尾鷲商工会議所
総務課長補佐 伊東 将志
商工会議所が若者をつなぐ
取組紹介
日本初!商工会議所コーディネートのインターンシップ・プログラム
尾鷲商工会議所では「最強の商工会議所づくり」を目指し、平成24年4月より日本初の商工会議所が主催する「長期実践型インターンシップ・プログラム」を実施しています。このインターンシップ・プログラムは、尾鷲商工会議所の職員である伊東さんが平成19年に株式会社熊野古道おわせへ出向した際に、同社で受入を行ったインターンシップが前身となっています。
伊東さんが出向から会議所へ戻ったことをきっかけに、「金銭面の経営指導だけでなく、尾鷲の経営者が尾鷲に誇りを持って事業展開し、そこに関わる人材を育成することができれば、地域を次世代に受け継いでいけることができるのではないか」と考え、経営指導の一貫としてのインターンシップ・プログラムを平成24年より実施しています。
インターンシップ・プログラム自体は全国各地で行われている取組みではありますが、このように商工会議所がコーディネート役を担って行う実践型インターンシップ・プログラムは日本初です。現在までに当初「夢古道おわせ」で受け入れるだけだった時期も含めると、合計で39名の大学生が地域外から尾鷲を訪れインターンシップに参加し、14社の企業が学生の受入を行いました。参加した学生からは終了後も引き続き「尾鷲で働きたい」という声が出たり、実際、またイベントを手伝いに帰ってくることがあったり、大学卒業後実際にIターンして尾鷲の企業に就職するという事例もでてきています。
高校生に対してもインターンシップを導入
これまでに培ってき長期実践型インターンシップ・プログラムのノウハウ活かして、高校生のインターンシップも今年度実施されました。具体的には事前授業4回、インターン日数は3日のショートプログラムで、インターン期間中は常に歳の近い若手社員と共に行動し、「何で働いているのか」、「何がやりがいなのか」を高校生にわかってもらうような「職業感」を得ることができる場を提供するというものです。このような取り組みを経て、地域にある仕事に興味関心を持ち、尾鷲で仕事をすることに誇りを持てるように。大学で外に出たとしてもまた尾鷲に戻ってきたいと思える子どもを育てられるように、次世代育成も視野に入れながら、取り組みが行われています。
ココがスゴイ!
商工会議所の会員事業者すべてがインターンシップ受入先候補になる
尾鷲商工会議所には現在900軒の会員事業者がいます。この会員すべてがインターンシップ受け入れ企業の候補として捉えられることができます。通常の長期実践型インターンシップでは、受け入れ企業の開拓にコーディネーターは苦労しますが、尾鷲では商工会議所会員であることからコーディネーターと企業との信頼関係がすでにできており、比較的簡単に地域企業へインターンシップ・プログラムの導入ができます。このことが地域事業者の間で広がることによって、地域全体で「若者」や「よそ者」を受け入れられる力がつき、さらにインターンを活用した事業開発が進むことにもなるので、地域の中に「仕事をつくる」ということと「人口を増やす」ということの両方を実現させることができます。
地域の理解を得るコツは「わかりやすい内容のプロジェクト」を組むこと
インターンシップ・プログラム導入開始当初は、インターンシップに対する地域住民の認知度はかなり低かったそうですが、対外的に分かりやすい内容のインターンシッププロジェクトを組むことで、必然的に注目度があがり、「インターン」という存在が地域の中に理解されていきます。例えば、今や全国400箇所以上の温浴施設で広がっているキャンペーン企画「100のありがとう風呂」(※1)は、温浴施設「夢古道おわせ」でインターンを受け入れ始めた当初、インターンと一緒になって事業開発したプロジェクトです。インターンを積極的に活用し、戦略的にメディアへの露出を高めることで、テレビや新聞など様々なメディアがその取組みとインターンである若者を紹介してくれ、キャンペーンへの反響もさることながら、インターンである若者の活躍が地域の人たちの目に多く触れ、インターンシップそのものが理解されることになりました。
(※1)「ありがとう風呂」は、夢古道おわせが主体となり、5月の母の日や6月の父の日、9月の敬老の日に、全国の温浴施設で一斉に開催しているイベントで、20年~30年生の尾鷲ヒノキの間伐材を活用し、円柱状に加工したものをスライスし、それぞれに「ありがとう」のメッセージを書いて湯船に浮かべるというキャンペーンです。
受け入れ先企業に対するフォローがしっかりしている
インターン生の受入れ前と受入れ後に、受入れ事業者を対象とした意見交換会を行っています。受入れ開始前の不安の共有から、受入れ後に見えてきた新たなる課題まで、積極的に意見をフィードバックし合うことで、プログラム全体のレベルの向上を図っています。この取り組みが地域全体で若者を受け入れ、人材育成していくことの重要性を共有していく場になり、コーディネーターと受け入れ企業との信頼関係も構築することができる場になります。
困りごと
若者の移住、定住対策
尾鷲商工会議所ではインターンシップ・プログラムの運営は行ってはいるものの、その先にある若者の移住、定住対策という大きな地域課題にまで踏み込んだ対応は行っておらず、これが課題となっています。この課題の解決案の1つとして、インターンシップ・プログラムとは別に、シェアハウスなどの滞在施設を用意し、そこに泊りながら、何らかのチャレンジができるような仕組みづくりができないか検討しています。
受け入れ先企業の費用負担と事業規模
インターンの受入に際して、宿泊代等を含め、一定の事業者負担が必要になっており、これまでにインターン生を受け入れてきた企業は、偶然にも、それなりに資金力のある企業ばかりでした。また、コーディネーターの人件費は、行政事業でまかなわれていましたが、これからはかかる経費を誰が負担していくか仕組みをつくる必要があります。
一定事業規模以上の企業でしかインターンシップを導入することができないような状況ではなく、事業規模に左右されずに、1人親方や零細企業にもインターンを送り込めるような状況を作り出せるよう、検討を行っています。