株式会社いなかパイプ
代表取締役 佐々倉玲於
「農業やりたい!」とやりたいことが明確な「ある人」だけれど、「やったことがない」「やれるかどうかも自信がない」と「ない人」の側面を持ち一歩踏み出せずにいる方は、まずいなかパイプでインターンしてみたら?という提案です。
日本最後の清流・四万十川。その中流域の中山間地域で、複数の作物を育てるこの地域ならではの「複合経営農業」を手伝いながら、いろいろやってみて自分がどんな農業をやって働くのが向いているのか確かめることができるインターンシップです。
実際に栽培するのは、インターンシップに参加する時期にもよりますが、四万十栗・四万十茶・四万十川流域野菜(里いもやナバナなど)・ゆず・米などなど。さらには栗やお茶の加工作業にも携わることができます。
農業(1次産業)に携わる人が、その生産物に付加価値を与えて加工し(2次産業)、販売する(3次産業)ところまでを行う「6次産業」が推奨されて久しいですが、四万十では地域の農家・企業が連携しながら、中山間地域で6次産業化が実現できている先進地域です。 そんな地域で、生産から加工販売まで、希望すれば体験することができるインターンシップです。
この働き方が生まれた背景のひとつには、四万十川中流域の「地形」があります。この地域は「中山間地域」と呼ばれる、山あいの傾斜の多い土地。農地の多くは、棚田や段々畑、傾斜をそのまま利用した果樹畑です。
お茶や栗、原木しいたけ、柚子などがこの土地の地形と気候に適していて、さかんに作られています。
広大な農地を使って大規模な農業ができる平地に比べると、山間部ではどうしても、ひとつひとつの農産物の収穫高が小さくなります。そこで、この土地では昔から、春はお茶、秋は栗、というように、季節ごとにさまざまな農作物を作る「複合経営農家」が多いのです。
背景の二つ目には、この土地ならではの地域商社『株式会社四万十ドラマ』の存在があります。住民株式会社として運営されている同社は、四万十川中流域の特産品の魅力を再発見し、全国にその販路を広げてきました。
地栗のモンブランやロールケーキ、しまんと緑茶に紅茶など地元産の食材を活かした商品は、現在では百貨店の店頭にも並んでいます。
地元の特産品を活かした商品づくりや、販売のお手本としても語られることが多くなった四万十川中流域。ここまで地域生産者と四万十ドラマが二人三脚で作り上げてきた商品と販路ですが、原料となる生産物が足りなければ成り立ちません。
この地域も、国内の他の地域同様、第一次産業の後継者が慢性的に不足しており、商品が売れているのに生産が追いついていない状態なのです。
このように、生産物を地域商社に卸せるしくみが既に確立されていて、なおかつ生産が待たれている状態のため、就農者が売り先に困ることなく、経済的に安定しやすい利点があります。
一般社団法人栗のなりわい総合研究社・代表。郷土菓子の栗きんとんの産地として知られる岐阜県恵那市で栗の剪定を学び、現在は四万十で栗の栽培および栽培指導にあたっている。
四万十町十和出身。地域の農家60名余からなる「広井茶生産組合」中心メンバー。お茶の加工をメインに、地域のさまざまな仕事に携わる。
四万十町十和にて無農薬、無化学肥料で70種類以上の野菜作りを行う「桐島畑」代表。畑だけでなく加工所を持ち、自家栽培の生姜を使ったジンジャーシロップなどを作り、販売までを一貫して行っている。
代表して、お茶の先生である矢野健一さんに、四万十暮らしについて伺いました。
矢野さんは、四万十・十和生まれ。就職で一時、関東へ赴きましたが、長男ということもあり22歳のときにUターン。以来、お茶を中心とした複合経営農家として四万十に根を下ろし、地域の頼れるお兄さん的な存在です。二児のパパでもあります。
現在は、「しまんと緑茶」「しまんと紅茶」を生産している広井茶生産組合の中心メンバーとして、60名ほどの地域のお茶農家さんとともに組合を構成し、しまんとブランドのお茶を栽培、加工しています。
-健一さん、お茶づくりの一年ってどんなサイクルなんでしょうか?
「お茶の栽培でとにかく忙しいのは4・5月の一番茶の時期。その時期は、毎日、お茶摘みと加工を同時にやっていく。その日に摘んだお茶は、その日に揉んで、蒸して、って加工せにゃいかん。
摘み取りが終わったら、〈刈りならし〉っていう工程。次の摘み取りのときに、キレイに刈れるように整枝する作業。そうしちょかんと、お茶の芽が一定に出てこん。ばらついたら、手で取るにしろ機械で取るにしろ、量が取れんがよ。余分な葉っぱとかも混ざりやすいし。
刈りならしが終わったら、その後、6月半ばくらいから7月いっぱいが次の二番茶の摘み取り。うちはそれを紅茶にしよるね」
-紅茶は大々的に展開されていますね。ペットボトルもそうですし、紅茶のロールケーキや大福とか。
「紅茶はいくら作っても、足りない状況やねぇ。道の駅ができるときに製品化して、もう10年。そこからある程度のブランド力に育ってきて、それがちょっとずつ定着して売れてきてって感じやね」
-緑茶と紅茶と、同じ茶葉なんですね。加工の工程はどのようにちがうのでしょうか。
「緑茶は不発酵だから、発酵させないために最初に火を入れて、蒸すけんね。紅茶はうちの場合は、じわじわと低い温度で乾燥させる。そうすると発酵が止まらずに進みゆうがやき、ワインらといっしょで、熟成させたほうが、美味しくなる。
紅茶でも、ものによっては、どーんと高い温度まで上げてしもて、発酵を止めるところもあるけど、うちは発酵が止まらない。だから置いておくと濃くなって、香りも強くなっていくね。この間、8年前の紅茶が出てきて。湿気でカビたりしてなければ大丈夫だから飲んだがやけど、かなり濃くて、もともとの味と全然変わってきちゅうね。
紅茶の摘み取りと加工がだいたい6・7月。そのあとまた刈りならしをして。昔はそのあと三番茶とか、10月頃に秋冬番茶っていうのがあったがやけど。今はやってないので、お茶は7月末でだいたい終わり」
-この地域で、お茶に関してはどのような働き方ができそうでしょうか。
「工場での加工よりも、お茶摘みや刈りならしの農家の方の仕事が中心かな。でも、自分たちが摘んだお茶がこういう風に加工されて売れていくよっていうのを知ってもらうために、工場も一通り見てもらって。」
-お茶が一段落した、夏以降の健一さんの過ごし方はどんな感じですか?
「夏は四万十川で鮎を取って、売って。友釣りか、網で。あとはウナギやエビも取るね。それで秋は栗をペーストにする加工場を手伝ったり、集落の人たちの稲刈りを手伝ったり…」
-高齢化で、稲刈りのお手伝いの需要がたくさんあるんでしょうか。
「そうそうそう。地域で買ったコンバインがあって、それであちこち頼まれたところに行って、刈っちゃる。去年は十数軒行ったね。そういう季節ごとの仕事がたくさんあって。今からだと、柚子の収穫とか、草刈りとか、そういう仕事がさらにどんどん出てくるね」
-四万十に来たら、仕事も遊びもたくさんありそうですね。
「そうそう、魚とりをしたり、川で泳いだり。夏にいちばん盛り上がるのはハヤ釣り。人を連れて行ったら、みんな夢中になって、やめないくらい。秋は鯉釣りもできるね。山が合う人は山登りもできるし、資格を取って、山でイノシシ猟しよう人らもおるし。鮎とりも、漁業権さえ買ってもらえれば、とった鮎を販売してもらって収入にしてもええわけやし」
-農業だけでなく、猟とか漁とかを組み合わせて生計を立てることもできる。
「そうそうそう。いなかの人は、ずっとそうやってきよった。自分もお茶の先生というより、川でじゃばじゃば遊ぶ方の先生かな。せっかくこっちでくらすがやったら、そういう遊びもせんと」
矢野さんの近くにいたら、お茶の仕事はもちろん、地域での生活丸ごとから学べることが無数にありそうです!
農業というと、何か野菜を作ることに専念する、というイメージが強いですが、ここでは野菜も作るし、お茶も作るし、栗も育てるし、加工場へも働きに行く。矢野さんのように、そうした複合経営で暮らしているモデルがいます。
1ヶ月という短い間ですが、インターンシップに参加した季節に応じた農業を垣間見ることができるはずです。
「農業をやってみたい!」という気持ちがあるならば、悩む前にまずはやってみて、「頭で考えてるだけの農業」から「体で感じとる農業」へ理解を進めてほしいと思っています。
高知・四万十川のほとりで、ぜひ中山間地域の農業体験をしてみてください!ご参加をおまちしています。