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いなか仕掛人

糸島シェアハウス
新米猟師・ライター 畠山 千春

畠山 千春

家族経営型シェアハウスでの新しい暮らし方

取組紹介

くらしをつくるシェアハウス

 食べものやエネルギーなど、くらしを支えるものが手元にやってくる過程が見えにくくなってしまっている現代の生活。見えない大きな何かに依存したくらしから一歩進みたいと考えたからこそ「自分で生き抜く力をつけたかったんです」と語る畠山千春さん。去年、築80年ともいわれる古民家の糸島シェアハウスをスタートさせた。ここには、”自分たちでくらしをつくる”を実践する為にさまざまな個性をもった人が集まっている。「烏骨鶏を育て、猪を狩り、自分たちで絞め、捌いた肉を食べる」「リノベーション」「太陽光パネルでの発電機設置」「オンドル(韓国式床暖房)設置」など極力必要なものは自分たちでつくることを大事にしている。猪の肉をiPhoneと交換するなど、”物肉交換”にも取り組む。それもあってか、月の食費は約5000円ほど。

糸島シェアハウス

おうちマルシェ&ワークショップ

 定期的にマルシェが開かれるが、ここではシェアハウスの「居間」を使ってマルシェが開かれる(普通であれば野外で行われることが多い。)地元の人や移住者が集まり、1回の開催で70人程が集まる。同じ場所を使って、養鶏の現状といった座学と体験を丸一日かけて行う「鶏をしめて食べる」などのワークショップも開催される。自分たちの場を活かしながら、自分たちが外に出なくても稼げる仕組みづくりと同時に、地域の人のコミュニティづくりも行う。

糸島シェアハウス

ココがスゴイ!

一人一芸

 糸島シェアハウスに集まる住人は「一人一芸」を条件に集まっている。例えば、運営者の畠山千春さんはイベント企画/メディア発信などの「広報」と猪などの「狩り」がメイン。もう1人の運営者、志田浩一さんは猟師で料理人、他にも、農業を勉強している子は「農業」、音楽家は「音楽」、酒蔵に務める女の子は「発酵」、など各メンバーの得意分野を活かした担当が決まっている。できないことをカバーし合えるメンバーが集まっているのが心強い。また着付師と写真家の双子の姉妹は、古民家であるシェアハウスをスタジオにして、着付けして写真の撮れる「古民家撮影」としての仕事もつくっている。くらしの中にある「しごと」も個性を合わせながら生み出す。家族のような存在であると運営者はいうが、まさに”家族経営型シェアハウス”とも言える。わざわざ外に出なくてもできるだけ自分たちの力で暮らしをつくっていこうとする姿勢はこういった点にも見られる。ちなみに、現在は大工(芸)ができる人を求めている。男女比は半々。

閉じ込めずに情報発信をしている

 田舎でくらすことは、良いこともあるが、必ずしもそれだけない。田舎ぐらしは”みなが思ってるほどユートピアじゃない”とも言える。古民家はまだ改修中で、寒い冬を越すのにまだまだしなければいけないことが山ほどある。また、田んぼや畑の作業は天候によって大きく左右されるし、なかなかの体力勝負だ。農機具の貸し借りを行う際はご近所さんとの信頼関係を築いていくことも大切になってくる。実は田舎のくらしは都会とは違った忙しさがあるのだ。何百年と美しい景観を残してくれた、その土地に昔から暮らすひとにどれだけ敬意を払えるかといったことも大事である。そういった情報を包み隠さずにオープンに発信していこうと”メディア”の役割も担っているのが糸島シェアハウスでもある。「外に依存しすぎずに自分たちだけで暮らしをつくっていく」とは言っても、外との関わりを断つのではなく、自分がいる地域とのコミットを意識してくらしをつくっている。恐れずに発信できるのはスゴイ!

糸島シェアハウス

 

困りごと

集落をつくる

 糸島シェアハウスのいまの取り組みは、一つの実験でもある。今後の展望として、シェアハウスという形ではなく、いつかは村のような集落まで規模を拡大できたら、と考えている。現在は独身の人たちが住んでおり、自分たちで畑と田んぼをやり、野菜を採ったり肉を獲ったりしてるが、いずれ住人たちが結婚して家族ができたときのことを考えている。そのときは、家族同士が近くに住み助け合えるような村づくりを進めていきたいとのことだ。そうやって自分たちと同じビジョンを持つ人たちが集まる場づくりをしていく。そしてゆくゆくは村のなかでの”地域通貨”なども取り入れていく予定だ。一番近いところでの糸島シェアハウスの動きとしては、古民家内にカフェをつくることなのだそう。

糸島シェアハウス

地元民のニーズを把握する

 今いる場所でコミュニティを作っていく為には、そこに住む人たちが”何を求めているのか”に目を配っていかなければいけない。ただ単純に新しい移住者が増え、産業ができ、観光が活性化すればいいかというとそうではない。何の計画もなしに観光化が進むと、そこのカルチャーや人が消費されて終わってしまう可能性があるからだ。例えば、もしこの地域に沢山の人が訪れるようになれば、野菜や果実の収穫量を増やすために畑に農薬をまいてしまうかもしれない。観光や移住の活性化など、新しい動きを受け入れるには受け入れる側にもそれなりの覚悟とパワーがいるもの。ここの穏やかな日々の暮らしが変わってしまうこともあるかもしれない。この場所の価値をしっかりと見定め、この地域の人たちが何を求めているのかを知ることが大切だと考えているのだそう。

糸島シェアハウス

本ページは、平成25年度 地域をフィールドとした産業人材受入のための環境整備のあり方に関する調査事業(実施:四国経済産業局)において調査した時点のデータを活用して作成したものです。