大自然のお仕事「カヌーガイド」
2017/10/20
- 執筆者 寺嶋紀人
- 所 属一般社団法人いなかパイプ
私が四万十に来たキッカケの中に、
「自然の中で一度は暮らしてみたい」
ということがありました。田舎暮らしに憧れる方によく聞く理由の一つでもあります。
山や川、動物と植物。そんな緑豊かな自然に囲まれている生活っていいなぁって、人工的に作られたものに囲まれた都会にいるとそう思うのかもしれません。私はそうでした。
でも「自然」ってただ田舎に住むだけじゃなく実際にそのものに触れ、感じてみて初めてわかるものではないか。とカヌーの仕事を始めてから思い始めました。
一般社団法人いなかパイプでは夏にカヌーガイドの手伝いをしています。どこの田舎でも起きていることかもしれませんが、「人手不足」という経緯からでもあります。
「人がおったら出来るけんどねぇ~」
という声を四万十に来てからよく耳にします。
その「出来ないこと」とは、例えば1次産業(農業など)を2次3次(加工品)と繋いでいくにあたり人がいなくて1次までで止まってしまったり、逆に2次をもっと作りたいけど1次(生産者)がいなくてそれ以上は作れなかったり。
私たちがお手伝いに行っているカヌー館もそうで、予約の問合せが多くとも人手が足りないがためにツアーを開催できないこともあるそうです。
私が都会にいた頃、例えばアルバイトなどにおいて「人手が足りない」ということはよくありました。
しかし同じ働き手不足の問題であっても田舎のほうは「人の絶対数が少ない過疎地域が生き残っていくには」というような副題がついてくるので随分質が違うような感じを受けます。
大まかにガイドの仕事の説明をしますと、
・ライフジャケットなど装備の準備
・お客さんに本日のコースのご案内
・漕ぎ方などをレクチャー
・インストラクターとして一緒に川を下る
・カヌーや装備を片づけて、明日の準備をする
といった内容です。
ただそれは単なる仕事の内容であり、ガイドの仕事とは「四万十川」と「人間」という二つの自然を相手にしていくことだとまだまだ初心者の私ですがそう感じています。
四万十川というと「日本最後の清流」と呼ばれていることから何となく雄大で美しい川を想像される方も多いと思います。
もし観光に来て眺めているだけだったら、
「ああ、四万十川ってきれいだなぁ~」
という感想を単純に抱くのではないかと思います。
でもそれはあくまで外から見た「絵」として捉えている印象であり、カヌーに乗ると「立体」としての大自然・四万十川が待っています。
視線の上には晴れ渡るくっきりとした青い空。そこを悠々と流れる白い雲。眼前に迫る山々。時よりトンビなど鳥達が交し合う鳴き声。そして下には川底まで見える透き通った川。アユなどの魚達が横切ることも。
そんな景色を味わいながら大自然の中に身を置くことも楽しみのひとつ。
そしてもう一つはやっぱりカヌー自体に乗る楽しさ。川にも様々な地形があります。川幅、岩の配置、わずかな高低差、そしてその日の水量。それら色々な要素が複雑にあわさってコースの中に緩急がついてきます。
穏やかで流れがないところは景色や会話を楽しみ、波がうねりだしスピードが出るところなどは「キャーコワイけど楽しい~!!」というアトラクション的な面白さがあります。
しかし、それらは「お客さんにとって」という前置きをつけねばなりません。もちろんガイドがカヌーを楽しんでいないということではありませんが、先に述べた通り川も人間も「自然」だからです。
川で遊ぶ。そこに人間がちょっとお邪魔して楽しんでいるという感覚でちょうどいいのでしょうか。
川というものは言ってみれば山から溢れ出した水の集合体のようなものです。水の力というものは本当に強い。多くの被害をもたらした東日本大震災の津波もそうであったように人間が思っているよりはるかにパワーがあります。
私もはじめの頃、この水の力を見誤り何度かケガを負いました。たった数cmの水位であっても流れが速いところでは人間は身動きがとれなくなり、「アッ」と足を取られれば流されていってしまいます。
「自然の流れ」というものがアチコチに確実に存在していて無理にそれに抵抗すればその力は自分に跳ね返ってくるのです。
もしも船が沈脱(転覆)し川に投げ出されたら流れに身を任せないと周りにある岩に衝突するなど大変危険な場合もあります。
だからといって流れに身を委ねているだけであっては自然に弄ばれてしまう。自然にしっかりと「自分の意思」を示さねばその中に飲まれてしまう感覚もあります。
なのでお客さんは楽しんでいてもガイドは常に気を張っています。川にはところどころ危ない箇所もあったり、速い流れに飲まれて船がひっくり返ったり。「自然の流れ」に飲まれて危険な状態になるのを防ぐためです。
それと「人間もまた自然」ということがあります。集まった参加者30人いれば30人の癖、趣向、年齢、運動神経、その日の体調など。そんな中で初めてのカヌーをすぐ乗りこなすのかそれとも苦戦するのか、またどのように川の上で動くか。予測などもちろん出来ません。
そして人間にも「自然の流れ」が存在しています。これを無視してコミュニケーションをとることは出来ません。コントロール下に置いてしまえば自然(人間)は生き生きとしたものを失ってしまうのです。
「川」と「人」。複雑な要素を持った二つの自然が合わさってツアーが成り立っています。それなので当たり前かもしれませんが一つとして同じモノは存在しません。毎回その互いの「流れ」を尊重してガイドを行うのです。
この仕事をはじめなければ、四万十にせっかく移住したにも関わらず自然というものが理解出来なかったかもしれません。
そんなことを川とカヌーガイドから学ぶのでありました。
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