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いなか仕掛人

NPO法人十日町市地域おこし実行委員会
事務局長 多田 朋孔

多田 朋孔

地域おこし協力隊をつなぐ

取組紹介

全国トップクラスの隊員受け入れ数

 十日町市は地域おこし協力隊の創設期から取り組む先進地域で、市町村としては全国トップクラスとなる延べ33名の隊員を受け入れています。隊員数が多いというスケールメリットが支援の充実を生んでおり、“携帯電話使用料”“資格取得費”“住環境整備費”などの手厚い補助があります。また、十日町市の協力隊制度をゼロから築き上げた市役所担当者と、隊員OB・OGの経験を元に様々な提案がなされており、十日町市への移住者向けナビサイト「さとナビ」や、首都圏からのボランティア・農業体験者向け無料高速バス「グリーンライナー」、協力隊応募希望者向けの「事前現地ツアー」などが生み出されています。

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奇跡の集落「池谷」

 NPO法人十日町市地域おこし実行委員会の拠点がある池谷集落は、新潟県中越地震により廃村寸前になりながらも、地域住民が立ち上がって限界集落を脱した“奇跡の集落”と呼ばれています。住民20名の小規模集落ですが、「日本の過疎の成功モデル」を目指して地に足の着いた活動を行っています。廃校になった分校の維持管理しながら、農業体験やボランティアの受け入れを行い、米をはじめとする農産物の生産・直販事業などを行っています。行政と連携した“学校給食の地産地消プロジェクト”や“移住者用ナビサイトの管理”、“インターンシップのコーディネート”なども行っています。NPOと行政が連携することで奇跡の集落池谷のノウハウが十日町市をはじめ新潟県内にフィードバックされています。

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ココがスゴイ!

ゼロから作り上げた協力隊受け入れ体制

 十日町市では、地域おこし協力隊を集落に導入するためには、まず「地域おこし協力隊を入れたい!」という提案を集落の人々が市役所へ出すことが必要です。その提案を受けた行政担当課は、地域おこし協力隊募集の手続きを踏み、募集をかけます。そして、希望者を募り、「事前現地ツアー」を実施し、地域を巡ります。このツアーがマッチングの機会となっており、協力隊を希望している集落の方々から「こんな人に来てほしい」という発表の機会があり、参加者側も「この地域でこんなことがしたい」というような自己紹介プレゼン行うという面談・マッチングの機会があります。最後は、集落の人たち同士でどの人に来てほしいか希望をまとめ、行政担当課へ伝え、その方に採用通知が送られるそうです。
 この丁寧なプロセスを経ることで、ミスマッチを防ぐとともに、行政主導ではなく、協力隊を受け入れた責任の一旦を地域側も担わざるをえなくなっています。結果、協力隊を受け入れた後の地域と行政とのトラブルを少なくしています。
 このプロセスは、市役所職員と隊員がゼロから手探りで「地域おこし協力隊とは?」というものを考え、数々の問題点や苦悩を経て編み出された証であり、マッチング・受け入れ方法のノウハウが詰まっています。 
 また、協力隊OB・OGによるアドバイスや改善案などが現在の運営に活きています。豊富な実績に基づく制度や支援が整っていることや、隊員同士で相談できる仲間が多いこと、OBやOGのサポートがあることなど、参加する隊員にとっては心強い環境が揃っています。
 十日町市のキーマンとして、“元隊員”であり、“移住者”でもある多田さんの存在があります。「ここで生きていく」という強い意志を持った多田さんの生き方は、協力隊やインターンの良き手本となり、相談役やコーディネーターとして大きな影響力を発揮しています。

日本の過疎の成功モデルを目指す大きな視点

 「池谷・入山地区の集落と農業の継続を実現しつつ、全国の過疎の集落が抱えている集落存続問題の成功例を示す」という理念の下、人口20名の集落の活動を通して、広く全国に通じる解決策を示すという大きな視点で取り組まれています。NPO法人十日町市地域おこし実行委員会が行っている取り組みは、日本中どこの過疎地域でも取り入れられるような汎用性のある案なのですが、地域おこしにありがちな“一過性のイベント”や“抽象的な理想像”で終わることなく、集落の存続に必要な「住居・人・仕事・収入」といった本質的な部分の解決策まで見越し、それを“1つ1つ着実に実現”して成果を積み上げていることで住民や関係者の信頼を築いています。「思い描く状態にするために今は何が必要か?」「それをするべき時期はいつか?」物事を進める判断の的確さが際立ちます。

NPO法人十日町市地域おこし実行委員会

 

困りごと

やるべきことを着実に

 NPOとしては、自前の収入で職員の人件費を賄える体制を整えていきたい。あと、行政からの委託事業が増えると集落外の活動に時間を取られがちになるが、地元の農作業という足元の部分の活動が疎かにならないように、外部活動とのバランスを取りながら運営していきたい。インターンや移住定住を促進する次の手として、受け入れ地域に必要となる「住居」を確保するためのモデル事業を計画中です。低価格のシェアハウスをまずは自分たちの集落に自前で建設してみて、その仕組みを広く展開していくよう行政に提案して行く予定です。

優秀な隊員の確保と移住定住策

 協力隊制度が一般化してきたことで応募のハードルも下がり、応募者の意識や能力が以前の隊員に比べて小粒になってきています。東日本大震災以降西日本の自治体に応募者が流れる傾向にあり、募集する自治体も増えたことで、自治体間での“応募者の争奪戦”になっています。優秀な隊員の確保が今後の課題であり、地域独自のインセンティブをどれだけ見せられるかがカギです。また、行政担当者としては退任後の隊員の定住をサポートする施策を打ち出したいが、元々の住民の就職や経済状況が厳しい中、隊員だけを特別扱い出来ないという事情が目下の悩みです。

NPO法人十日町市地域おこし実行委員会

本ページは、平成25年度 地域をフィールドとした産業人材受入のための環境整備のあり方に関する調査事業(実施:四国経済産業局)において調査した時点のデータを活用して作成したものです。