イナカグラシクエスト
2014/05/22
いなか暮らしを始めて感じたこと。
いなか暮らしはロールプレイングゲーム(RPG)に似ている。
まるで“ドラゴンクエスト”ならぬ、
“イナカグラシクエスト(略してイナクエ)”なのである。
人生をかけた壮大なリアルRPGが“イナクエ”なのだ。
大都会“おおさか”から移住して1日目。
何もわからないところからスタートする。
(以下、実体験を元に分かり易く脚色したフィクションです。)
「おきなさい。おきなさい わたしの かわいい ○○や。」
といって起こしてくれる母はいないけど、
心地よい朝の空気と鳥の鳴き声で目が覚め、
「あぁ田舎に来たんだな~。」と実感しながら始まる初日。
まずは王様に謁見する代わりに、公民館長に挨拶に行く。
「よくぞ きた!(こんな田舎まで!) ゆうかんなる オルテガのむすこ…、
・・・じゃなくて えっと? なまえ なんだっけ?」
とか言われながら、記憶力の鈍りつつあるお爺ちゃんお婆ちゃんたちに、
会うたびに名前を伝えてなんとか覚えて貰う。
(とりあえず以下“勇者”というすごいキラキラネームということにしよう。)
そして館長は続けて言うのである。
「てきは まおうバラモスじゃ…なくて、せまりくる かそこうれいか だ!」
「このままでは やがて むらは かそこうれいかに ほろぼされよう。」
「かそこうれいかを たおしてまいれ!」
と、そんな妙な言い回しをすることは現実にはないけれど、
「ここは年寄りばっかりだからね~。」
「へ~大阪から?なんでこんな田舎に来たの?勇者くん物好きだよね~。」
「そのうちここも過疎で集落がなくなるけど、まぁ仕方ないかな~。」
「勇者くんみたいな若い人が来て何か頑張ってくれたらどうにかなるかな~。」
という話を館長はじめ地元の人から何度も耳にする。(本当に何度も。)
とりあえず公民館長への挨拶を終えて、村の中を歩いてみる。
村人1「やあ きみが こんど きたっていう いじゅうしゃ かい よろしく。」
村人2「やあ きみが こんど きたっていう いじゅうしゃ かい よろしく。」
村人3「やあ きみが こんど きたっていう いじゅうしゃ かい よろしく。」
なぜか自分が来たことは既に村人みんなに知れ渡っている。
田舎の口コミ力はすごい。ツイッターをも凌駕する情報伝達力である!
村人4「やあ きみが こんど きたっていう あそびにんくん かい よろしく。」
村人5「やあ きみが こんど きょうと から きたっていう いじゅうしゃ かい。」
村人6「やあ きみが こんど もどってきたっていう ○○さんのむすこ かい。」
…しかし、なぜか情報が微妙に間違って伝わっている…。
田舎伝言ゲームの面白いところだ。
とりあえず村の道具屋に行く。
JAのくみあいマーケットだ。
武具や防具、道具を入手できる。
移住してすぐは都会で稼いだG(ゴールド)はまだ潤沢だ。
とりあえず今まで着ていた都会仕様の服や靴では、どうにも便利が悪そうだから、
田舎仕様の防具を手に入れよう。
「ゆうしゃは くさかりがま をそうびした。」
「ゆうしゃは さぎょうふくを そうびした。」
「ゆうしゃは ゴムながぐつを そうびした。」
「ゆうしゃは JAでもらったぼうしを そうびした。」
田舎の武器や防具は幅広い。
そのうちレベルが上がって来ると、より強力な武器や防具を身に付けるようになる。
草刈りひとつとっても、レベルが上がると使う武器も進化する。
「ゆうしゃは おおがまを そうびした。」
「ゆうしゃは くさかりきを そうびした。」
「ゆうしゃは チェーンソーを そうびした。」
田舎の武器はリアルで武器だったりする。
自分を攻撃してしまわないようにだけは、厳重に注意しなければいけない。
指や手足の1本2本すぐに失ってしまう殺傷力があるので要注意だ。
ちなみに、草刈り機は1万G~4万G、
チェーンソーに至っては2万G~20万Gくらいする高い買い物である。
レベルが上がらないと高価なものは使いこなせない。(もったいないし。)
防具も様々なレベルのものがある。
これも村人に教えて貰ったり、自分のする作業によって、
どんどんレベルの高い防具が必要になってくる。
履物もいろいろある。
「ゆうしゃは たうえたびを そうびした。」
「ゆうしゃは たいゆせいながぐつを そうびした。」
「ゆうしゃは スパイクたびを そうびした。」
帽子もいろいろある。
「ゆうしゃは むぎわらぼうしを そうびした。」
「ゆうしゃは くさかりようぼうごマスクを そうびした。」
「ゆうしゃは ヘルメットを そうびした。」
虫除けもいろいろある。
「ゆうしゃは ながそでシャツを そうびした。」
「ゆうしゃは さんりんよう かとりせんこうを そうびした。」
「ゆうしゃは かや をつかった。ぐっすり ねむれるように なった。」
とにかく都会では使うことのなかった、存在すらしなかった武器や防具、道具類が、
田舎暮らしのレベルに合わせて必要になってきたりする。
レベルが上がるごとに使える道具が増えて行くのもおもしろい。
ちなみに、
レベル90ぐらいの鉄人爺ちゃんなどは、
常に“ぬののふく”だけで自然や虫に挑んでいる。
レベルの低い移住者がこの格好で田んぼ仕事をすると、
“蚊”や“ぶと”の大群に襲われ、稲の葉っぱにかぶれて、
数日間は腕がかゆみに襲われて滅入るのだが、このレベルになると平気らしい。
これだけ見てもRPGっぽいのだけれど、
こんなことはまだまだ序の口である。
本当の“イナカグラシクエスト”はここからだ。
移住してすぐの“レベル1”のころは出来ることが少ない。
畑も出来ない。田んぼも出来ない。草刈りも出来ない。薪割りも出来ない。
しかし、村人に教えて貰いながら様々なことを覚えると、
出来る事や行ける場所がどんどん増えていく。
元々のレベルが低いせいもあるけど、目に見えて出来ることが増えていく。
そして、レベルが上がるにつれて、様々なイベントをクリアするにつれて、
村人のコメントも変化していくのである。
(レベル1)
村人A「やあ きみが こんど きたっていう いじゅうしゃ かい よろしく。」
(レベル3)
村人A「あら ゆうしゃくん きょう ごはんを たべにくる?」
(レベル5)
村人A「こんど かんたんな ちからしごとを てつだって くれる?」
(レベル8)
村人A「だいぶ しっかり してきたね。 こんど あぜの くさかりを てつだって。」
(レベル10)
村人A「きたころは すぐに ないて かえると おもっていたけど りっぱになったね。」
(レベル12)
村人A「うちのたんぼ ことしから もう やれないから つくってみる?」
という感じである。
ちなみにレベルはほっといてもある程度上がるのだけれど、
いろんな出来事をクリアしていくと、目に見えてレベルが上がって行く。
まるで“魔法”を覚えるように、いろんなことが身に付いていくのである。
草刈りを手伝った。
「ゆうしゃは レベルが あがった!くさかりきを つかえる ように なった!」
区長を1年間引き受けた。
「ゆうしゃは レベルが あがった!むらのなかの けっていプロセス おぼえた!」
集落の話し合いに参加した。
「ゆうしゃは レベルが あがった!むらのなかでの たちいふるまいを おぼえた!」
という感じである。
話しかけても無視されていたおじさんが、話をしてくれるようになったり、
挨拶しかしなかったおじさんが、いろいろ情報を教えてくれるようになったり、
レベルが上がると、話しかけた村人が返してくれるコメントも変わってくるのである。
余談だけど、
「○○じいちゃんに焼酎を持って行くと何でも貸してくれる」という便利な魔法や、
「あの人がくだを巻き始めたら近づかない方が良い」という防御系の魔法も覚える(笑)
このように、一気に出来ることは増えて行かずに、
いろんなプロセスを経て、イベントをクリアしたりレベルが上がったりしながら、
少しずつ出来ることが増えていく。そう、まさにドラクエのように!
そのうちトラクターにも乗るようになる
だから、田舎暮らしに“焦り”は禁物だと思う。
きっと移住をする前には、みんなやりたいことをいろいろ頭に思い浮かべると思うけど、
田舎に来たからといって、それがすぐに出来るようになるわけではない。
でもいずれレベルが上がって、出来ることが増えてくると、
適切な時期に出来るようになってくるものだと思う。
ユンボにも乗りました。
ドラクエでも、レベルが低い時に調子にのって冒険しすぎて、
強い魔物にあっさり全滅させられたということは誰しもあるだろう。
イナクエでも、レベルが低い時に調子にのって冒険しすぎると、
手痛い目にあったり、上手く行かず挫折したりしてしまうのだ。
(ちなみに、上の写真はこの後ユンボをぬかるみにはめて大きな迷惑をかけた。
まだユンボを使えるレベルではなかったようだ。)
ただし、そのことを身を持って体験するのも大事だと思う。
ドラクエで全滅することなくクリアできる人がいないように、
イナクエでも、挫折したり痛い目にあって、
自分が今できるレベルを知りながら歩んで行くのだと思う。
そうしていろんな失敗を経験しながら、
心身共にたくましい田舎の“勇者”に成長していくのである。
まあ実際は“勇者”ではなく、一人前の“村人”になるだけだけど。
1つ1つあるべきタイミングでやってくるタスクをこなし、
1つ1つ成長していくことが、イナクエでは大事なのだろう。
村人たちも案外遠巻きに移住してきた“勇者“のことを見ていて、
「そろそろこういうことを任せても大丈夫かな~。」などと考えてくれていたりする。
だから、移住当初はあてにされていなかったことでも、
移住して何年かすると「やってみないか?」と声を掛けて貰うこともある。
「今はまだ未熟でも、成長していずれ出来ることが増えて行く。」
という観点は田舎暮らしをする上では欠かせないだろう。
もちろん都会の生活でも、人生はゲーム的なのだけど、
どうも主体的ではないような気がする。
社会の流れや会社の規定に左右される能動的な人生になってしまいがちだからだ。
誰しもが経験しそうないくつかのパターンの中から、
サイコロを振って止まったマスに書いてある出来事に従う、
まるで“人生ゲーム”のような感じではないだろうか?
そこまで言ってしまうと少し言い過ぎかもしれないけれど、
自分の体験上、街に住んでいる頃は世の中に流されて生きていたなぁ思うし、
田舎暮らしをしている今は、自分の人生を主体的に生きているなぁと思う。
実感としてそう感じているので、間違ってはないだろう。
田舎暮らしは自分自身が“勇者=主人公”の立ち場で体験できる、
“リアルRPG”だと思う。
1つずつ困難を乗り越えてたくましくなりながら、
自分の将来を切り開いていくのである。
成長に伴って村人たちとの関わり方も変化し、世界が開けて行く。
そんな人生を歩める生き方だと思う。