NPO法人学生人材バンク
代表理事 田中 玄洋
学生を集落活動へ継続的に受け入れる
取組紹介
学生人材バンクは、2002年に鳥取大学の学生活動としてスタート。2008年に法人化し、現在の組織となりました。鳥取県内の大学生に対して、ボランティアやアルバイト情報などを提供し、農山漁村を中心とする地域の集落活動に学生を送り込むという事業を展開しています。
現在の会員数は、メール登録者で2200人。この内、情報を提供し、ボランティア等に年1回は参加するという学生は約200人。さらに、複数回よく地域に通う学生は約40人。学生ボランティアスタッフとしても40人携わっています。鳥取大学の学生総数は約6000人ですので、3分の1の学生へ情報を提供できる環境があり、これが強みとなって活かされています。
この取り組みが鳥取県より注目され、2004年から「農山村ボランティア事務局」としての委託をうけ、県の事業として全県下で取り組まれるようになりました。当初の受け入れ地域としては13集落でしたが、平成24年度は、30集落、活動回数58回、延べ参加人数532名となるまで広がっています。この取り組みは、9年間も続いており、財源としては鳥取県が「鳥取県中山間ふるさと農山村活性化基金」を造成し、その運用益を活用しながら継続的な活動が行われています。
ボランティア活動は、集落が主体的に実施する地域行事である祭りや草刈などの地域清掃、イノシシ対策の金網張りなど、農地保全につながる地域の共同作業であれば何でもOKとされ、集落の地区長さんなどから受け入れ希望を受け、面談した上で、学生を送り込みます。「学生にやらせとけばいいじゃないか」というような地域の主体性に欠けるような依頼は面談の段階でお断りをしているそうです。
このような取り組みに関わった学生が卒業後「鳥取に残りたい!」と新規就農につながったり、つながりができた集落の空き家を活用して民宿をひらく若者が現れたりと、移住につながる事例もでてきています。
ココがスゴイ!
集落に安定的に学生を送り込める仕組みができあがっている
これだけの数の学生を毎年安定的に地域に送り込むためには、学生を集めてくる仕組みと、受入地域との関係を保つ仕組みが必要になってきます。
学生集めは、先輩が新入生に大学を紹介する「入学ガイダンス」のときに、学生スタッフ自身から大学にお願いをし、新入生に自分がやっているプロジェクトの紹介をし、メール登録等を促すそうです。そして、毎年安定的な学生の確保につながっています。また、特徴としては、鳥取大学農学部は1学年150人程度いるものの、農作業をする機会としてある「農場実習」の授業は40人定員で抽選となるため、農学部であっても学生自らが行動しなければ農作業経験なしで卒業にいたることになります。そのため、農村地域で何か実践する機会がほしいと思う学生は多く、モチベーションも高いということで、学生募集にはそこまでの苦労はなく、地域からの依頼は、休日に、多くても学生10名程度であることが多いため、問題なくボランティアが集まります。
受入地域については、9年も実施していることもあり、「学生人材バンクに頼めば若者を呼んでくれる」という認識が広がっており、地区長さん同士の紹介で連絡をもらうこともあります。また、若者や移住者が集落の中に入って暮らしていく場合、地域理解を得るための時間がかかる場合が多いですが、学生人材バンクの場合は、すでに学生ボランティアを送り込むことで地域からの信頼を築いているため、移住したいという若者が現れたときのコーディネートはスムーズに行われます。
学生を地域に送り込むコーディネートノウハウが、社会人の若手人材育成に生かされている
最近では総務省事業の「地域おこし協力隊」の隊員が全国各地で活躍していますが、「地域に来てもなじめなく悶々としている」という若者もおり、そういった若者を行政担当者もなかなかフォローできないということから、地域おこし協力隊のバックアップサポートを、ボランティアコーディネートで培ったノウハウが活かされ行われています。
また、企業に勤める若者で「コミュニケーションがとれない若者」が増えてきているということで企業担当者から相談を受けることもあるため、そのような企業若手人材育成ニーズに応えていく研修等も実施できそうです。
困りごと
コーディネートする価値やそこにかかるコストを理解してもらえない
行政事業を9年も実施すると「学生人材バンクのための事業じゃないか」とか、「なぜこんなにお金がかかるのか」という声や、地域のニーズも考えずにただ「ボランティアを増やしてください、受入地域数を増やしてください」という要望が出てくるようになり、担当者の引継ぎがしっかりされないまま、担当が入れ替わり委託事業が進められるようになってきます。
そのため学生人材バンクとして、毎年安定的に学生を集落に送り込めているという価値や成果をうまく表現し伝えたり、ボランティアのモチベーション維持のために実施しているような面談等にかかっている目に見えにくい労力・コストがかかっていることをしっかり伝えていく工夫をしていかないといけません。
コーディネーターとしてのノウハウやマインドの継承が難しい
コーディネーターとしてのノウハウや地域とのつながりなど、どうしても属人的にならざる終えない部分が多くなります。そこをどのようにスタッフに伝えていくかが苦労するところです。ましてや、学生は毎年卒業とともに入れ替わっていきます。コアで関わる学生ボランティアスタッフが40人ともなってくると、ノウハウや組織の文化なども含め、感覚的にやってきたことをどうカタチに残し、継承していくかがこれからの課題です。