パッシング王国・高知
2012/09/07
- 執筆者 川村聡志
- 所 属特定非営利活動法人 NPO84プロジェクト
高知で車を運転すると、よくパッシングされる。
そして自分もよくする。
そのたびにココロが温かくなる。
◎パッシングとは?
自動車の運転中に、前照灯を瞬間的に上向き(ハイビーム)で点灯させること。
本来は、自車が先行車に追い付いた際に
「先に行きたいので進路を譲って欲しい」という意思表示として使用する。
(wikipediaから抜粋)
このパッシング、基本的にはドライバーのエゴを押しつけるものとして、
マイナスのイメージにとらえられていることが多いと思う。
けれど、高知に住んでいるぼくにとっては、するのも、されるのも嬉しいものだ。
高知県は森林率84%を誇るニッポンイチの森の国。
高温多湿の日本において森とは、人間が開発できない、
もしくは開発することがむずかしい地域にできるものであり、
つまり高知は山ばっかりの土地ということだ。
そんな山のなかにも盆地やなだらかな傾斜の部分が点在しており、
そんな集落をつなぐ道路は自然と細く、カーブが多くなる。
しかし、そんな細い道ばかりでは交通の便が悪いので、
高知の国道は車線を確保するために特にトンネルが多いと感じる。
(「酷道」と言われる程狭くてカーブばかりの国道もあるが(笑))
また高速道路も愛媛から高知に入ると、
[高知ICまでトンネル1/19]と表示されるほどトンネルが多い。
高知IC以西の高速道路はさらにトンネルが多いので合計30個ぐらいはあるのではないだろうか?
さて、車の免許をとりたてのころ、そんな高知の国道を気分よく走っていると、
軽トラにのったおっちゃんにドライバー人生初めてのパッシングを受けた。
瞬間、焦る。
「え?自分なにか悪いことしたろうか?」
「あのおんちゃん見たことないし、知り合いじゃないはずやけど。。」
そうやって、なかばパニックになりながら走っていると、、、ふと気付く。
「あ!トンネル出てからライト消すの忘れちょった!!」
そう。
高知県の山道ではこんな「おせっかい」なパッシングがよくある。
初めて受けたときは戸惑うが、意味が分かると
「自分は一人じゃない、見守ってくれている」という安心感が生まれてくる。
人によってはうっとうしく感じるかもしれないが、
こんな温かいコミュニケーションが生まれる道があること、人がいることをぼくは誇りに思っている。
さっきのは「ライト消し忘れちゅうで~」のパッシングだが、
ほかにも、狭い山道ですれちがいのときに先に広いスペースに止まった車が行う、
■「ここで待つき先いきや~」パッシング。
さらに、警察がネズミ捕り(スピード違反取締り)をしているときに教える、
■「ネズミ捕りやりゆうで~」パッシング
などなど、いろいろなカタチのパッシングを通して、コミュニケーションが生まれる。
この「おせっかい」なほどの優しさの源泉は、環境の厳しさから生まれたものだと思う。
北には最高2000mほどにもなる四国山地が広がり森林率は84%、
南側はすべて海に囲まれて交通は遮断され、日照量が全国最高クラスにかかわらず、
降雨量も全国平均の2倍程、台風銀座といわれるほどよく天気が荒れる。
こんな環境だからこそ、助け合って生きる文化が生まれているのではないか。
そんなこころやさしい道がいつまでも残るようにと、
今日も僕はトンネルの先でパッシングする機会をうかがっている。