旧高知駅、最後の一日【ドキュメンタリー後編】
2013/01/04
旧高知駅の最後の一日を綴った(つづった)、
高知県民の心の奥をちょっぴり刺激するコラムの後編。
前篇を見逃した方はぜひ前篇からどうぞ。
https://inaka-pipe.net/20121012/
前回の記事にたくさんのコメントと「いいね」をいただいて、
予想以上の反応に正直ビックリした。
と、ともに、
旧高知駅に愛着を持っている方が、
こんなに沢山いたんだな~と、
改めて実感した。
当時、
駅に数時間滞在して、
やけに細かいところまで写真を撮っている姿は、
やや怪しかっただろうけど、
そんな人目を気にせず写真に収めておいて、
本当に良かったと思う。
では記事の本文へ入ろう。
先に言っておくけれど、
今回も・・・長いよ(笑)。
旧高知駅の最後の朝を見守った僕は、
そのまま職場へと向かった。
(最後の日の朝の風景)
はっきり言ってその日は、
仕事のことは二の次で、
頭の中は「晩に再び高知駅に行く」ことしか考えていなかった。
「今日は早く終わらせて帰ろう!!」
と、一日中気合いが入っていたことを覚えている。
仕事が終わり、
再び高知駅へと戻ってきたのは、
21時半だ。(←気合いが入っていた割には遅い。)
半日ぶりに見る高知駅は、
もうすっかり暗くなって夜の姿である。
いつもと変わらぬ夜の姿に見えるが、
もう明かりのつくことのない2階の窓や、
開くことのないシャッターなどを見ると、
一足先の終わりを感じて少し物悲しくなった。
高知駅を利用する人たちの姿は、
いつもと変わらないように見えた。
いや、やっぱりこの日は少し違った。
時間が経つにつれ、
去りゆく高知駅の姿を一目見ようと、
駅に足を運んでくる人々の姿が目に留まった。
高校生と、お母さん。
こういう行動をとれる親子っていいなぁと、
ちょっと感心してしまう。
この日ばかりは、
写真マニアや鉄道マニアという人たち以外の、
ふつうの人たちも、
高知駅の最後の姿を写真に撮っていた。
駅をバックに記念撮影をする人たちもチラホラ見かけた。
女性の姿が多かったのが、ちょっと意外だった。
余談だけど、
写メを撮る姿が、
みんなスマホじゃなくて折りたたみ式の携帯だというところに、
5年近く経過した月日を感じる。
少しずつ、
終わりの時間が近づいて来た。
この日の終電…つまり、
旧高知駅最後の列車は、
23:00発、須崎行の普通列車だ。
いつの間にか待合室のテレビは消え、静まり返っている。
徐々に生気が失われていくような感覚だ。
このまま少しずつ、
静かに終わりを迎えて行くのだろう。
…と、思っていた。
しかし、
実際はそんな感慨に浸るどころではなく、
高知駅は時間を経ると共に、
賑やかに…いや、
慌ただしくなっていった。
まだ終電も終わっていないにも関わらず、
たくさんの作業員が現れて、
作業にとりかかっている。
窪川方面の電車が終了し、
お役目を終えたホームは、
その瞬間から大胆にホームの一部が解体され、
新高知駅へと通り抜ける通路の貫通作業が急ピッチで行われた。
まだ終電は終わっていない。
最後の役割を全う(まっとう)しようとしている高知駅が、
生きながら解体されて行く。
その姿を見て、
「えー。ちょっと待ってよ…。」
と言いたい気分だった。
でも現実は、
僕がそんな感慨に浸っているような悠長なものではなく、
明日の朝までに突貫作業を終えなくてはいけないため、
作業員の皆さんは、必死だ。
さっきまで列車が走っていた線路も、
手際よく切断されていった。
その一方、
最終電車が発着するホームも、
徐々に賑やかになっていく。
工事の作業員。
マスコミのカメラ。
最後の姿を見守る人々。
そしてついに、
最後の列車がホームに到着した。
テレビカメラ用の照明がいくつも照らされ、
いつもと違う特別な時間が流れる。
最後の時を予感させる賑やかさがあり、
多くの人たちが最後の時を見守っている。
…いや本当にそうだろうか?
一時代を担った「高知駅」というがランドマークが臨終の時を迎える際に、
集まったのがこれだけの人数というのは、
少し寂しい気もする…。
『ありがとう高知駅』なんていう横断幕もなく、
華やかな引退セレモニーもなく、
そこそこの人数に見守られながら、
感慨と喧騒とが入り混じる中、
ひっそりと高知駅は終わりの時を迎えようとしていた。
そしてついに…、
最終の列車が、
いつも通り須崎に向けて走り去って行き、
旧高知駅もその最後の役割を終えた。
もうこの線路にもホームにも、
列車が現れることはない。
「あぁ、終わったんだなぁ。」
「もったいないなぁ。」
「さようなら、高知駅…。」
失ってしまう価値の大きさに脱力し、
何とも言われぬ喪失感を感じる。
だがしかし、
故人を偲ぶような気持ちで傷心気味な僕の目の前で、
さらに現実は否応なしに進んでいく。
終電を送り出し、
気にせず作業が出来るようになると、
夜を徹しての突貫工事はここから本気モードに突入していく。
あちらこちらで、けたたましい音が鳴り響く。
券売機の前に重機が並ぶという、
絶対にありえない光景が目の前に現れ、
感慨や感傷がどっかに吹っ飛んで行く。
つい10分ほど前まで高知の玄関口だった高知駅が、
あっという間に解体工事の工事現場に様変わりである。
手改札の味わいがあった改札口も、
大きな音を立てながら重機で引きはがされていく。
1つ、また1つと…。
原型をとどめず無造作に転がされていく改札を見ていると、
大切なものを傷つけられていくようで、
なんかちょっと泣きそうになった。
ものの1時間ほどで、
改札は全て取り払われて、
何もなくなってしまった。
改札がなくなると、
なんだか駅から魂が抜けてしまったように感じた。
工事を最後まで見届けようかとも思ったけど、
サラリーマンは明日も朝から仕事だ。
それに、改札がなくなった時点で、
なぜだか急速に興味が薄れて行った。
薄情だと思われるかもしれないが、
「もう終わっちゃったんだなぁ」と、
受け入れてしまったからだろう。
だから、
僕はほどなくして高知駅を後にした。
駅を出ると、
高知駅の文字は既に消えていた。
旧高知駅の最後の一日は、
こうして幕を閉じた。
おつかれさん、高知駅。
ありがとう、高知駅。
翌朝。
寝不足とともに、
「旧高知駅がなくなってしまったんだなぁ」という喪失感のため、
少し気怠い(けだるい)感じで目が覚めた。
朝のニュース番組では、
「今日から新しい高知駅がオープンしました!」
という華やかなニュースを、
どこのテレビ局も伝えていた。
関心はあるはずなのだけど、
不思議とそこまで興味がわかなかった。
その代わりに、ふと思った。
「昨晩、あれだけテレビカメラが来ていたが、
旧高知駅の最後の姿は、
果たしてどれほど放送されたのだろうか?」
時代は新しいものを歓迎する。
新しいものは新しいというだけで価値がある。
でも、
多くの人が気付いているように、
新しく入れ替わっていくだけが、
豊かさを積み上げていくことにはならない。
今あるモノの価値や、
去りゆくモノの価値も、
見逃さずに気付いて継承することが出来れば、
もっと本質的に豊かになれるのではないかと、
思うのである。
中途半端に古くてオンボロで、
大して価値のないように見えるモノの中にも、
見逃してはいけない価値がある。
そんなことを、
旧高知駅に学ばせてもらった気がする。
================ 後日談 ==================
その週末に、
再び高知駅を訪れた。
「旧高知駅はどうなっているのだろうか?」
と思いながら。
パッと見た感じでは、
駅前の様子はそんなに変わってはいなかった。
とはいえ、
よく見ると、ところどころに変化があった。
あの「高知駅」という文字は、
黒いシートで覆われていた。
案内表示もすべて隠され、
自動販売機なども撤去されていた。
すっかり生気はゼロである。
あの改札口はというと、
新高知駅へと通り抜ける、
ただの通路となっていた。
ホームがあったところは撤去され、
線路の上に砂利が敷き詰められ、
アスファルト舗装の通路が作られていた。
ホームの解体は引き続き行われていて、
重機が線路の真ん中にまたがり、
少しずつ旧高知駅を取り壊していた。
通りかかる人たちは、
足を止めてその姿を眺めたり、
写真を撮っていた。
高知駅をバックに記念写真を撮る人も多かった。
みんな、もの珍しそうに、
ついこの前まで線路のど真ん中だった場所に立ち、
使われなくなった旧高知駅を、
それぞれの思いで眺めているようだった。
線路があった場所に立つというのは、
足を踏み入れてはいけない場所に立っているような、
なんとも言えない不思議な感覚があった。
僕が旧高知駅を写真に収めているのは、
3月6日に撮った下の写真が最後だ。
もともと通勤などで駅を利用する用事もなかったので、
その後の写真は特に撮ってない。
さて、
前後編2回に分けて長々と書いた旧高知駅の記事も、
これにて完結。
忘れかけていた旧高知駅を少し思い出して貰えただろうか?
『「そういえば昔の高知駅ってこんなのだったよね。」と、
将来懐かしんで見て貰えるように、
高知県民のためのライブラリーとして、
細部まで写真に撮っておこう。』
というコンセプトで撮り溜めた写真なので、
無事に発表することが出来てホッとしている。
まだまだ写真はたくさんあるのだけれど、
「どこ?ここ?」と首を傾げ(かしげ)たくなるような、
マニアックな写真も多いので、
自主規制してこのくらいにしておこうと思う。
とはいえ最後に、
忘れてはいけない2階『高知駅デパート』の、
営業中で生気あふれる姿を見て、
締めくくりたいと思う。
(上り口の階段とエスカレーター)
(レストラン入口)
(レストランの席から見える景色)
(レストラン座敷。)
(お土産物売り場)
(高知と言えば、お酒売り場)
(名物 芋けんぴ)
(沢山の人で賑わう高知駅デパート)
(お土産を買ったら、いざ高知を出発!)
おしまい。