ジローが足りない
2013/08/09
夏。
一年で一番土佐ジローが足りない季節がやって来た。
お中元のタイミングに、売る商品が無い。
東京の飲食店から、わざわざ畑山に食べに来て、
「扱いたい」と申し出てくれても断らざるを得ないでいる。
1件や2件ではなく…。
卵は年中、足りない。
新規の定期購入希望者にも、「ごめんなさい」としか言えない。
主力の肉でさえ、夏は、雛の供給体制の問題で
いつもの6割の生産量しかない上に、
暑さでジローが太りにくく、
大変な状況を迎える。
土佐ジローは採卵用に高知県畜産試験場が開発し、
商標も高知県が持つ、いわば高知の財産。
今も、畜試が主に人工交配によって種卵をつくり、
高知県土佐ジロー協会がふ化をさせる。
採卵用のジローは、
専門の飼育農家が1か月育てた後、
協会が認定した県内の農家が購入して手元で育てていく。
一方、肉用鶏として飼育している
我がはたやま夢楽では
生後0日で購入後、
4~5か月育てて食肉として販売している。
商品となる卵を生み始めるのは生後約5か月から。
土の上での放し飼いであることなどから、
暑さ寒さによって産卵率に大きな変動がある。
暑過ぎたり、寒すぎたりすると、
ジローの体調管理にエネルギーが注がれ、
卵を生んでくれなくなる。
はたやま夢楽には、
500羽ほどの採卵鶏がいる。
春には8割ほどの「好成績」で
生んでくれるジローたちも、
夏と冬には半数以下しか生んでくれない。
変動幅が大きく、商売が難しい。
それでも、無理に生ませることはせず、
ただひたすらジローが卵を生んでくれるのを待っている。
肉が足りなくなるのは、
冬に希望する数の雛を仕入れることができないから。
通年で2週間おきに雛を購入したいけれど、
冬場には3~4週間、雛が買えない。
仕入れた数が少ないのだから、
その時期の雛が成長する夏場に肉が足りない状況が生じてしまう。
肉用として飼育している農家は少なく、
ジロー協会のふ化事業も、
採卵農家の希望に沿う形がとられる。
自然と産卵数が増える春先。
その時期に向けて成長する冬雛の希望農家は少ない。
1度に大量に仕入れ、
飼育期間などを調整したくても、
鶏舎の数が足りない。
しかも、ジロー誕生から30年近くが経ち、
生産者の高齢化などによる雛の減少がさらなる不足を生み出している。
4月のテレビ放映の影響は前回触れた通り。
売る商品が無いと断りを入れると、
「さぞ儲けて御殿が建ったことだろう」
と言われたりもする。
けれど、全部売ったところで数が少ないのだから、
御殿なんてどこにも無い。
むしろ経営の危機は年中、まとわりついている。
県が山間地の振興策として生み出したジローは、
時とともに、卵も肉も評価が高まり、
県内外に知られる存在に成長している。
人生をかけて嫁に来るくらい
ジローの可能性は無限大に広がっていると私は感じている。
畑山に来る鶏ファンとの交流にしても、
商談会での反応にしても、
ニーズの手ごたえはある。
でも、「ごめんなさい」を繰り返していると、
縁遠くなることがある。
山あいの産業として成り立つよう、
せめて雛が安定的に供給される日が一日も早く来てほしい。