柳川暮らしが楽しすぎて困ります ~農漁家民泊の巻~
2016/07/11
- 執筆者 阿部昭彦
- 所 属柳川市地域おこし協力隊
福岡県の最南部、佐賀県と熊本県に挟まれ、有明海に面した柳川市からこんにちは。柳川市地域おこし協力隊員の阿部です。
福岡県随一の観光地として有名な柳川。市内を縦横に流れる水路をどんこ舟でゆったりと巡る「川下り」と、蒲焼きにしたうなぎを米と一緒に蒸篭(せいろ)でもう一度蒸し上げる「うなぎのせいろ蒸し」の2つを観光の目玉に、内外からたくさんの観光客を受け入れています。市の貴重な収入源で、今後もさらに観光客誘致を進めるのが市のねらいです。
柳川のまちづくりに携わる人間として、多くの観光客が訪れている現状は非常に喜ばしいものです。しかしながら、同時に何か違和感を覚えるのも事実です。その違和感はどこから来るのか、私の足りない頭で考えるに、次の2点がその大きな要因ではないかと考えています。それは「旧来の物見遊山型観光であること」「観光に直接関わらないところに金が落ちないこと」です。
柳川を訪れる観光客が消費する額はあまり多くありません。これは川下りをしてウナギを食べて、いくつかの観光施設を見学して、他の地域に移動してしまうからです。柳川には宿泊施設が不足しているのが主な原因と考えられていて、そのため手頃な価格で宿泊できるホテルの誘致が進められています。確かに宿が足りないのは事実ですが、では宿を作れば観光客は柳川に泊まってくれるのでしょうか? 実際は、川下りしてウナギを食べたら、その次にすることがないから他の地域に移動するのではないか、私にはそのように思えてなりません。「観光客が宿泊したいと思うコンテンツ」こそ、今の柳川に必要なのだと思います。
また、現在の観光コンテンツが、柳川の基幹産業と結びついていないことも疑問です。古くは柳川でもウナギが捕れていたので、ウナギ料理が名物となったのですが、現在ではほとんど養殖のウナギ、それも他県で養殖されたウナギを使用しているところが多いと聞いています。
観光による地域振興のためには、地元の基幹産業、中でも1次産業と観光が結びつくべきだと私は考えています。観光による集客が地元の産業を刺激してさらに発展させ、それがさらに観光集客力に結びつくという関係性を築くことが肝要です。しかし、残念なことに現在の柳川の観光はそうなってはおらず、新しく建設するホテルも、全国でチェーン展開している企業です。こうした観光スタイルで本当に柳川は、観光による地域振興が可能なのでしょうか。
もと教員という私の目で見る限り、柳川には修学旅行の候補地としてふさわしい「学習コンテンツ」が目白押しです。北原白秋を中心とする文学学習、立花宗茂・田中吉政を対象とした歴史学習、その他にも、掘割の役割、水と人の結びつき(水争い)など枚挙にいとまがありません。特に、最大6mにも及ぶ干満差や独自の生態系を誇る有明海は、さまざまな角度からの学習が可能であり、間違いなく修学旅行を通じて子どもたちが大切な気付きを得られると自信を持って言うことができます。
そこで、現在、私が進めているのが、農漁家民泊による修学旅行の誘致です。最近では「民泊」という言葉がいろいろなところで聞かれますが、柳川で導入するのは、旅館業法の許可をきちんと取得した、農漁業体験を提供する小規模農家民泊です。農漁業体験だけはなく、一緒に料理するのも体験、知らない人の家で寝るのも体験、よその町の景色を眺めるのも体験、民家のお父さん、お母さん、おじいさん、おばあさんとたわいない話をするのも体験。子どもたちにたくさんの体験を提供できるのが、この農漁家民泊です。
子どもたちにとってだけでなく、民家側にも得るものが大きいのがこの農漁家民泊の素晴らしさ。いつもは夫婦ふたりで暮らしている家に、孫のような子どもたちが来ることで家の中が明るくなる。自分たちが当たり前にしていることに「すごい!」と言ってくれる。毎日食べている料理を「美味しい!」と言って喜んでくれる。これまで自分が積み重ねて来た年月が間違いではなかったと教えてくれる子どもたち。出発の日には、子どもたちも民家の人たちも別れを惜しんで涙を流すこともしばしば。これが農漁家民泊の修学旅行です。
日本全国でも盛んに行われている農漁家民泊ですが、受け入れ民家だけでなく地域にも良い効果が表れていることが分かってきました。民泊を導入している地域では「自分の育てた野菜」「旬の美味しいもの」を子どもたちに食べてほしいと、地産地消が進みます。また、自分の農漁業にプライドを感じ、さらに技術に磨きをかける民家も少なくありません。受け入れ人数の多い家庭では、農漁業以外にもまとまった収入が期待できることで、息子さん、娘さんが戻って来て、後継者となってくれたという話も多く聞かれます。
教員時代に自分が引率した沖縄への修学旅行でも農漁家民泊を採用しました。民泊が1泊、その後は有名なリゾートホテルに2泊したのですが、「3泊とも民泊がよかった」という声が圧倒的でした。どんなにきれいでおしゃれなホテルよりも子どもたちが喜ぶ民泊。美しい風景やおいしい料理など「モノ」ではなく「ヒト」と出会うことこそが旅のかけがえなさだということに子どもたちは敏感に気付いているのかもしれません。
柳川での農漁家民泊も、子どもたちに、民家の方々に、そして柳川に、大切なものをもたらしてくれると信じています。まだまだ準備段階ではありますが、ぜひご期待ください!