山の男前
2013/05/15
- 執筆者 本澤侑季
- 所 属馬路村農協
連休が明けて、馬路村は一気に田植えシーズンを迎えています。
村の面積の殆どが森林なので、お米やゆず、野菜を育てる田畑面積は少なく、多くのものが狭い耕地を生かすために石垣で段々に造られています。
そのため、田んぼに田植えの機械を入れるまでが大変で、狭くなっているところは機械で上手く植えられないところもあります。なので、その分手作業も多くなってしまいますが、馬路のお米はとてもおいしいです。
最近の嬉しい出来事と言えば、ゆずの木につぼみがつき始めたことです。
もうそろそろすると白い花が咲き、ほのかに甘い香りがします。
ゆず農家さんにとっては、花のつぼみの数は今年のゆずの収穫を左右するため、毎年ドキドキです。
畑で尋ねたところによると、今年は表年(豊作の年)なので、つぼみもたくさんついて上々だそうです。
前置きが長くなりましたが、本題は『男前』についてです。
みなさんオトコマエって、どんな人のことを思い浮かべるでしょうか?
性格が男前、という考え方はもちろんありますが、
よく、目鼻立ちや容姿が格好いい人に対して『男前』と使うことが多いのではないかと思います。
ですが、田舎の『男前』の概念は、都市部とは少し違っているのではないか?!と思うようになりました。そう思うきっかけとなったのは、村の鮎獲りの達人、いさおさんに山へ連れて行ってもらった時のことでした。
この日は、村を流れる安田川の源流を見たいということで、若手4人がいさおさんに連れられ山へと入りました。
山道の途中、車で走りながら脇道を見ていさおさんが『ここは昨夜イノシシが餌を探しちゅう。』と、言い出すのです。
初めはいくら眺めても、全く分かりませんでした。
いさおさん曰く、少し土の色が変わっているところはイノシシが鼻で餌を探した跡なのだそうです。
いさおさんは鮎漁においても人から一目置かれる名人ですが、冬場はイノシシもおさえます。
猟のグループで追い山猟に行くこともあれば、罠猟でイノシシを1人でおさえてくることもあります。気性の荒いイノシシを相手にするのは命がけ。罠の位置を、イノシシと知恵比べしながらしかけます。
源流に向かう途中、昔栄えていた森林鉄道跡を見に行くことになりました。
道なんてありません。足のかけどころを間違うと下まで滑り落ちてしまうようなところもすいすい登っていきます。
これは『インクライン』といって、山で切った林材の丸太をふもとに下ろし、丸太の重みを利用して同時に頂上へ荷物を上げていたものです。
ここでいさおさんが昔の鉄道のレールを拾いました。
重要文化財になってしまいそうなこのレール、何に使うのか尋ねると、
『何かのおもしに使わぁよ。』とのこと。
続いて、道の途中で山菜の王様ともいわれる『タラ』を発見しました。
トゲのある木の先に生えた芽は、天ぷらなどにすると独特の香りがあっておいしいのです。
ですが、遥か高くに生えているため、到底手は届きません。
そこでいさおさんは、リュックの中から針金を取り出すと、その辺にあった木の枝でタラの芽採りの道具を作り始めました。
腰にさしていたナタで、邪魔になる枝を見事に落としていきます。
ものの数分で、タラの芽を採るのにぴったりの道具が完成しました。
いさおさん曰く、『山菜採りはマナーを守らないかん。』とのことで、植物を傷つけたり無暗やたらに採るようなことはしてはいけません。
田舎のおんちゃんは皆物知りで、川の源流のこと、秘密の松茸山のこと、昔戦があった場所、昔からの山の呼び名のことなど色んなことを知っています。
この日は結局、連日の大雨のせいで道が崩れ、目的の源流にはたどり着けませんでしたが、朝日出山の大杉へ連れて行ってもらうことができました。
人1人では到底腕がまわらないほど幹は太く、かなり立派な大杉でした。
さて本題に戻りますが、色んなことを知っていて、猟(漁)ができて、自分で物も作れるって、なかなかかっこいいと思います。田舎の中での男前は、必ずしも容姿がいい人とは限らない気がします。
会話でもよく『どこどこの○○さんは、鮎をこじゃんと(たくさん)おさえるぞー。』とか、『この間○○さんの猟の組が太いイノシシおさえたとー。』とか、そういったことが男前のステータスでもあるのではないかと思います。そして、話も面白い。
こう考えると、地域ごとに男前、女前像はおそらく違っていて、全国から集めるとすごく面白いことになりそうだなと感じます。他の地域の男前・女前も見てみたいなと思いました。