柳川暮らしが楽しすぎて困ります。~巨峰の巻~

2015/08/31

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執筆者 阿部昭彦
所 属

 

 福岡県の最南部、佐賀県と熊本県に挟まれ、有明海に面した柳川市からこんにちは。柳川市地域おこし協力隊員の阿部と申します。柳川の「隠れた主役」たちにスポットをあてて紹介するこのブログ、今回は柳川産の巨峰をご紹介させていただきます。

 

 有明海

 

 川下りやうなぎの蒸篭(せいろ)蒸しなど、観光地として名高い柳川市ですが、実は農漁業の一大産地でもあります。有明海を望む広大な干拓農地を持つ柳川市は、米、麦、大豆などの土地利用型農業が盛んで、作付け面積は福岡県でも1、2位を争うほどの規模で展開しています。また、海苔の養殖は日本全国でも指折りの産地として有名で、平成26年度は135億6500万円の生産高を上げ、日本全国に届けられています。海苔養殖のための支柱が何本も立てられた中を夕日が沈んでいく様子は、もっとも有明海らしい風景の一つです。

 

 巨峰

 

 こうした1次産業の盛んな柳川市から、今回は巨峰にスポットライトを当ててみました。みなさんはぶどうの産地というと、まず山間地を思い浮かべるのではないでしょうか?

 確かに、名産地と言われる山梨県、長野県などはどこも山間地帯ですね。これには理由があって、平地よりも日光を受けやすいこと、水はけがよいこと、そして朝夕の寒暖差があることが、ぶどうの栽培には適しているのだそうです。

 

富士山

 

 では、なぜ平坦な干拓地の柳川でぶどうが栽培されたのか。これにはまず、柳川市のご近所である田主丸の巨峰についてお話をしなくてはいけません。

 巨峰は、大井上康氏が交配によって生み出した日本原産のぶどうです。巨峰という名は、静岡県にあった彼の研究所から眺められる富士山の雄大な姿にちなんで付けられました。

 

 巨峰物語

 

 実はこの巨峰という品種は、戦争をはじめとする数々の苦難に遭い、それを人々の情熱によってくぐり抜けて現在に至るという非常に感動的なストーリーを持っています。ここでは、詳しく書けませんので、ご興味のある方はぜひこちら▼をご覧ください。

巨峰誕生物語

 

 ともあれ、大井上さんの弟子である越智通重氏の指導によって、昭和32年から田主丸で巨峰の栽培が始められ、3年後に実をつけていきます。

 田主丸から柳川へ巨峰が持ち込まれたのは昭和45年頃と言われています。当初は10軒ほどだけが、両開と呼ばれる干拓地域で始めたそうです。減反のための代替作物として紹介された巨峰は、栽培時期が海苔養殖業のオフシーズンにぴったりだったので、海苔漁家の多い両開地区で盛んに栽培されるようになりました。こうして夏は巨峰、冬は海苔という兼業形式で両開の巨峰は広がっていきました.

 

巨峰園

 

 ところで、ぶどうの栽培には山間部が向いているという話を上の方に書きました。有明海のすぐ隣に広がる真っ平らな干拓地で巨峰を栽培して大丈夫だったのでしょうか?

 例えば、巨峰は黒く色づいているものほど重宝されますが、柳川の巨峰は黒くなりきりません。これは朝夕の寒暖差が大きいほど黒く色づくため、寒暖差がそれほど大きくならない柳川のような平地では、黒みが不足するのだと考えられています。

 しかし、平地のため寒暖差が少ないことがプラスに作用している面もあります。それは「甘さ」です。通常、果実の甘さは、糖度と酸味のバランスで感じるのですが、暖かいところで育った巨峰は酸味の切れがよく、そのため、他の巨峰よりも甘さを強く感じることになります。糖度そのものも高く、糖度20を超えるものも珍しくありません。ちなみに、イチゴやミカンの糖度は10〜12程度です。

 

巨峰

 

 では、なぜそれほど高い糖度に育つのか。ここで、両開地区が干拓地であることが大きなポイントとなってきます。干拓とは、堤防などを作って海水を排出し、もともと海底だったところを陸地化して農業などに利用することですが、もともとが海底だったために、塩分をはじめとする様々なミネラル分が干拓地の土壌にはたくさん含まれていると考えられます。それが環境ストレスのような作用を及ぼし、結果として作物の糖度を上げることになります。熊本県の塩トマトがその良い例です。

 実は、この両開地区はおいしい作物が穫れるところとして地元ではとても有名です。スイカも非常に甘みの強いものができます。また、ジャガイモも味がしっかりとして濃く、ゆでて塩を振っただけでも十分に美味しく食べられます。柳川市では13世紀(鎌倉時代)にはすでに干拓が行われていたとされていますが、その頃の人たちは、干拓地はおいしい作物が穫れることを知っていたのでしょうか?

 

巨峰ジャム

 

 先日、巨峰収穫体験があり、親子連れの方々のたくさんの笑顔を拝見しながら、自分も巨峰を収穫してきました。ずっしりとした房の重さがうれしい! 生食で美味しくいただいたのですが、せっかくこんなに甘いのでジャムを作ってみました。皮を入れないで作ったので巨峰の色合いには遠いのですが、砂糖をまったく使用しなかったのに、ちょうどよい甘さに出来上がりました。職場の同僚にも試食してもらいましたが大好評!!ジャム屋さんを始めようかなって一瞬、真剣に考えました。笑 他にも、凍らせた巨峰(種だけ取って皮はつけたまま)と牛乳だけでスムージーも作りましたが、こちらも巨峰と牛乳の優しい甘さで美味しい!

 

巨峰刈り

 

 しかし、こんなに素敵な柳川・両開の巨峰ですが、他の地方と同じように後継者問題には頭を悩ませています。実際、巨峰栽培は、高齢者にとって負担が少なくないので、毎年、巨峰農家さんの数が少しずつ減少していっています。このままではそのうち、両開の巨峰が食べられないときが来てしまう。そんなことにならないためにも、何かを変えていかなければいけません。

 6次産業化や首都圏への直販などがよく採り上げられますが、何よりも大切なのは、労働に見合うだけの収益が得られる仕組み作りです。巨峰の栽培が大変だとは言っても、会社勤め並みの収入があれば、後継者は必ず見つかるはずです。地元の産業を大切にするためには、まず地元の方々が、労働に見合うだけの対価を払って消費することが重要なのですが、悲しいことに、産地であるが故に、他よりも安く手に入れて当たり前という考えが、地方の農漁村地域では一般的です。

 これは商店街についてもまったく同じことが言えます。地元の商店街を元気づけるためには地元の人たちが商店街に行って買い物をしなければいけないのですが、どうしても郊外の大型店に車で乗り付けて、少しでも安いものを探して買います。

 

 巨峰園

 

 安いから買うという人はより安いものがあればそれを選びますね。その結果が、よく現れているのが、今のスーパーの生鮮品売り場です。国産の物に混じって外国産の物が安く売られていますが、その国から日本まで運んでくる運賃を差し引いてもこんなに安いのはなぜなのでしょうか?それはもしかしたら自分や家族の健康に関わることではないのでしょうか?私たちがその作物を買うことで、現地の生産者の方々は豊かになっているのでしょうか?

 フェアトレードという言葉をご存知の方も多いと思います。主に途上国の貧困な生産者や労働者の生活改善、自立支援のために適正な価格で購入・販売するという国際的なスローガンです。こうした国際的な取り組みももちろん必要ですが、私は日本国内についてもこうしたフェアトレードが必要だと思うのですが、みなさんはどう思いますか?

 実は、地産地消で地元の産業を応援することは、結果的に、自分の生活そのものを見直し、より豊かな毎日を送ることにつながります。このことをよく考えて、地元で穫れたものを大切に食べていくようにしたいものですね。

 

 

 

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