ふつうって何?〜山と島の2拠点生活からみえる暮らし
- 執筆者 上野仁美
- 所 属Nurse and Craft 合同会社
2020/11/24
山のふつう
広島県三次市(みよしし)という山のいなか育ちの私。どれくらいの“いなか”かというと、当時私の小学校の同級生は18人で、1番1学年の人数が多い学年でした。
通学は歩いて20分で、これくらいはまだ近い方、遠い子は1時間。今は同級生が4人くらいの規模になり、複式学級になっています。
どの家にも畑や庭、蔵や離れが敷地内にあって、お隣さんとは徒歩1分ばかりの距離。車は1人1台で車庫付き。地域にはかつてあった小さなスーパーはなくなり、今は住民が出資して作った「郷の駅」という道の駅とファミリーマートが合体した施設があります。
市街地までは車で20〜30分ほどで週末にまとめて必要なものを買い物します。生まれ育った時からこの環境にいれば、これがふつうの暮らしでした。
私の部屋から眺める風景
島のふつう
瀬戸内海に浮かぶ大崎下島で暮らし始めて、これまでの“ふつう”とは違うことがたくさんあることに気づきました。
そして、私の“ふつう”からはかけ離れていて驚いたのが、中でもこの5つです。
①家の密集具合
②ピンポンのない玄関
③フェリー通勤
④バスでみかん畑
⑤念願の家のすぐそばの畑
地形や文化の違いがあって面白いなぁと感じます。今回はこれらを紹介します。
実家の離れより近いご近所さん
島では、敷地が限られており、集落と人がいないエリアがくっきりと別れています。そして私の暮らす集落は島の中でもかなり、家と家が密集しているエリアで、庭や駐車場のある家はごくわずかです。
我が家も建物しか敷地がありません。家のドアを開けると、すぐお隣さんがみかんの出荷作業を。窓を開けると、お向かいさんが洗濯物を干しておられ、ベランダ越しにおはようと挨拶を。ご近所さんが家にいる家族を呼ぶ声が聞こえたり、テレビの音が聞こえたり・・・ご近所さんが実家の離れより近いんです。
実家の離れに暮らす祖父母の生活音を耳にすることはなかったので、今の島の家は一人暮らしの感じがしません。
ドアを開けるとお隣さんの作業場
こちらが我が家の本宅から見る離れ、3世代が暮らしています
ピンポンのない玄関
用事でお宅へ伺う時、インターホンを押したり、「こんにちは」「ごめんください」などと挨拶をしたりして、家主さんが出て来られるのを待っていました。しかし、島にはインターホンがついておらず、ピンポン出来ない家が多いんです。
声を出せば、家のサイズ的に聞こえるから必要ないということなんでしょうか。島の我が家にもありません。時々「こんにちはー」と言われる声が聞こえますが、果たしてこれは我が家に向けての「こんにちは」なのかどうか悩みます。
宅配便の方が「上野さーん、お届けものです」と言ってくださって初めて、あぁうちだったんだと気づき、ホッとする次第です。
フェリー通勤とフェリー通学
大崎下島はとびしま海道と言われる島が連なる島のうちの一つで、ここは橋で本州の本土と繋がっています。
近隣には橋が繋がっていない有人島も存在しています。その島で暮らす方々の生活手段はフェリー。小さな島であれば、ここ大崎下島に仕事やデイサービスに行くためにフェリーで渡って来られたりしています。
ですが、この島には高校がないため、近くのここより大きな大崎上島にフェリーで通学をされている子どもたちもいます。みかんの畑が離島にあり、フェリーで渡る軽トラもよく見かけます。
フェリーの行き来を見ると、知らない日常がそこにはあってなんだかいいなぁとほっこりします。
大崎上島から大崎下島へ
どうやってでもみかん畑へ行くことが日常
農作業に欠かせない軽トラ。これはどこの田舎も必須なのではないでしょうか。ですが、年を重ねると、徐々に車の運転も危なくなって免許を返納したり車を手放したりするおじいちゃんおばあちゃん。我が家の祖父もつい最近車を卒業しました。
近くに畑があれば、歩いて行け、車がなくてもやっていけます。が、島で出会ったおじいちゃんとおばあちゃんは、セニアカーやバスを利用してまでみかん畑へ出かけられています。
みかん畑で農作業することがふつうな暮らしで、なくてはならないもの。80代でも、みかんの苗木を植えておられたりするので驚きです。
バスに乗り遅れたら、たまには運動をと片道50分歩いて畑へ
念願の家のすぐそばの畑
先ほどもお伝えしたように私の暮らす集落には、庭や駐車場がないことが多いので、畑なんてほぼありません。
お向かいさんから、野菜をいただきましたが、畑ってどこにあるんだろうと思っていたら、庭木のすぐ下に窮屈そうにナスやトマトが植わっていました。
とあるおばあちゃんは、最近隣にあった建物を壊し更地にされました。数日後に再び行くと、そこが家庭菜園に。
「足が悪くっても、すぐ隣だからできるのー」
と喜びながら、楽しそうに水やりをされていました。
片手に杖、片手にジョウロを持ち、上手に水やりをされている姿を見届けながら、身近で畑ができることは至福なことなんだなぁと感じました。
四方を家に囲まれた畑に水やりをするおばあちゃん
こんな風に、山と島とを行き来することで、新しい発見が常にあって、“ふつう”の違いを見つけては楽しんでいるこの頃です。