「人に会い、言葉に会い。」

2015/01/30

 

 皆さま、はじめまして。昨年の10月に一般社団法人MITに入社しました、佐原真理子と申します。今回は、後ろを振り返り、「何故、自分は対馬に来たのだろう?」ということ、そしてまた前を見て、「これからのこと」を書かせて頂こうと思います。

 

 

東京に居た頃―

 

 私は絵を描くことやモノを作ること、外で野良猫を追ったりセミを捕まえたりして遊ぶことが好きな子ども(今も半分子どもですが…)でした。小学生の頃の一番の夢は、「絵本作家になること」で、二番目の夢は、「動物園の飼育委員さんになること」でした。中学生になると、迷わず美術部に入部しました。しかし、部活動の中で絵を描くことは、つまらないものでした。学校生活も、楽しいことも沢山あったけれど、「周りの子とは違う、不思議な子や変わった子」は排除されてしまうような、少し息苦しい日々。中学生の頃の一番の夢は、「美術関係の仕事に就くこと」でしたが、徐々に、本当に自分の夢なのか、よく分からなくなっていました。

 

実家の団地
実家の団地

 

 

 将来の夢は分からないけれど、普通の勉強はもう沢山だと思ったので、美術大学の付属高校へ入学しました。高校の入学式でのこと。周りを見渡すと、緑色の髪色をした子や頭の半分を刈り上げた髪型をした子、もちろん見た目は普通の子の方が多かったのですが、私は既にカルチャーショックを受けました。

 そして、この学校で、沢山の「変な」友達ができました。一番強烈だったのは、クラスメイトの「りんちゃん」。夏休みに、油絵で自画像を描いてくるという課題が出されたのですが、りんちゃんの自画像を見ると、顔ではなくて、ゴツゴツとした火山から真っ赤な溶岩が流れ出ている絵が描かれていました。私が、「りんちゃんの顔はどこに描いてあるの?」と聞くと、りんちゃんが「ここ。」と指差すところ、キャンバスの右下の岩に、ぼんやりと人の顔が浮かび上がっていました。

 

 そんなりんちゃんですが、初めてお互いの考え方を話す機会があり、これまでのこと、これからのこと、色んな話をした時のこと。りんちゃんが、涙をぽろっと流して一言こう言いました。「本当は、学校の先生なんて要らない。だって、私は空気や光にも感動するから。」私はこの言葉を聞いた時、この高校で学べたこと、多くの友達に出会えたことに感謝しました。

 

 高校の卒業制作での私の作品
高校の卒業制作での私の作品

 

 

 そして、高校3年生になった私は、他美大を受験する為に画塾に通っていたのですが、中学生の時に感じた「美術関係の仕事に就くことが、本当に自分の夢なのかよく分からない」モヤモヤが、日々胸を重たくしていき、ついに画塾をズル休みした日のこと。通っていた画塾が古本の街で有名な神保町の近くにあったのですが、その日は特に行く場所も無いので、古本屋から古本屋へとぶらぶらと歩いていました。その時、一軒の古本屋の100円均一コーナーで、ある人の本を見つけました。それは、テレビ番組の「ごきげんよう」か何かで見かけた、アルピニストである野口健氏の本でした。よく見ると、直筆サインが書かれていて、「お、ならお得だ。」と購入。その後すぐに喫茶店に入って一気に読みました。

 読み終えた後は、「画塾をズル休みしている暇など無いんだ、自分も必死になってまた頑張ってみよう。」という気持ちにさせられただけだったのですが、この本を読んで自分の中のモヤモヤが整理されたことをきっかけに、「今の自分は美術大学に行きたいのではなくて、小さい時から憧れていた、“田舎”に行ってみたいのかもしれない。」という考えが湧いてきました。もう受験まで時間が無いというのに、自分がとんでもないことを考え出してしまったことに、酷く困惑しました。しかし、ここでとことんモヤモヤの正体を突き止めてみようと、野口健氏の本の中に書いてあった「野口健環境学校」という、高校生でも参加可能なキャンプへ夏休みに行ってみることにしました。

 

 

初めての大自然―

 

 キャンプは、3泊4日を世界遺産である青森県は白神山地のブナ林の中、先祖代々狩猟を行ってきた「マタギ」の工藤さんという方と過ごすというものでした。初めての野外炊飯、初めての沢登り、初めてのテント泊…私はこの、たったの4日間で自分自身が変化していくことを強く感じました。

 焚火を囲み、工藤さんが仲間と共に仕留めたという熊の肉で作る、熊汁を頂きました。その時、工藤さんが「生き物は、生き物によって生かされているんだよ。」と、教えてくれました。

 

マタギの工藤さん
マタギの工藤さん

 

 

初めての田舎―

 

 夏休みに野口健環境学校に参加した後、私は画塾を辞めてアルバイトを始め、国際自然環境アウトドア専門学校に入学する為の準備を始めました。

 私が現在休学している、その国際自然環境アウトドア専門学校という学校は、新潟県は妙高市にあります。冬は、雪が4メートルも積もる、日本有数の豪雪地です。この学校では、自然環境の保護と利用に関する領域での職能を身につけるための個性的な6つの学科と研究科を設置しており、日本で唯一の登山・自然ガイド、野外指導者、インストラクター、アウトドアスポーツの競技者の養成校です。私は、環境教育・地域ビジネス学科(現 野外教育学科 野外教育コース)に在籍し、自然を活用した教育活動について、「環境保全」「教育・子育て」「観光・自然ガイド」「アウトドアスポーツ」など、多方面・多分野から学んでいます。

 

初春の妙高山
初春の妙高山

 

学校に入学して初めての実習「キャンプ実習
学校に入学して初めての実習「キャンプ実習」

 

学校主催の小学生対象のキャンプでは、カウンセラーとしてテント泊登山に引率し、学んできたことを実践する
学校主催の小学生対象のキャンプでは、カウンセラーとしてテント泊登山に引率し、学んできたことを実践する

 

 

 また違う、「変な」友達ができたことはもちろんではありますが、妙高では、沢山の「面白い大人」達に出会いました。それまでは、仕事で疲れている大人や偉そうな大人などは多く見かけたのですが、面白い大人が居るものなのか、と驚きました。

 家を訪ねると家には居らず、田んぼと田んぼの間で寝ている先生。前職を辞めて学校へ入学し、本気で目標に向かう歳の離れた先輩や同期、後輩。日々の暮らしをワクワクと楽しむ地域の人達…

 

ひと眠り中の農業の先生と同期
ひと眠り中の農業の先生と同期

 

5歳年上の親友
5歳年上の親友

 

超憧れの地域のおじいちゃんとおばあちゃんおばあちゃん
超憧れの地域のおじいちゃんとおばあちゃん

 

 

 私は、そんな大人達を見ながら、「どんな仕事がしたいか?」もそうなのですが、「どんな暮らしがしたいか?」ということを考えるようになりました。

 

 

そして、対馬へ―

 

 卒業後に何をしたいのかがはっきりぜず、就活もろくにしないでキャンプ漬けだった専門学校3年生の夏の日のこと。ネットの求人サイトに、「一般社団法人MIT」の観光コーディネーター募集の求人がありました。実はその前に、学校の先生に「お前に合いそうな、面白い会社が対馬にあるぞ。」と教えてもらっており、その後インターンシップへ行くことが決まっていたので、既にMITのことは知っていました。

 募集要項をよく読んでみると、その面白そうな仕事内容にワクワクしたのを覚えています。(そう、その求人サイトに、美味そうな魚料理の写真が載っていて…(笑))そして、思い切って応募した2週間後には採用が決まり、今、此処に居ます。

 

 対馬にやって来て、早3か月が経ちました。現在は、対馬の民泊・体験型観光を推進する為、3月中旬に開催するモニターツアーを企画・準備中です。島の「人」に会って、その人の「海の暮らし」「山の暮らし」へ入っていく、そんな旅を提供したいと思っています。また、MIT自主事業、観光・交流部門として、小学生を対象とした自然体験プログラムを企画中。他、MITオリジナルツアー、オプションツアーなども思案中で、今、自分の仕事をつくっている最中です。

 

 対馬は夏に来たのが初めてでしたが、対馬に来て出会ったものが沢山ありました。

 

 

『穏やかな時間と景色』

 

烏帽子岳から見た浅茅湾
烏帽子岳から見た浅茅湾

 

毎日変わっていく山の色
毎日変わっていく山の色

 

豆酘の夕陽
豆酘の夕陽

 

夕飯を作ってくれている「民泊ひろこの家」
夕飯を作ってくれている「民泊 ひろこの家」の内山さん

 

 

『暮らしの知恵や技術』

 

素早い手捌き
素早い手捌き

 

さつま芋の多様な利用方法
さつま芋の多様な利用方法

 

各家で当たり前のようにつくられている蜂蜜
各家で当たり前のようにつくられている蜂蜜

 

 

『本当においしいもの』

 

「民泊 手作りの宿」の内山さんが作ってくれた「ろくべえ」
「民泊 手作りの宿」の内山さんが作ってくれた「ろくべえ」

 

「民泊 ごんどう」の権藤さんが作ってくれた「手作りの梅干しのおにぎり」
「民泊 ごんどう」の権藤さんが作ってくれた「手作りの梅干しのおにぎり」

 

「民泊 神宮自然農園」の神宮さんのところの鶏の「卵がけごはん」
「民泊 神宮自然農園」の神宮さんのところの鶏の「卵がけごはん」

 

「民泊 吉栄」の吉村さんが作ってくれた「わたごと焼いたイカ」
「民泊 吉栄」の吉村さんが作ってくれた「わたごと焼いたイカ」

 

MIT代表理事である海子丸船長「細井さんのブリ」
MIT代表理事である海子丸船長「細井さんのブリ」

 

 

何故、美味しかったんだろう…?と、考えてみました。

 

―魚はその魚の味がし、野菜はその野菜の味がしたこと。

―作ってくれた人の気持ちが伝わったこと。

―自分の心や体が穏やかだったこと。

 

また、対馬に来て、嬉しかったことがありました。

 

漁師さんに連れて行かせてもらったサバの夜釣り
漁師さんに連れて行かせてもらったサバの夜釣り

 

初めて自分で釣りあげたサバ
初めて自分で釣りあげたサバ

 

「さばけちょる!」(仕事ができるね!)と褒めてもらった稲刈り
「さばけちょる!」(仕事ができるね!)と褒めてもらった稲刈り

 

 

何故、嬉しかったんだろう…?と、考えてみました。

 

―その人の暮らしの中に入っていけたこと。

 ―その人の生業を一緒にやらせてもらえたこと。

 ―その人の考え方を知れたこと。

 ―そして、自分の考え方を聞いてもらえたこと。

 

 私は、私の仕事を通して、自分以外の人にも「対馬の人の生き方や価値観」 に触れてほしい、 「本当に美味しいもの」 を知ってもらいたい、と思っています。今はまだ、「私は観光コーディネーターです。」と言うのは恥ずかしくて言えないけれど、自信を持って言える日が来るよう、日々努めていきたいです。

 

あ、あと、そろそろ女の子になりたいです。(どれも先は長いな~。)
あ、あと、そろそろ女の子になりたいです。(どれも先は長いな~。)

 

 一般社団法人MITのfacebookページにて、対馬での暮らしを胃袋(心)の感じるままに切り取る『「住めば毎日」道中、対馬にて胃袋を掴まれる』を更新中。この日々が、MITオリジナルツアー「くらしの旅」となっていきます。是非、一度覗いて見て下さい。

 

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