育てて、食べる」という経験に価値を見出しているということなのだなと気づくわけです。
 
 ここまでくれば、苗を買うか、種採りから始めるかも迷いません。もちろん、種採りしたくなるのです。そうなってくると、お店で売っているトマトやほとんどの苗は種採りができないので、固定種の種を入手するところからトマト栽培の道が始まることになります。
 もちろん、価値観によって「種から育てるのは難しそうだから、とりあえず苗を植えよう」と考える人もいるでしょうし、「育てるのは大変だから実を買おう」という人もいるでしょうけれども。
 ただ、都会からいなかに引っ越すような人なら、自分で育てたくなるのではないでしょうか。だって、何でも買える便利な都会で暮らしてたのに、都会と比べたら圧倒的に不便ないなかで暮らそうというのは、損得勘定では成り立たない選択ですもんねえ。

 

ミニトマトは想像以上にたくさん収穫
ミニトマトは想像以上にたくさん収穫できるので超オススメ。都会のベランダ菜園にも

 

 いえ、もちろん損得勘定一切抜きでいなかに来たわけでもなく、いなかの方が得なこともたくさんあります。今までの記事でも書いてきたように、都会で暮らすとストレスが多かったり、さまざまなリスクが潜んでいますし。
 ただ、やはり都会の生活って圧倒的に「便利な暮らし」ではありますが、あくまで「(お金があれば)便利な暮らし」なのであって、ともすると、「トマトを買うよりも、トマトを育てるために借りる畑の賃料の方が高い」みたいなことになったりして、便利なのか不便なのか、よく分からないことになったりならなかったりするでしょう?
 損か得かなんて絶対的でも普遍的でもないし、正解なんてありゃしませんし、何が幸せかも、人によって、社会によって、時代によって違ってきますし、ここで論じたところで何の価値もありません。
 
 ともあれ、お店でトマトを買うだけだとなかなか考えないようなことを、うだうだと考えることができるから農作業は楽しいですよね。何の役にも立たないですが。

 

今年も10種類くらい
今年も10種類くらい育てるつもりで種を蒔きました

 

 というわけで、何の結論も出ない記事になってしまい、大変申し訳ありませんでした。哲学なので許して下さい。
 なお、記事タイトルは中沢新一さんの『イカの哲学』へのオマージュとなっております。中沢新一さんも、4年前の夏に対馬に来られまして、懇親会で隣に座らせていただいたのでした。なつかしす。

 

懇親会の中沢新一さん
オマケ:懇親会の中沢新一さん

 

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