畑も歩けば人に当たる
2013/11/08
- 執筆者 本澤侑季
- 所 属馬路村農協
ついに、待ちに待った季節がやってきました。
ゆずの季節です。
今年は雨が少なかったせいかゆずの成長が例年より遅れていました。
いつもなら10月20日頃には収穫が始まるのですが、農協の集荷が始まった日にゆずを持って来れた人はたったの1人でした。
年間雨量4000ミリを記録したほど雨の多い村ですが、今年の雨不足は異常で、村内放送ではゆずへの水やりが呼びかけられ、農協からは急きょ水やりのタンクが貸し出されました。いつもならゆずに水をやることはないのですが、今年は谷の水をタンクに汲んでは畑へ向かう人の姿がよく見かけられました。
『ゆずがことうちゅう。かわいそうな。』
『ちっとでも雨が降ってくれたらえいにねぇ。』
と、皆空を眺めてはゆずを心配していました。
夏の日照りは、やはり収穫にも影響がありました。
『ゆずがまだ青いねぇ。』
『うちもまだや。』
『どうも夏の日照りがことうちゅうねぇ。』
と、村内ではなかなかゆずが始まる様子がありませんでした。
しかし、油断したのもつかの間、この頃急に冷え込み、ゆずが一気に黄色くなり始めました。
これには皆、
『おっとー、こりゃあせわしゅうなるねぇ。』
『始まったねぇ。』
『明日もいきってとらにゃあいかん。』
と、嬉しい悲鳴が聞こえてきました。
無事に、ゆずシーズンの始まりです。
私も慌ててカメラ片手に畑へ走ると…
いたいた、軽トラが停まっています。ゆずのカゴも見えます。香りとともに、パッチン、パッチンとゆずを摘む音も聞こえてきます。
今年もゆずの季節がきたなぁと、嬉しくなりました。
この季節、畑に行けば必ずといっていいほど誰かに遭遇します。
色づきが早かった日浦地区のイチ谷にも、やっぱり人がいました。
『あっちの枝も切らないかんし、こっちの枝も気になるし…おらくの畑は剪定しもってとりゆうき、やくがかからぁよ。』とゆきおさん。
ゆずは新芽が生える前に剪定しますが、収穫の時にゆずをとりながら枝を剪定する人も結構います。(馬路では手間がかかることや手を煩わすことを「やくがかかる」と言います。)
『黄色うなってきたき、ごちごちとりゆうでぇ。』と、なおさん。
『今日は午後から女性部の寿司づくりがあるき、朝のうちにとっちょこう思いゆう。』
翌日は女性部が作った寿司を村内で販売する日なので、前日から準備があるようです。
当日は、朝の5時から女性部の寿司小屋の明かりが灯っていました。
ゆきこさん、けんちゃん家(く)の畑もやっていました。
カメラを向けると、『こんな背ぇの高い木みともないき写されんでー。』とけんちゃん。
『こんな木がえいがよねぇ。』とゆきこさん。
50年近くも前から先祖代々守られてきたゆず畑です。
のぼるちゃんの畑も、やっています。
のぼるちゃんがゆずをとり、きみえさんは出荷用にヘタを残して摘んでいきます。
きれいなゆずは、玉出荷用。
『汚れちょったらいかんき、きれいにしちょらなねぇ。』
と、1つ1つ大事に拭いていきます。
隣のかっさんの畑も、やりゆう、やりゆう、と思って入って行くと、
タッタッタッタッと、ものすごい勢いで黒い何かが向かってきました。
そうでした。愛犬リンです。ゆず畑には必ずいつもついて来ます。
リンはゆず畑が大好きで、かっさんたちがゆずをとる間は1人でずっと遊んでいます。
集荷場もにぎわい始めました。
特に、1日の収穫を終えた夕方4時頃はゆずを積んだ軽トラの大ラッシュ。
『ようけとったねぇ。』
『せわしいねぇ。』
『明日は雨みたいなねぇ。』
『足が痛むかぇ?無理しなよ。』
ゆずのおんちゃんおばちゃんの社交場にもなります。
2回目のゆずの季節を迎えて、やっぱり、村の人たちのゆずを思う気持ちや、ゆずづくりに一生懸命な姿が大好きだなぁと心の底から思いました。