私がここにいる理由
2015/07/07
- 執筆者 鈴木陽子
- 所 属一般社団法人 ピースボート災害ボランティアセンター
わたしが二年前から住んでいる宮城県石巻市は、合併を経て旧石巻市、河北町、雄勝町、河南町、桃生町、北上町、牡鹿町の1市6町が一つになった都市ですが、もともと何十年何百年と別々の集落として存在してきたので、昔から伝わってきた独自の文化に強い誇りを持ち続けている集落がたくさんあります。なかでも「浜」は独自の文化が色濃く残っています。わたしの仕事柄漁師さんたちと関わる機会が多いからそう感じるのでしょうか。
そしてそんな浜の一つ、北上町十三浜大室(きたかみちょう じゅうさんはま おおむろ)。
ここでは「大室南部神楽」という伝統芸能が、大正時代から現代まで脈々と受け継がれています。しかし90年代後半から東日本大震災が起こるまでの15年間ほどは、後継者不足が原因で伝承が途絶えていたそうです。
そして起こった東日本大震災。家もなにもなくなり生活もままならない時に真っ先に思ったのが神楽のことだったという大室の人々。「自分のふるさとがなくなった」と思ったときに、何かしたいとくすぶっていた若い人たちの口から「神楽やろうよ」という言葉が出てきたのだそうです。
「みんながいて生活があってその中に神楽が息づいている。それが大室」
という言葉がとても印象的です。神楽は大室の人々にとってアイデンティティーであり、音を聞けば自然と体が動くのだそう。
「みんながひとつになる源。全部がそこに寄ってくる。それが神楽だ」
とは、69歳の重鎮の方の言葉です。
大室のほかにも雄勝町というところでは「雄勝法印神楽」が伝承されていたり、新年のお祝いの時は50以上ある各浜ごとで(震災や過疎化の影響でできなくなってしまった浜もありますが)「獅子振り」と呼ばれる行事が行われます。
獅子振りは、太鼓や笛のお囃子に合わせて獅子(写真参照)が舞い、獅子に噛まれた人は一年健康でいられると言われている行事で、獅子とお囃子は集落にある家々を一件ずつ回るので、集落によっては朝から始めて日付が変わるまでお囃子が聞こえているという浜もあります。
各家ではお酒とご馳走を用意して獅子をもてなすので、何軒か回っているうちに獅子が酔っ払って歩けなくなってしまったりするあたりも「浜らしさ」です。笑 (最近は規模を縮小している集落も少なくありません。もったいないなと思いつつ、そこにはまた色々な要因があるのですが…)
こちらは十三浜大指(じゅうさんはま おおざし)の獅子振り。
一軒獅子を振り終わったら、そのお宅にあがってご馳走とお酒をいただく。
そしてこの「神楽」や「獅子振り」こそが、わたしが石巻に住み続けている理由のひとつなんです。
もちろん伝統文化自体にも魅力を感じますが、私が心を動かされたのはそれを受け継いでいく人々の姿です。隣の家の家族構成も知らないのが当たり前になりつつある日本の中で、「浜」の人間関係は今やとても特別です。
浜のこどもはみんなのこども。文字通り地域全体で子育てをしています。おばあちゃんたちはみんなの優しいおばあちゃんだし、おじいちゃんは仕事でも伝統文化においても、厳しくも頼れる師匠です。そう、漁業も伝統芸能も経験が物を言う世界。そのため、都会では役割を失ってしまうこともめずらしくないお年寄りこそが、浜ではとても重要な存在なんです。
伝統文化は体に心に染み付いた守っていくべき大切なものであり、小さいこどもはお父さんたちを、お父さんたちはそのまたお父さんたちを師匠として追いかけていきます。
先日テレビで放送された大室南部神楽のドキュメンタリーの中でもこどもたちが「おっとうみたいにカッコよく神楽を踊りたい」「おじいちゃんたちに教われるのが嬉しい」と口々に言っていました。
こどもたちによる「水神舞」
そしてこちらがおなじくこども神楽で「くずし舞」。
舞台の上では大人顔負けの舞を披露するこどもたちも、餅まきのときはおおはしゃぎ。自分自身も跳びあがりながら餅をまく。この「餅まき」もお祝いごとの時に行う伝統的な儀式。
そんな環境の中で育ってこなかった私にとって、浜の人々の関係のあり方や伝統文化の存在はちょっと不思議でそれでいてどこか懐かしくて、大変そうだけどあったかくて、羨ましくて、なんだか胸がきゅっとなるんです。
そんな人たちに少しでも近づきたくて、その絆の深さの秘密をもっと知りたくて。それが、私がこの場所にいる理由の一つなんだと思います。今回はそんなお話でした☆
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おしまい☆