森林コンダクターについて
2016/05/18
- 執筆者 逢見祥平
- 所 属岩泉の明日の林業をつくる会
初めまして。岩手県岩泉町で森林コンダクターをしている逢見祥平と申します。森林コンダクターとは聞き慣れない職業だと思いますので、どのようなことをしているのか自己紹介したいと思います。
森林コンダクターの業務は簡単に言いますと、森林の多面的な機能を活かした新しい事業を立ち上げ、持続可能な森林資源の活用の仕組みをつくることです。
一口に森林資源の活用といいましても、様々な方法があります。一番イメージしやすいのが木を伐って売ることですよね。しかし、木材の流通価格が非常に低いので、出荷しても赤字なんてことも。ただ材料供給するだけではなかなか成り立たない商売なのです。それをどのようにして付加価値をつけ、利益の出るように販売するのか。そんなことを考え実行していくのが森林コンダクターの仕事です。
岩泉町は日本一広い「町」なのですが、その93%が森林なのです。一口に森林と言っても、人工林とか天然林とか、針葉樹だとか広葉樹だとかいろいろあって、それが混在している状態なのですね。そのなかでも岩泉町は、広葉樹の天然林が多いのが特徴です。この豊富な広葉樹をどのように活かすかが焦点になります。
ひとつは建材や家具としての活用です。広葉樹は針葉樹よりも硬いので、床材や家具などに最適なのです。ですから、そのような製品を製造するメーカーに材料を供給することが一つの目標となります。
国産広葉樹の可能性
すこし、木材業界の現状をお話ししたいと思います。日本は世界最大の木材輸入国であり、木材自給率は3割と非常に少ない状況にあります。ですが、特に広葉樹に関しては、海外から材料が入りにくくなったために、国産材に注目が集まり始めています。
なぜ海外から材料が入りにくくなったかといいますと、
●違法伐採に対する関心が高まり、伐採禁止の場所が増えたことで、市場に出てくる材料が少なくなっていること
●新興国の需要が高まり、材料確保の競争が激しくなっていること(日本と世界のフローリング寸法規格がズレているので、わざわざ日本向けに原板を製材しなければならず、めんどくさい)
●世界の木材が集まり加工していた中国の労働賃金が上昇することで、中国から撤退する業者がでていること(日本のメーカーは中国からたくさんの材料を買っていました)
●為替の変動で価格の上下が激しいので使いにくい
というような事情があげられます。そういったことから国産広葉樹に注目が集まり始めているのです。
このチャンスを逃す手はありません。岩泉町は広葉樹が豊富にあり、さらに国際認証であるFSC認証も取得しています。この2つの条件を満たす地域は全国にもほとんどありませんから、広葉樹を市場に出せる仕組みを全国に先駆けてつくることで、木材業界における岩泉町の知名度をアップさせることができます。
森林資源をフルに活用する
森林資源=木、木=林業というイメージがあると思いますが、森林の可能性は林業だけではありません。例えば、岩泉町では間伐林で畑わさびを栽培しています。
通常わさびは、沢に生育しているイメージですが、畑わさびは、森林のなかに生育しています。この沢わさびと畑わさび、ただ生育場所が異なるというだけで、別種ではなく、まったく同じものなのです。なぜ畑わさびを間伐林に植えるかというと、畑わさびの生育環境として、間伐林の木漏れ日が最適であるからだそうです。間伐する際も、畑わさび生産に適した定性間伐を行っています。
また、木からは樹液を採取できます。メープルシロップはもともとカエデの樹液を煮詰めたものなのですが、岩泉町でもカエデの木は豊富にあります。ですから、岩泉町でもメープルシロップはつくれるのです。樹液の良い点は、毎年採取できることです。木を丸太にして売るまでには植林してから60年ほどかかりますが、樹液であれば、ある程度育てばそこから毎年採れるので、短期的収入になります。どのように短期的収入を確保できるかという点が林業の長年の課題ですから、樹液ビジネスは非常に大きな可能性を秘めています。
さらに、樹液の優れていることは、「食」という観点から林業の窓口を広げてくれることです。一次産業と言われる農林水産業のなかで、林業は消費者との接点がとても少ないという問題があります。農業や漁業であれば、食事というかたちで毎日触れる機会がありますよね。だからこそ「食」というかたちで森林資源を考ようという「食べられる山プロジェクト」を始めました。
このプロジェクトの概要としては、食べられる木(樹液の出る木やクリやクルミなど実のなる木)を植えたり、育てたりすること。そしてその木を使って地域のお菓子屋さんやレストランと連携し、岩泉の特産品を作ろうというものです。
とはいえ、全くの一からの挑戦です。わからないことだらけなので、まずは実験する必要があります。幸運なことに山を自由に使っていいという山主さんに巡り合うことができました。私はその山を「ぼくらのもり」とよんでいますが、そこにはウリハダカエデやシラカバなど樹液を採取できる木が多く生育しています。まずはその2樹種をつかって樹液採取の実験をしていこうと思います。
樹液採取は時期があり、冬から春にかけての数ヶ月しか採れないので、今年はほとんど計画段階で終わってしまいそうですが、まずは樹液採取の流れだけでも把握したいですね。味や採取できる量も樹種によって異なるだろうし、どのくらい成長した木からなら採れるのかわかりません。まずはそのあたりの研究ということになるでしょうか。
このように建材としての広葉樹の可能性から、食べられる山プロジェクト」のように新しい森林の活用方法まで、幅広い視野で森林資源を見つめなおし、持続可能なビジネスを岩泉で構築することを目指していこうと思います。
【イベント情報】6/17-19 岩泉式の新しい森とのつきあい方
今回のフィールドワークでは伐採だけではない、森とのつきあい方を考えていきます。まずは地域木材流通拠点の構想についてお話しいたします。2日目はFSC認証を取得した製材所、間伐地を利用した畑わさびの生産現場を見学、製材所の端材を利用したアロマオイルづくり、地場産の野菜や乳製品を岩泉の広葉樹で燻製する燻製体験を通して、森の可能性を探っていきます。既成の枠に囚われることなく、多様な視点で未来の森づくりを一緒にはじめませんか。