なんかいい、ここがいい!

2012/12/12

顔の写真
執筆者 本澤侑季
所 属馬路村農協

 

馬路村で暮らし始めてから半年が経とうとしています。

日に日に勢いを増す寒さに、毎日驚いています。

山に囲まれた村なので、冬は雪景色になるかと思いきや、

『雪はめったに降らん。けんど寒い。』

のだそうです。

村の人からはよく、『馬路の冬を知らんか。まだまだこんなもんじゃないぞ~。』と脅かされます。

身の凍るような寒さに恐怖を覚えつつも、霜が降りて真っ白な朝や、

キンと冴えきった朝の空気も、なかなかいいものだなぁと感じています。

 

ゆずの収穫期を迎えた10月から12月までは、慌ただしくあっという間に過ぎていきました。

特に最盛期の11月はゆず畑に行くと必ず誰かいて、忙しそうに賑わっていました。

 

今回は初めて迎えたゆず時期と、半年間暮らしてみて感じていることを書きたいと思います。

 

 

●ゆずの収穫最盛期

ゆずの収穫が1番ピークを迎えるのは11月中ごろで、

今まで青みがかっていたゆずも一気に黄色く浮かび上がります。

畑に行くと、人の話し声やラジオの音、ゆずを摘む音が聞こえてきます。ゆずの匂いもします。

朝から夕方までせっせとゆずをとり、夕方になると農協のゆず集荷場は、

収穫後のゆずをたくさん載せたトラックで賑わいます。

畑でも、道端でも、集荷場でも、合言葉のように『せわしい(忙しい)ねぇ。』という言葉が飛び交い、嬉しい悲鳴が聞こえてきます。

 

ゆず収穫真っただ中の大雨のある日、面白い光景を目にしました。

その日は外に出るのをためらうほどの大雨で、さすがにゆずとりもしていないだろうと思っていたら、

どこからかゆずの香りが漂ってきました。

香りをたどってみると、車庫の中に大きなゆず山が出来上がり、わいわいと盛り上がっていました。

 

大きなゆず山

 

『今日は雨じゃきに、午前中皆でとって中で摘みよらぁよ。』

あいにくの雨にも関わらず、ゆずとりをして中でへた摘みをしているようです。

今日は高知市内や県外から子どもや孫の強力助っ人隊が来てくれたようで、

車庫には笑い声が絶えず、賑わっていました。

 

『その富士山ちとこっちへ崩してん。』というおばちゃんの声に、

誰かが勢いよくゆず山を崩そうとすると、

『いかんいかん。がい(乱暴)にやったらゆずに失礼よ。』と怒られていました。

 

ゆずの富士山も、ものの半時間ほどですっかりきれいになくなっていました。

 

 

●ゆずとり手伝い

私も、ゆずとりを手伝わせてもらいました。

畑が山の上にある、ということで細いでこぼこ道を車でしばらく登っていくと、

そこにはまるで秘境のような景色が広がっていました。

 

馬路村:秘境のような景色

 

画面の左下と右下に黄色く見えるのがゆずです。

 

さっそく道具を借りて、ゆずとりスタートです。

木の高いところにもゆずがたくさんなっているので、

まずは高枝切りバサミという柄の長いハサミでゆずを枝から摘むのですが、

摘んでも摘んでもまだまだ上に残っていて、ずっと上を見上げているのも、腕を上げているのも、

なかなか首や肩に負担のかかる作業だと感じました。

これを毎日続けている農家の方たちは本当にすごい、と思いました。

 

馬路村のゆず

 

枝から摘んだゆずは、小さいハサミで枝葉を摘んでいきます。

ゆずを摘むパッチン、パッチンというリズムが心地良く感じました。

 

ゆずをとり終えて、カゴに集まったゆずを見た時の達成感と、

皆で食べたお弁当の美味しさはひとしおでした!

 

 

●イノシシ追い山猟解禁

11月15日はイノシシ追い山猟の解禁日。

追い山猟は、数人でグループになって山に入り、猟犬にイノシシを追わせたところを仕留めます。

この解禁日は猟に行っても行かなくても、猟の仲間で解禁のお祝いの宴が開かれます。

おいしいシシ肉と、猟の昔話を肴に、秋の夜長を楽しみました。

 

●はしけん大会

はしけん大会

 

11月30日は毎年恒例の『はしけん大会』でした。

それぞれ赤い箸を3本ずつ持ち、対戦相手と箸の合計本数を当てて競う遊びで、

負けた者は杯のお酒を一気に飲み干さなければなりません。

女性も男性も関係なく、真剣勝負。外の寒さを忘れるくらいに白熱した闘いが繰り広げられました。

 

●熊野神社の神祭

毎年、はしけん大会の翌日は熊野神社の神祭です。

その日は村の若い衆のかつぐ神輿が村内を練り歩き、沿道では多くの人が神輿を見に集まってきます。

 

熊野神社の神祭

 

神輿がくると、祈願をして神輿の下をくぐります。

 

祈願をして神輿の下をくぐります

 

翌日は奉納の神楽も舞われます。

 

神楽の舞

 

そして神祭の夜はもちろん大宴会。

今年は、コクヤと呼ばれる大工小屋によんでもらい、山芋汁やシャモ鍋、

シシ鍋、田舎寿司をごちそうになり、大人数で盛り上がりました。

 

宴会の席で、馬路のおかあさん的存在のおばちゃんがいっていた言葉が心に残りました。

『あたしは馬路が大好きやき、よそから来た人も馬路が好きで来てくれたがやったらすごく嬉しい。』

『けんど、ただ職のためだけにきて用がなくなったら出ていくというのは、がっかりするねぇ。』

 

初めて村を訪れた時、村の人がすんなりとあたたかく接してくれたことが心地良く、

言葉にはできないけど、なんかいいなという印象を持ったことを覚えています。

 

半年を過ごしてみた今、確かに思うのは、人が面白くてあたたかいということです。

農業はもちろん、漁や猟、行事も、遊びも、なんでも真っ直ぐに向かっているところや、

周りの人が気にかけてくれたり、助けてくれるところがあったかいと感じます。

田舎なので人との距離感が近いことに戸惑いもしましたが、やっぱり人がいいなぁと思います。

はじめはなんとなくいいな、という気持ちがほとんどでしたが、今は何が自慢かと聞かれたら、

豊かな自然ももちろんですが、やっぱり人が面白くてあったかいところだと思います。

 

 

 

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