林業ってぶっちゃけどうなの?!~まずは5日間現場で学んでみませんか
2016/05/08
昨年あたりから「林業を成長産業に!」「林業で地方創生!」とやかましく言われています。地方での暮らしや地域おこしに興味のある方なら「木質バイオマス」「CLT」「自伐林家」といった言葉を耳にしたことはあるのではないでしょうか。私自身は現在、岩手県釜石市の復興支援員(通称「釜援隊」)として釜石地方森林組合でいくつかの事業を担当しています。今回はそのうちのひとつ「釜石大槌バークレイズ林業スクール」という人材育成事業を中心に紹介しながら、いまの日本の林業の課題についても少しおさらいしたいと思います。
人材がいのち 担い手不足の林業業界
釜石地方森林組合は、東日本大震災で大きな被害を受けました。まちなかにあった事務所にいた人を含めて役職員5名が犠牲になり、事務所やそこにあった資料も流されてしまいました。一時は、近隣の森林組合との合併もやむなしかと思われましたが、組合員(山林所有者)さんや全国からの支援を受けて、復興に向けてさまざまな取り組みを進めています。
職員を失ったことに加え、組合が所管する釜石市と大槌町ではたくさんの事業所が流され、職をなくした人も少なくありませんでした。職員を率いる参事の高橋幸男さんは「地域の若者の雇用の受け皿になりたい」と、震災後に20~30代の9名を採用し、21名で新たなスタートを切りました。
林業で地域の経済や雇用に貢献したいという高橋さんの思いを知った、英国に本社を置くバークレイズグループが支援を申し出、2014年からバークレイズの資金的支援を受けて、「釜石大槌バークレイズ林業スクール」という人材育成事業が始まりました。
現在、林業の課題のひとつとされているのがこの担い手不足問題で、京都府や秋田県など各地の府や県レベルで林業の仕事をしたい人向けの学校も創設されていて、岩手県でも2017年度に創設されるようです。
そもそも日本にいったいどれくらい林業の仕事をしているのか。多くの人には想像がつかないかもしれませんが、農林水産省によると5万1200人(2010年)だそうです。おなじく一次産業の農業は、農業を主な仕事にしている「基幹的農業従事者」で209万人(2015年)ということなので、農業と比べてもだいぶ少ないでしょう。都会はもちろん、地方でも県庁所在地などにいると、あまり林業従事者に会うことはないといのが、数字からも分かります。ちなみに林業従事者の高齢化率は21%で、全産業平均の10%の2倍!となっています。
そんな中で、釜石地方森林組合の職員の平均年齢は38歳。20代が5人、30代4人、40代10人、50代以上2人、となっていて、全国的に見てもかなり若い組合です。さらに、5年前の震災以降に採用された職員が多くいます。よく言えば、「若くて活気がある」、悪く言えば「経験不足の職員が多い」というのが特徴です。
林業スクールは、林業に興味がある一般の方が林業の仕事の導入部分を知ることで、釜石大槌や岩手県内の森林組合や林業会社に就労する、または林業関係の企業や団体を起こすことにつながってほしいとの思いで創設しました。同時に、まだ経験不足な職員にJOBで身につける通常業務だけでなく、もっと広い視野で林業の知識や経験を身につけさせたいという狙いもありました。
森林組合と外資系金融機関という民間が行う人材育成ということでマスメディアや林業界の方々から注目していただくことも多くありますが、たしかに、林業機械のことからマーケティングまでを学ぶ林業の学校というのは、行政主導の硬い組織だとなかなかできないと思います。
毎月1度の「林業スクール」
第1期の受講生は、2014年12月に公募しました。第1期は6名は釜石地方森林組合に震災後入った職員が受講することが決まっていました。そのほかの6名は、開校を伝える新聞記事や当組合のホームページを見て応募した方々で、釜石大槌市町内2名、市外の岩手県内3名、宮城絵県内1名で、20代~60代の全員男性でした。応募の段階で「いったいどんな方が申し込んでくれたのか?」と思っていましたが、3名はご自身または親が山林所有者で「自分で山の手入れをしたいが技術がない」という方々、2名は組合やNPOですでに林業に従事している方、1名は学生でした。主催者の狙い通りに「これから林業の仕事に就きたいんです」という方々が集まったというわけでではありませんでしたが、立場は違っても林業を学びたいという思いの強い人たちが、毎月1回、遠方からも通ってくれました。
スクールは、受講生12名のみで行う「実践編」と、受講生だけでなく一般の方にも参加してもらうオープンセミナーの2本立てで行いました。
「実践編」は
<1月>
「森林組合とは ~釜石地方森林組合の現状と課題」
高橋幸男(釜石地方森林組合参事)
「コミュニケーションとリーダーシップ」
高田研(都留文科大教授/環境教育)
<3月>
「作業の安全 ~刃物・チェーンソー・刈払機の使い方と手入れ」
内田健一(木と森の技術と文化研究所
<5月>
「森の診断と施業計画」
内田健一
<6月>
「測量実習」
内田健一
<7月>
「林業機械と木材の収穫技術」
酒井秀夫(東京大大学院農学生命科学研究科教授)
<9月>
「路網開設の理論と実践」
湯浅勲(日吉町森林組合理事)
オープンセミナーは
<2月>
「<林業ガール>女性を生かす職場づくりを考える」
(敷島清子=バークレイズグループ)
<4月>
「世界と日本の森林と林業」
内田健一、相川高信(三菱UFJリサーチ&コンサルティング環境・エネルギー部主任研究員)
<6月>
「IT技術を導入した林業の可能性」
仁多見俊夫(東京大大学院農学生命科学研究科准教授)ほか
<10月>
「森ではたらく!そのマーケティング理論と実践〜全国の事例大公開&参加型ワークショップ」
古川大輔(「古川ちいきの総合研究所)代表」ほか
<12月>
「木質バイオマスエネルギーの課題と展望」
熊崎実(木質バイオマスエネルギー協会会長)梶山恵司(遠野バイオエナジー代表取締役社長)
――というバラエティにとんだメニューで実施しました。
第2期は4月スタート! 短期集中コース受講生も募集中
このバークレイズグループからの支援は3年間のもので、4月からは第2期がさっそくスタートします。今回も定員は10名で募集し、1年ぶりに「本当に集まるだろうか」という不安を感じましたが、1年間の実績がメディアでも多く取り上げられたためか、13名の応募があり、若干の定員オーバーですが、全員に受講してもらうことになりました。「実践編」の6回については第1期の内容を踏襲し、オープンセミナーは講師やテーマを大きく変えて行う予定です。
じつは第1期に「毎月1回通う」というコースだけを設定し、スタート当初から「これでは東京とか遠方の人は通えないよね……」という課題を抱えていたため、第2期は、8月と10月に「5日間の短期集中」というコースを設けることにしました。
個人的には、いまは東京の大学に通っていたり、東京で社会人をしていて、「遠からず釜石大槌に戻ろうかな。林業もいいかも」と思っているような方に受講してもらえたらなによりだとおもっています。森林組合の高橋さんは「林業は遅れた産業だからこそ、自分でも新しいことを始められるし、それに『高橋方式』という名前がつくかもしれない」と言っていますが、まさにそんな可能性を秘めた業界ではあると思います。
就労人口が減っているのにはそれなりに理由があり、間伐をしなくてはならないと分かっていても間伐が進まないのにも理由があります。である以上、国が「林業を成長産業に!」と叫んだからと言って、突如、成長産業になるほど甘くはないと私は思っていますが、一方で、林業に可能性を感じる組織や経営者の取り組みによって、その組織の収益を上げることやその地域の山を良くすることはできると思います。地方からボトムアップで林業を変えていくのが理想的かつ現実的ではないでしょうか。
この記事を見て興味を持った方は、ぜひ釜石大槌バークレイズ林業スクールのサイトをご覧くださいね。