土木工事のとらえ方。
2012/09/13
畑山に来る前、
土木工事がとても嫌いだった。
・・・“来る前”ということで
今では考え方が180度変わって嫌いではなく
土木工事のおんちゃんたちに敬意の念さえ抱くようになっている。
けれど、嫌いだった頃、
私なりの理由があった。
家の前が埋め立てられ、
山の法面がコンクリートに覆われていく。
緑であふれていたところが
どんどん、ねずみ色になっていった。
ガードレールも
無くても良いじゃないかと思うところへ
どんどんと設置されていく。
漁業が衰退し、
近所のおんちゃんの出稼ぎ口の一つに
土木工事の「旗振り」(交通整理)があったことも
好きになれない理由だったかも知れない。
でも、なによりも
海の青と空の青、山の緑の中に
異色な物がどんどん増えていくことが嫌だった。
私の好きな故郷の景色を変貌させていく土木工事。
とても好きにはなれなかった。
だから、畑山に初めて来た時、
とても心踊った。
車幅ほどしかない道には、
コンクリートも、ガードレールもほとんど見当たらない。
のみで削りとっただけのような崖には、
無数の植物が息づき、幾つもの滝が現れ、
道路のすぐ下を流れる川は、見たことのないほど澄み切っていた。
ガードレールの代わりは大きな木々や草木が務めていた。
でも、畑山に来て、
土木工事への見方、考え方が180度変わった。
土木工事は、なんて有り難いんだ、と。
私たちが育てている
高知県の地鶏「土佐ジロー」を食べるため
畑山へは、全国から年間5000〜7000人が
約15km続く、ひたすら狭くて曲がりくねった県道をやってくる。
時には、こんなに大きな林業作業車や
工事用のダンプと行き合うため
大型車よりも小さな車が後進せざるを得ない。
初めてのお客さんは特に、道に驚いて畑山へやって来る。
「ドライブじゃなくて、攻めるような道ですね」
「スリリング」「とっても怖い」
時には怒りながら入ってくる人もいる。
「道を間違えたわ。他に道があるんでしょ。」
こちらはいつものことなので、苦笑い。
とにかく、我が家の「土佐ジロー」を食べてもらい
道のことは忘れてもらうことに徹する。
1〜2時間後
「また来るわ」
「次はもう少し小さな車で来なきゃ」
そんな言葉が出ると、こちらのもの。
「3回来たら慣れるそうですよ」
そう笑って返事をする。
そうは言いつつ、私も嫁に来て、すでに数回
ガードレールと友だちになり
愛車をガリガリとこすってしまった。
せめて、もう少し道がよくなれば…と思ってしまう。
人口約60人の畑山への行き止まり県道に
公的な予算が付くことは難しい。
それでも、ここのところ毎年のように
年から年中、道路の拡幅や補修工事が続いている。
一重に土佐ジローを食べに来るお客さんのおかげ。
土佐ジローさまさま。
けれど、工事が始まると
数十mの区間を広げる1つの工事で
数ヶ月の間、1時間に10分しか通行できなくなる。
時間を気にせず通れるのは、日曜日だけ。
畑山へ来る道はこれ1本しかないため
客商売をする我が身にとっては
とても痛手だが、将来のため致し方ない。
それに間近に見る工事は
見ていて飽きない。
上の写真も、土留めの赤い鉄の部分から
直立に切り立っていた崖だったのが
あれよあれよと、拡幅されていった。
いや、お見事。
この工事は10月末まで続くという。
さて、人工物に覆われてないせいか
はたまた林業に力を入れられないがゆえか
比較的豪雨に見舞われる畑山では
土砂崩れ、いわゆる「道がつえる」ことは日常茶飯事。
私はこの土砂を乗り越えて行ったけれど
1日3便ある公共の定期バスは通行不可。
崩れるたびに、
いつもお世話になっている建設会社に連絡を入れる。
親切な社長さんが、ショベルカーを自ら運転してやって来て
数時間のうちには、取り除いてくれる。
こんな土砂崩れでお客さんを逃してしまったことは
多々あるけれど、畑山で生きるなら覚悟の上のこと。
先月は泊まりのお客さんが
畑山にいる間に道がつえてしまった。
数時間で通れるようにはなったものの
お客さんは
「よくあるんですか?皆さん、慌てないんですね」
そう笑って宿を後にしていった。
そうよくあるんです(笑)
それに
「上から来たものは、大丈夫。
下がやられたら、大変だ」
ということ。
嫁に来た直後に、夫に言われた言葉で
確かにそのとおり。
土砂崩れは、ショベルで押してもらえば取り除けるけれど
下の道自体が流されたら暫く復旧の目処が立たない。
だから、土砂崩れよりも
下の道が持っていかれそうな場所がないか
気をつけて見るようになった。
私も一歩、畑山人になったな…と思う瞬間。
ただでさえ狭い県道がさらに狭くなる季節がある。
梅雨時と秋ごろ。
コンクリートに覆われてない山の斜面は
草木の生命力を見せつけるにはもってこい。
そんな季節には、県から草刈りの作業依頼が入る。
延長約15kmの草刈りを
地域で請け負っている。
地域で請け負うとはいえ
超高齢化の進む畑山では
50代の夫と40代の義弟、
我が家で働く30代の従業員と
移住してきた30代の若者の仕事になる。
こんな作業を手伝える若い世代の移住者が
あと数人欲しいなぁと願うところ。
豪雨続きで、晴れ間の乏しかった畑山だったが
ある日の夕方、親戚のおんちゃんがやってきた。
「シシを捕ったけん、さばく」と。
新聞記者の時から、
シシをさばくところを見てみたいと
思ってたので、これ幸いと仕事と子守りを放り出して
川原へ繰り出してみた。
20人近くの仕事を終えた猟師が
のんびりと構えている。
橋の下には、猟師特製のものが。
川の水を組み上げ、
シシの皮をはぐための湯沸かし器。
そばには薪も。
猟師のおんちゃんたちは
60kgほどのシシを手際よくさばいてゆく。
生き物の尊さ、有り難さを感じ
水の使途の深さ、有り難さを感じた出来事だった。
都会では体験できないことが
田舎でも非日常でしか経験できないことが
畑山ではけっこう日常的なことだったりする。
だから、畑山暮らしがヤメラレナイ。