古民家を受け継ぐ(2)
2013/07/01
少し間が空いてしまいました。第1話では、改修をした古民家の位置する土地や建物の特徴などを簡単に説明させていただきました。
詳しくは、第1話 古民家を受け継ぐ(1)
https://inaka-pipe.net/20130204/
この中で、古民家が残るかどうかは、「後世の人間が、この家を残したい、手を入れたいと思わせるような、すばらしい意匠がそこにあるかどうか」と書きました。
住宅には、表と裏とがあります。
現在では、表は外観であったり、リビングであったりするのではないでしょうか。他者を迎え入れる空間と言い換えることもできます。裏はキッチンや寝室やお風呂などがあたるでしょうか。もちろん、オープンキッチンなど、表と裏とがはっきりとしない曖昧な部分もありますが、大きく表と裏に分けることができます。
ご紹介をしている古民家では、表と裏がとても分かりやすく、南側に土間や和室、床の間といった表の空間が並び、北側に台所や調理場、寝室、風呂等の裏の空間が並んでいました。
表の空間は、柱は地栂(つが)、床は畳で縁は濃黒、壁は漆喰塗りに、天井板は桧と、選りすぐった意匠を用いている。畳や壁などは、表を貼り替えたり、上土を塗り替えたりと変わってはいるだろうが、建築当初より大きな変更はない。もちろん、照明器具がついたり、コンセントが配線されたりといったことはあるが、それは時代の変化の中で当然に受け入れるべきものである。
表の空間に対して、裏の空間は、生活の変化に合せて大きく変更されやすい。
かつては、製糖場として多くの職人を雇っていたため、台所にはおおきな竃突(おくど)があり、何升もの米を一日に炊いていたという。
今から40年ほど前に、台所はダイニングキッチンとなっている。ステンレスの流しに、電化設備が入る。床を組み合板のフローリングで仕上げ、冬場の寒さを防ぐために天井を貼り、暖を採りやすくしている。
今回の改修では、床組をやり直し杉板に張り替え、天井を取り除き大梁をみせるとともに、屋根の下地をわざと表すこととした。はじめは母屋の下に天井を貼ろうと思っていたが、自然の形にまがった垂木さえも美しく感じ、表すこととした。野地板は、10年ほど前に瓦屋根を葺き替えているため新しいが、その対比がまた美しく感じた。こういった仕事をする時、本来ならば、通気構法などを採用して夏の暑さをより防ぐようにしたいのだが、10年前に屋根工事をしたばかりのため、今回の改修では行わなかった。
天井を落してみて、一番驚いたのは、屋根と屋根の取り合いから雨水が入り、長い年月をかけて白蟻が6mもある梁を一本丸ごと食べつくしていたことだ。構造上重要な役目をする梁が何も役に立っていない。白蟻の恐ろしさを感じるとともに、一か所が壊れても互いが助けるという「総持ち」という日本建築の特性を目の前にみせられた。
梁を支える柱も白蟻にやられてしまっていた。柱には蟻道があり、屋根の取り合いから漏れた水が、梁を腐らせ、柱に伝わり、白蟻を呼び込んでしまったのだろう。
40年前に天井を貼ったことが、こうした結果を導いてしまった。当時は、防水の技術も未熟であったし、家人が気になった時に確認をできる天井点検口などをとるような仕事はしていなかった。
今回は、梁を入れ替え、柱を抜き替える大工事となった。
新しく梁が入ることとなり、急遽、設計を変更して、その梁を空間のアクセントとしてみせることとした。こうした構造上重要な役目を果たし、かつ意匠面も重要な梁というのはどうしても値段が上がるが、魅力ある材は空間の中で永遠に輝き続けるものであるため、施主には無理を強いた。
家には表と裏がある。裏は水回りなど、家族や社会状況の変化に合せて、1世代ごとに変更されてきている。表が変わらない分、裏を変えていくことで、生活は便利になるし、暑さ寒さ等にも耐えることができるようになる。また、自分が家をさわったという楽しみにもなる。ここで素晴らしい意匠と、維持管理のしやすい工夫が積み重なっていけば、家はまだ何百年も生きることができる。