遠野市に伝わる究極の薬味「暮坪かぶ」の味とは
2016/08/17
- 執筆者 山田泰平
- 所 属遠野市のギフト制作委員会
今日の遠野は、台風の影響で非常に強い雨が振り続けています。お盆期間中はほとんど雨が降っていなかったこともあり、これが恵みの雨になることを祈っています。
さすが岩手県ということもあり、朝晩はだいぶ涼しくもなってきました。「お盆が終われば、夏も終わる」そんなことを話していたことは本当だったようです。
暮坪かぶって?
さて、今回は「暮坪かぶ(くれつぼかぶ)」という野菜を紹介しようと思います。皆さんは暮坪かぶってご存じですか?
これが暮坪かぶです。スーパーでお見かけしたことはほとんど無いと思います。
遠野市の中でも、上郷町、そして“暮坪”という地域でしか生産することができない「幻のかぶ」になっています。
また、グルメマンガ「美味しんぼ」では、そばや刺身の「究極の薬味」として絶賛されました。幻で、究極とかと言われると、ちょっと気になってきませんか?
暮坪かぶの味って?
かぶと言えば、スープや煮物に使う方が多いでしょうか。生でも食べることができますし、ソテーしても美味しい。ある意味万能型の野菜だと思っています。
一方の暮坪かぶは、独特の風味があるため、火を通すよりも、風味をそのまま味わうために、酢漬けやそば・そうめんの薬味として召し上がるのが多くなっています。
遠野市は観光地として知られていますが、「暮坪かぶとそば」は名物の1つです。
そばの横にある薬味がそれです。ちなみに、暮坪かぶは、「暮坪」という地域以外ではその名称で生産することはできません。それ以外の遠野市内で生産された暮坪かぶは、「遠野かぶ」という名称で販売されています。実はこのそばの画像のかぶは「遠野かぶ」です。
皮をむかずにすりおろして味わうと、わさび、唐辛子や辛味大根ともまた違う風味があります。それぞれの分野で辛味があるとすれば、暮坪かぶの辛味は、他と比較し得ない、暮坪かぶとしての辛味になっています。
暮坪の地域で育てられたものは、その土や気候から、非常に辛味が強いものになっています。有名シェフもわざわざ生産地に赴き、その味をチェックしに来ることもあるんだとか。「薬味」はあくまで脇役ですが、その脇役の動き次第で、主役の輝きが増す素晴らしい一例かと思っています。
流しそうめんの楽しい一時も、暮坪かぶがあるだけで素敵な時間になります。そもそも流しそうめんが気軽にできるのは、田舎ならではなのかもしれませんね。
生産してる方って?
この暮坪かぶの生産を一手に引き受けているのが、「協同組合暮坪かぶ」さんです。今回は理事長を務める菊池さんと、販売を手掛ける「遠野ふるさと公社」の佐々木さんにお話を伺ってきました。
菊池)協同組合暮坪かぶの理事長をしております、菊池と申します。協同組合と銘打っていますが、実際には家族で生産、販売しております。
佐々木)遠野ふるさと公社の物産進行統括をしております佐々木と申します。主に遠野の暮坪かぶのような遠野の良品逸品を有名に、よりよく広めて、老若男女、知ってもらうために日夜奔走しております。
左:佐々木さん、右:菊池さん
山田)よろしくお願いします。早速ですが、お二人のお仕事の関わりってどんなものがあるんですか?
佐々木)暮坪かぶは、遠野を代表する産品の1つです。遠野のそばも美味しいので、そちらと一緒にPRするために、ふるさと公社ができて以来お世話になっています。暮坪かぶが出せないとなれば、商売上がったりです。
山田)売上だけでなく、PRの観点からも非常に強いですよね。「ここでしか取れない」って。この価値は市内でも皆わかってるものなんでしょうか?
佐々木)広まってるし、わかってる筈。けど、改めてPRしないと、市内には他にも数々の農産物があるから、暮坪かぶがあることが「当たり前」になってしまう恐れがあるんです。改めて良さを認識して、PRして、それがいかに大事なものなのかを伝えたいと思ってます。それを求めて遠野に来ている方もいるし、暮坪かぶは全国、全世界にPRできるものですから、埋もれ無いよう大事にしたいです。
山田)あ、熱いですね。
菊池)いつも佐々木さんはこんなに想ってくれてるんだなぁ。昔は協同組合として直接販売にしに各地に行くこともあったけど、生産した上で販売するって、とてもじゃないけど、それは無理なんだよね。時間がいくらあっても足りないくらいだったよ。
佐々木)そりゃあそうですよ。
菊池)出荷するまでにして、自分でもっていって、会場でPRして、なかなか大変で・・・。だから誰かが販売やPRしてくれるもらえるようであれば、うちも専念して生産できるし、売るところがあって、すごい助かってます。
山田)6次産業が叫ばれるなか、それとは違う形で上手な連携を取れているように感じます。
山田)暮坪かぶの旬ってあるんですか?
菊池)11月下旬、初冬のあたりかな。その時がいちばん美味しいよ。夏に出してるのは、要望が多くて栽培してるんだよね。
山田)冷たいおそばと暮坪かぶ、美味しいですもんね。
佐々木)遠野の四季と東京都の四季、少し時期が違うんですよね。シーズンをわかって注文いただける方、旬の一番美味しいときに買って「美味しいなぁ」って言ってくれると本当に嬉しいなぁ。
山田)遠野ふるさと公社さんが運営されている「道の駅風の丘」ではほぼ通年で販売してくださってるから、旬はなかなかわからなかったです。旬の時期はやっぱり味が変わるものなんですか?
菊池&佐々木)全然違う。わかるよ。
山田)こ、これは失礼しました・・・。
山田)暮坪かぶの美味しさを伝えたいんですが、どうしても伝えづらいんですよね。いつもどんな風に伝えてますか?
菊池)「土臭くて、辛いんだけど、後に残らない」みたいな感じ・・・。かな?いつもなんて説明してるっけか(笑)
佐々木)私は甘みのある辛さって説明してますよ。なんて言うんでしょう、ビリっと山葵のように尖ってなくて、丸みのある感じ。
菊池)爽やかな辛味だよね。
佐々木)そうですよね。わさびの辛さを刺々しい若いヤンキーみたいに例えるとしたら、暮坪かぶは任侠道を覚えた優しい極道の親分みたいな。トゲトゲせず、重みがある。ピリッじゃなく、フワァっと辛い。
山田)えぇ何ですかそれ(笑)でも辛味の談義ができるのはおもしろいですね。
菊池)ほかに比べるようなものもないもんね。
佐々木)他の辛味とまったく別物ですからね。
山田)最後に、畑を見せていただいてもいいですか?
菊池)ちょうど何も埋まってないけど、それでもよければ。
山田)ありがとうございます。これが畑ですか。
菊池)なるべく薬を撒きたくないからマルチを敷いたんだけど、鹿に踏まれら。あーあー。
山田)さすが遠野だ。
菊池)暮坪かぶは連作ができないから、暮坪地域のいくつかの土地でうまく育てていってるんだよ。同じような形になるよう、もちろん味も良くするために水分を含まないよう考えながらね。形が悪かったりしたら、育ったとしても、商品として出荷できるものは限られちゃうんだ。
山田)それは凄い。こうやって、遠野市が誇る1つの産品は生まれ、だからこそブランドとして成立していくんですね。
幻のかぶは、遠野市の上郷町、暮坪地域にありました。暮坪かぶは、400年前から今も種を採って育てられ続けています。これの伝承が途絶えてしまえば、積み重ねてきた苦労が無駄になってしまうと、菊池さんは危機感を抱いていました。究極の薬味が究極の薬味たる由縁は、菊池さんの究極のこだわりから生まれているだと感じました。
ぜひ遠野にお越しの際は、「暮坪かぶとそば」を食べてみてください。また、遠野市のギフトにも入れることが決まっています。10月の完成をお楽しみにお待ち下さい。