株式会社西土佐四万十観光社
カヌー館館長 田辺篤史さん
アウトドア業界や観光業に興味がある人にとって見逃せないインターンシッププログラム。高知県四万十市西土佐地区にある、カヌー館でのインターンシップは、カヌーツアーのガイドを中心にした多様な業務を経験できます。
日本最後の清流と名高い四万十川。その中流域に位置する、四万十観光社カヌー館が手がけるカヌーツアーは、手付かずの自然を全身で感じられるとあって、多い日には130人ほどが訪れる人気ぶりです。
また、カヌー館は地域の観光窓口の役割を担っており、サイクリングやキャンプ、ボルダリング、屋形船などのアクティビティも提供。周辺のバンガローの管理等も行っており、業務は多岐にわたります。
1日100人超のお客さんが来館するハイシーズン
西土佐で生まれ、四万十川で遊びながら育った館長・田辺さんに、お話を伺いました。
「カヌー館の常駐のスタッフは僕を含めて4人で、ハイシーズンは最大20人くらいになります。川に出るのが12~13人くらいで、喫茶スペースに3~4人、バンガローとかログハウスの掃除が1~2人という感じなので、研修生は適宜、さまざまな業務に付いていってもらうことになると思います。
研修生の受入は年間通して行っていますが、寒い時期に来たりすると、あんまりやることなくて、前に来た子は、最後はボルダリングの色を塗ってたね(笑)。カヌーをやりたかったら、ハイシーズンに来てねって感じだけど、あんまり忙しい時期だとどうしてもバイトと同じ感じになってしまうんよね…。
カヌーガイドを例に取ると、8時半に出勤。カヌーやファミリーラフティングの予約状況に合わせて、準備を始めます。飛び込みの急なお客さんもいるので、予約人数プラスアルファの分のカヌーとパドル、ヘルメット、ライフジャケットなどの装備を用意して、9時過ぎから午前のツアーが始まります。
まずはお客さんにツアーの説明をして、陸上でパドルの動かし方や転覆時の脱出方法などの講習を行います。その後、装備をして実際に川に出て、基本的なこぎ方の練習をしてから、いよいよツアーへ。カヌー館近くのポイントから下流へ向かいます。一日コースなら、岩間の沈下橋がゴール。午後のツアーが終わって、だいたい16:30くらいから片づけをして一日が終了という感じです。必ずリーダーがいて、ついていってもらうので安心してくださいね。
天気が悪くてツアーができない日は、出勤したら、まずはコーヒーをみんなでゆったり飲んで(笑)、広場の草刈りをしたり。そんな日もありますね。
カヌーのお客さんは、ファミリーラフティングなども合わせて多い日で120~130人。カヌーは100艇ちょっとありますね。9月末までがとにかくいちばん忙しい。客足はその年の天候と、景気によっても変わります」
「笑顔で、挨拶ができることがまず大切。あとは人と目を見て、しっかり話せる。コミュニケーション能力がいちばん求められるんじゃないかな。カヌーのガイドをやるにあたって、お客さんやリーダーが信用できるのは、大きな声でしっかり話してくれる人なんです。川では声も届きにくいから、必要なことを伝えるには、目を見て、大きな声ではっきり話さんとね。
極端に言ってしまえば、カヌーの経験値のちがいはお客さんからしたら分からない。最低限、こげたら、自分よりは上手いんだって思ってもらえる(笑)。でも、しゃべりがボソボソってしてたり、自信なさそうにしてると、大丈夫かなって不安にさせてしまう。大きい声でしっかり伝えられたら、お客さんも安心できるし説得力がある。
体力とかはね、やってればつくんよね。夏を乗りきれる体力くらいあれば。技術も、カヌーに実際に乗ってれば、つきます。だからカヌーは未経験で大丈夫です。
体力がない女性スタッフとかも、最初の1週間が辛い、もう帰ろうか、ってなるみたい(笑)。最初はみんなだいたい、カヌーがまっすぐ進まないっていうレベルなんです。お客さんのカヌーはまっすぐ進みやすいけど、ガイドが乗る船って種類がちょっと違うので。最初は心が折れそうになる人が多いけど、それさえ乗り切ってガツガツこげば、1週間である程度思い通りになります。高校生の女の子もバイトするくらいだから、ほんと体力とか技術は、何とかなります。
あ、でも初心者でも大丈夫だけど、アウトドアが好きじゃないと、お客さんとコミュニケーションできないね。“これ何ですか?”とかってお客さんに聞かれて“実は自然があんまり好きじゃなくて…”って感じだと困ってしまうもんね(笑)」
ーカヌー初心者でも、コミュニケーションがとれて自然が好きな人、四万十川と戯れたい人は大歓迎だそうです! とはいえ、危険と隣り合わせの自然相手のお仕事。気をつけるポイントはどんなところですか?
「天気によって、無理したらツアーができないことはないっていう日もあるけど、うちはこの辺の顔になるべきだと思っているので、増水していて少しでも危険がある状態ではツアーは行いません。うちとかわらっこ、四万十楽舎で同じ規定ラインを持っていて、水位がカヌーの場合は何センチ以内、ボートの場合は何センチ以内って決めています。基準を満たしていたとしても、経験上、やめておいたほうがいいなっていうときもやりません。
例えば今日は、この辺りは雨が降っていないけど、上流で降ってる可能性があるからやらなかった。ちょっとでも、怖いなと思ったらやらない。お客さんに危ない思いをさせる可能性が少しでもあるなら、“東京から来ました!”とかどんなに遠くから来たって言われてもね。断ることも仕事なので。“今日は代わりにサイクリングしてやー”って言ったり(笑)」
―サイクリングといえば、カヌー館で行っている、カヌー以外のお仕事について教えて下さい。
「カヌー以外では、バンガローや貸民家の宿泊受付や掃除、サイクリングの受付、屋形船などの事業があります。またカヌー館には喫茶やボルダリング、卓球などの施設や、キャンプ場も併設しているので、その仕事もあります。カヌー館の建物は市の持ち物で、うちが指定管理者になっています。サイクリングについては、四万十市中村にターミナルがあるので、そこまで軽トラで行って、ピックアップしてきたり。キャンプ場の草刈りも仕事のひとつです」
―観光窓口としての顔も担っているんですね。地域における役割についてはどのように考えていますか?
「僕は、自分が生まれ育った四万十の景色とか、川で泳いだり遊んだりすることのよろこび、楽しさがまずあって、カヌーっていうのはあくまでも、ツールのひとつだと思っているの。でも、まぁ現実的なところを考えると、カヌーをしてもらうのがベストだよね。川に連れて行って川遊びさせよう! って思っても、お金にならないもんね(笑)。
四万十川には天然記念物のうなぎがおるので、お客さんによく“うなぎって養殖と天然でやっぱりちがうんですか?”とか聞かれるんです。そしたら“いや、分かんないですね~、養殖って食べたことないんで~”とか、わざとらしく言います(笑)。屋形船の船頭をやるときとか、特にそういうことを聞かれるので、そういうときに何気に地域自慢をします。“天然の鮎はお中元でもらうのが普通なんでね~”とか(笑)。
僕らは四万十川とか地域に根ざした仕事をしているけど、別に地域のために仕事をしている訳ではないんです。かと言って、自分たちだけが儲ければいいっていう腹でもない。うちらががんばれば、必ず、人を雇うことになったり、何かしら備品を買ったり、地域に多少なりとも潤いがいくのかなって思う。地域活性化とか、そのためにやっている訳じゃないんだけど、でも、結果的に、地域につながっていく。うちががんばって儲からないと、他のところも儲からないだろうし。自分らが地域のお荷物にならないようにがんばってます」
「地域のためにやっている訳ではない」とシャイな口調で話す田辺さんですが、その根底には地域への熱い思いが透けて見えました。
―最後に、ガイドの仕事のやりがいを教えてください。
「お客さんがどれだけよろこんでくれるかに尽きます。“楽しかった”って言ってくれたら、まぁだいたいの疲れは飛んでくよね。手紙とか写真を後から送ってくれたりする人もいる。“また来たよ”って言ってもらえたりとかもうれしいし。毎日、同じコースでやるとしても、お客さんに何を提供するのか、何を見てもらうのかを常に考えると、おもしろいよね」
―ほぼ毎年研修生を迎え入れていらっしゃるとのことですが、皆さんどんな経験をしていますか?
「研修生については、何かしら時間をつくって、なるべく話す時間を取るようにしています。インターンに来る人は迷える子羊が多いから(笑)、迷ってることに関して、せっかく来てくれたので、ちょっとでも紐解いてあげられたらいいと思うんだけど。いっしょに車に乗る時間があったら、そこでいろいろ話をしたり。軽トラで移動する、密な時間があるので、そういうときにいろいろ聞いてあげたり。僕らは彼らと関われる時間は意外と少ない。だから軽トラとか車の中がそういう時間になるね
以前、離島からインターンに来てた人は、カヌーで学んだことを元にアウトドアの仕事がしたいって言って、ずっと自分なりに記録を付けていましたね。すごく学びを得て帰っていったみたいです。
そういう将来の志望が決まっている子には、相応しいところとかすごいところを教えて、そっちを見てきいや、やりたいことがそこでできるかもしれんで、ってアドバイスすることもできるしね。同じ業界の別のところとも、つながりが多少あるから」
続けて、カヌー館で新人ガイドとして働く高原ゆうさんに、現在の様子を教えていただきました。
「まだまだカヌーの技術取得に苦戦中ですが…でも毎日、カヌーに乗ってるだけで楽しいです! 普通は見れないところが見れたりとか。例えば、沈下橋を下からくぐるとか。コースの4キロ地点から先は、道路も見えなくなるので、人工物がない自然だけの世界なんです。シラサギ、シカなどの野生動物が見れるのもおもしろいです。
カヌーの技術については、ツアーの実地だけでうまくなれたらいいんですけど、まだロール(転覆した際に、カヌーから脱出せずにカヌーごと身体を回転させて元の位置に戻ること)やエディキャッチ(流れのなかから出ること)などできないので、自分で練習時間を確保して習得するようにしています。なかなかできなくても、先輩が根気強く教えてくれます。できないと、使い物にならないのですしね(笑)。
運動は得意なので、こんなに苦戦することになると思わなかったんですけど。逆に、運動は苦手っていう人が上手にできてたりするので、どんな人も興味があれば大丈夫だと思います!」
―仕事中はどんな点に気をつけていますか?
「お客さんの人数が多くなると、必要な話が届かなかったりすることもあるので、そっちは危ないですよーとか、伝えたり、誘導するのが難しかったりします。そういう場合は、川に出る前になるべく必要事項を伝えたりとか、先回りして、この先は流れが速いので、真ん中を通ってください、とか伝えるようにしたり。今は先輩ガイドについてやっています。自分たちがお客さんの前につくときは、先輩が後ろについてくれてます。
他に心がけているのは、とにかく分かりやすく、ということ。お客さんは初めての人が多いので。陸上講習とかも、何回もやってるとこちらは慣れてくる。そうすると、お客さんにも当たり前に分かってもらえるとつい思っちゃうんですけど、話聞いてない人もいたり、聞いててもできない人もいるので…。先輩ガイドには、いろんな人がいるから臨機応変にやらないとだめだよって言われますね。」
―ガイド以外の点では、カヌー館はどんな職場ですか?
「観光名所を聞かれることも多いので、この間は館長が空き時間に黒尊渓谷に連れて行ってくれました。ついでに近くのホタルの名所の藤ノ川などいろいろ見て回って。それくらい、館長も含めたスタッフ同士の距離が近いですね。しょっちゅうふざけあってるような感じというか。
お昼ごはんはカヌー館の喫茶スペースで毎日、日替わりランチを食べているのですが、喫茶の方が“たくさん食べや”ってたくさん盛ってくれるんです。この間はパスタに“ごはんつける?”って聞かれたぐらい(笑)。もし大盛りで、って言ったら食べきれないくらい盛ってくれます」
―東京から来た高原さん、四万十ライフはどうですか?
「仕事の後に地域の人たちとバスケやバレーをしたり、地域の人の家でみんなで食事をいただく機会もあって、人との距離がすごく近いです。交友関係がすぐ広がりましたね。
休みの日はドライブを兼ねて、近場の観光名所を見に行ったりしています。遊びながら仕事にもつながって一石二鳥なので。車さえあれば、不便さもそこまで感じません。
ここに来てから、地域の人にとにかくいろんなことを教わるばかりなので、いかにそれを吸収して活かすか、とか、あとは教えてもらい方を意識しています。笑顔でいた方が教えてもらえる、とか。農業などをお手伝いするときは、“勝手にやってや”っていう人もいるので、こっちからどんどん聞き出していくようにしています。“これはどうすればいいですか?”って。シャイだったり、よその人に教えることに慣れてない人もいるので。心を閉じてたら楽しくないと思いますが、オープンでいたらどんどん教えてもらえて楽しいですよ!」
なお、研修生の方は、高原さんも滞在しているカヌー館から車で30分ほどの廃校を利用した宿舎に滞在できます。カヌー館の近くにはスーパーや道の駅、居酒屋や中華料理屋もありますよ。