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いなか仕掛人

NPO 法人グリーンバレー
サテライトオフィス担当 樋泉 聡子

樋泉 聡子

空き家を活用した新しい仕事場

取組紹介

創造的過疎

 国の人口推計でいけば、40年後には1学年3~5人になる計算ですが、今から年間5組のファミリー層が移住してくると、数十年後も一学年20人の子どもたちが村にいることが実現します。“創造的過疎”というこのビジョンに基づいて、移住希望の方にアンケートをとり、仕事や移住に対する想い、背景などを丁寧にヒアリングして伺う移住支援がなされています。これまでのべ44世帯82名(平成20?24年度)が移住しており、2011年には、神山町が誕生した1955年以来初めて社会動態人口が増加に転じ、過疎地域からの脱却の一歩を踏み出しています。

「サテライトオフィス」および「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス(KVSOC)」

 2010年より、地域にある古民家を改装して、東京や大阪など都市に本社がある企業に貸し出し、衛星拠点としてオフィスを構えられる「サテライトオフィス」という仕組みを実施しています。神山町では、光ケーブルの整備が全戸に行われ高速インターネット回線が使えることから、インターネットさえつながればどこでも仕事ができるというようなIT系の事業者がサテライトオフィスを構えられる環境が整っており、その企業と地域とのコーディネートを行うのがグリーンバレーの役割です。
 現在では10社の企業がサテライトオフィスを構えており、サテライトオフィス設置によって、社員の家族が移住したりすることで約16名の移住者が増えたり、雇用が創出され、約27名の地元・県内雇用が創出されたりなどの波及効果がでています。
 また、2012年には、元・縫製工場だった施設を改装し、コワーキングスペース(共同の仕事場)をオープンさせました。現在はドロップインの1日からの利用者や、個人メンバー3名、スタートアップ1名、企業2社が入居しており、フリーランスで活動するクリエイターや、ネット環境さえ整えば場所を選ばないIT企業など、流行をつくり出すクリエイティブな企業や個人事業主の入居が多いことが特徴です。常駐スタッフも完備し、3年のうちに10社入居を目標に、企業誘致を進めています。

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神山塾

 求職支援活動の一貫として、厚生労働省の認定を受けた職業訓練校として、2010年から始まりました。職業訓練校というと、公共職業訓練校や民間職業訓練校で会計、福祉、パソコン、宅建などの技術や資格を取得するのが一般的です。それに対し神山塾は、半年間神山で暮らしながら、地域の行事にも参加する、自分たちでもイベントを実践していくのが特徴です。
 いなかで暮らそうか都会で暮らそうか迷っている新卒や、卒業後海外留学して帰ってきた後に自分の居場所を求めてくる人など、受講生の多くは30歳前後の若者層です。求職支援なので、学生でも卒業してハローワークに求職願を出すと、受講資格が得られます。
 神山塾はあくまでもきっかけ作りで、主体は本人。塾が終わった4時半から次の日の朝の9時半まで、半年間何をして過ごすか、神山町の暮らしの中から本人に気づいてもらうというのが方針です。これまで受講生60人のうち3割が徳島県内で就職し、徳島県内の労働人口増加に寄与しています。

 

ココがスゴイ!

新しい働く場を創造

 「仕事は都会のオフィス街で」という固定観念を覆し、環境を整えさえすれば、地方でも、山の中でも働くことができるというモデルをつくり、「新しい働き方」や「新しいオフィス環境」を創造し、現代社会に提案しているところがスゴイところです。また、それに伴い、移住者や地域に雇用をつくるということを行い、オフィス環境を変えたいという都会のニーズと、過疎化の課題を解決したいという地方のニーズに応える取り組みとなっています。

将来像を共有し、新しいことを柔軟に受け入れる地域

 ITビジネス、有機農業、コミュニティビジネスを展開する団体など、様々な職種の人が「せかいのかみやま」というとおり、世界各国から集まってきており、それらの人々が「創造的過疎」という考え方を共有しつつ、神山の将来像から今を描いています。
 そして、グリーンバレーの事業内容も、職業訓練校、サテライトオフィス、アーティストインレジデンスなど、今までになかったことを取り組んでいるので、これまでの神山町の産業と競合しません。地域にあるものを使って、新しいことをやっている。町全体に「気の合う人が集まって気の合うことをやっていこう」という淡々としたクールさがあり、合わない人を無理やり巻き込もうとはしていない。「来る者拒まず去る者追わず」で、温かいけれどクールという距離感が、都会から来た移住者にとっても居心地がいいのではないでしょうか。

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困りごと

神山塾の広報と事業運営サポート

 4・5期は人集めに苦労しました。5期の募集では、13人の応募のうち、実際に来たのは8人でした。現在の応募は、Web広告媒体を活用したり、グリーンバレーからの情報発信など、ネットベースの情報を見て来る人がほとんどです。人数が少なくても社会的な価値は高いと考えているのですが、14人くらいの人数がいなければ事業性は小さく、社会性と事業性のバランスを維持することが課題となっています。
 また、グリーンバレーの知名度が高まり活動の幅が広がると同時に、神山塾も、塾の存在意義や質を問う段階になってきました。今後、事業コンテンツ・カリキュラムの見直しや、メンタルサポートをする専門家や講師とのさらなる連携も必要になってきています。

地域の実態に応じた制度づくり

 30アール(約3000平米)の土地を農地として利用していると農業従事者として認められます。家族で移住してきて家庭菜園をやりたいという人は多いですが、法律手続きをしないと、厳密に言えば闇小作になってしまう。そんな例は全国に山ほどあるので、いちいち表ざたにしないのが通例ですが、田舎で年収200万円以内で生計を立てていこうとしている人が多いという現状で、耕作放棄地の開放や、古民家の有効利用がしやすい制度があればよいと思います。

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本ページは、平成25年度 地域をフィールドとした産業人材受入のための環境整備のあり方に関する調査事業(実施:四国経済産業局)において調査した時点のデータを活用して作成したものです。