「人が居続ける田舎」の為に、産業創出よりも重要かもしれないこと

2014/12/05

 

 この一か月間、全国各地、様々な箇所からの来訪者が海士町にいらっしゃいました。いろんな方々と話しながら、思ったことを書いてみたいと思います。

 最近考えているのは、「田舎で人口流出を避けるためには、産業創出よりも大事なことがあるんじゃないか」ということです。最初に簡単にまとめると、「人が居続ける田舎」のためには、こんなイメージをしています。

 人が居続ける田舎

【今回の記事はこんな内容です】

 

・「田舎には仕事がないから人が出ていく」のウソ

・なぜ雇用はあるのに求人は埋まらないの?

・「人が居続ける田舎」の為に、大切なことは?

 

 

渡り鳥

Photos by Nick Chill

 

「田舎には仕事がないから人が出ていく」のウソ

 

 海士町では、島に人が居続けるようにするためにも、産業や雇用の創出に力を入れてきました。島の人口の1割以上がIターン者であるのも、この影響があると思います。

 ところで、今年10月くらいに調べてみたのですが、海士町では求人中の事業所が約10件程ありました(ハローワークに求人情報が出ているもの、人づてに聞いたものすべて含め)。福祉や林業、事務仕事、接客業、運転手などなどの募集がありました。つまり、海士町では単純に考えると、仕事がないわけではないので、雇用の創出は必要ありません。

 一般的に、地域から人がいなくなるのは、雇用がないからだと信じられています。逆に言うと雇用があれば人はUIターンする、と信じられているのではないでしょうか。しかし、現状は、海士町でも、慢性的に人手不足の状態が続いています。 他の自治体ではどうなのか、ハローワークで求人情報の検索をしてみました。(自治体は、一般的に田舎と呼ばれそうな地域から適当にピックアップしてしまいました)

 

 

表:ハローワークの求人件数(2014年11月26日時点)

自治体名

求人件数(件)

北海道夕張市

69

青森県今別町

6

群馬県下仁田町

27

新潟県粟島浦村

4

京都府南山城村

4

島根県西ノ島町

17

島根県海士町

6

島根県知夫村

3

島根県隠岐の島町

66

高知県大月町

13

宮崎県日之影町

18

沖縄県竹富町

58

 

 

 田舎には雇用があります。そして、今後も雇用はあり続けることが予想されます。「なぜローカル経済から日本は甦るのか」によると、今後も接客業や力仕事、物流など、グローバル市場により淘汰がおきず、ローカルな各現場において人がいないと成り立たない仕事は一定数存在し続けます。一方、少子高齢化は進むことが予想されますので、全体人口当たりの生産年齢人口の割合は減ります。そうすると、ますます人手不足に拍車がかかることが予想されます。

 

田舎に仕事はあるのです。

 

 

 レンガ

Photos by viZZZual.com

 

なぜ雇用はあるのに求人は埋まらないの?

 

 では、なぜ、単純に田舎に雇用はあるのに、その求人が埋まらないのでしょうか。一般的な求人に申し込まない理由として、「3つの壁」があると考えられます。

 

1.労働に必要な条件を満たさない

 

 例えば、運転手であれば運転免許が、教師であれば教員免許が、漁師であれば船舶免許等が必要です。家庭や持病などで、フルタイムで働けない人もいるかもしれません。さらに言うと、肉体労働であれば健康である程度強い体が必要ですし、接客業であればある程度人と接することが楽しめなければならないでしょう。朝が極度に弱い人は、早起きが必要とされる職場は嫌がるでしょう。労働上必要な条件に適合しない人は、求人に申し込みません。

 

2.生活の見通しが立たない

 

 毎月20万円の可処分所得がないと暮らしていけない人にとって、毎月額面15万円の所得では生活が成り立ちません。仮にその求人先が成長産業でなく、給与の上昇が望み薄だったとしたら尚更でしょう(ハローワークの求人を眺めた限りでは、田舎に存在する求人はどれも成長産業ではなさそうで、給与の上限も高いレベルではありません)

 

3.やりたい仕事ではない

 

 数字と論理と課題解決の中で生きることに喜びを見出すコンサルタントや、これまでになかったサービスやプロダクトを創造することに喜びを見出すクリエイターが、レストランのウェイターの求人に高い興味を持つことは至極稀でしょう。

 

 大きく上記3つの壁が、求人が埋まらない理由だと考えます。この壁に阻まれ、田舎の求人が埋まらず、田舎から都会へ人が流出するのではないでしょうか。そして、これらの求人は、住む人にとってインフラレベルで必要な仕事である可能性が高いと思われます。前述ですが、「ローカルな各現場において人がいないと成り立たない仕事」である為です。ゴミ処理場で働く人がいなくなったら、ごみの処分ができない地域になります。商店で働く人がいなくなったら、ネットを使えない人は買い物ができません。バスの運転手さんがいなくなったら、車を持っていない人はどこにも移動できません。

 

夕焼け

 

 

「人が居続ける田舎」の為に、大切なことは?

 

 どうすれば田舎での求人が埋まるのでしょうか。対策としては、まず、求人側が、この壁を取り除く努力を行うか、行わないか?という入口があります。壁を取り除く努力を行わない場合は、「求人情報をより多くの人に届ける or 求人の申し込み率を上げる,もしくはその両方」という戦略になります。

 ざっくりな数式で言うと、

 

総アプローチ人数(求人情報を届けた人の数)×求人ヒット率(何%の人が求人に申し込むか)

=求人申し込み数

 

となり、その後採用プロセス内の淘汰の末、採用が決まります。

  ただし、この方針では、おそらくすぐに成り立たなくなります。メディアやSNSが発達し、情報が飽和しつつある昨今では、これらの求人に差異がつかなくなることが予想されるからです。なので、壁を取り除く努力を行う必要があります。ただしこれには、より求人側自体の変容が必要です。

 

例えば、

1.「労働に必要な条件を満たさない」問題の解消

 

免許取得の支援や補助制度。

労働時間のフレックス化、シフト制度。

肉体労働の場合、業務改善による肉体への負荷軽減や、

例えばマッサージ師を別途雇い、いつでもマッサージが受けられる、など。

人とのコミュニケーションが苦手な人を雇う場合、

対面での接客を控え、裏方での作業を行ってもらう、など。

 

2.生活の見通しが立たない

 

 労働集約や業務改善、改変による生産性の向上、それによる賃金の向上。「なぜローカル経済から日本は甦るのか」によると、日本の製造業の労働生産性は世界でもトップレベルであるが、非製造業の労働生産性はアメリカの水準の半分であり、まだまだ改善の余地が多いとしています。もし諸事情により生産性が上げられず、集約もしたくない場合は、業務の選択と集中を行い、例えば半農半X的な暮らしができるような職場とすることで、貨幣以外の経済も含めた総合的生産性の向上に努める、などの手段が考えられます。

 

3.やりたい仕事ではない

 

 仕事の価値、面白みの創出。例えば活気あふれるパイクプレイスマーケットや、コールセンターで有名なザッポス社などの取組が参考になるのかもしれません。

 

 パイクプレイスマーケット

パイクプレイスマーケット。魚を放り投げキャッチするパフォーマンスで有名   Photos by Ken Yeung

 

 これまでは、求人を行う側が、壁を取り除く上で必要な努力の話でした。とはいえ、受け入れ側のできる努力に限界があります。仕事内容やビジネスモデルを大きく変えることは難しい為です。だから、求人に申し込む人にも、自分を変え、壁を乗り越える努力が求められます。

 では、どうしたら、自ら壁を乗り越えようとできるのでしょうか。それは、壁を乗り越えてでも見たい景色、つかみたい暮らしがあること。壁の向こうに、住みたいと思える町があることじゃないか。そう考えています。

 

米と祭り

海士町の海

 

 先日九州にIターンした人のお話を聞いたのですが、ある風景が本当に気に入ったそうで、この景色のあるまちで暮らしたかった、と仰っていました。写真を見せてもらったのですが、それは観光名所でも自然遺産でもない、海が望める田んぼの、素朴だけれどもうつくしいと思える景色でした。特に田舎で暮らすことを考えたときに、幸せは職場だけじゃなく、その場所、家や自然や食べ物や文化や人etcに寄るところが大きいと思っています。

 コンクリや電線に覆われた街並みや荒れた山林ではなく、ささやかだけれども気持ちの良いと思える景観があったり。新鮮でおいしい土地の食べ物が食べられたり。ここで住んでみたい、と思える家があったり。気持ちよく笑える友達や仲間がいたり、治安がよく子供をここで育てたいと思えたり。そんな、住みたいと思えるまちづくりの方が重要なんじゃないか、そう思っています。

 

 

 海士町セレクト

 

 

【まとめ】

 

・「田舎には仕事がないから人が出ていく」のウソ

 

 →田舎に仕事はあります。そして今後も人手不足は加速すると考えられます。

 

・なぜ雇用はあるのに求人は埋まらないの?

 

 →1.労働に必要な条件を満たさない

  2 .生活の見通しが立たない

  3.やりたい仕事ではない

 

  この3つの壁に起因すると思われます。

 

・「人が居続ける田舎」の為に、大切なことは?

 

 →受け入れ側の努力として、上記3つの壁の解消。ただ、受け入れ側だけでは壁を壊せない。

  働き手、暮らし手側も努力が必要。その為に、「住みたい町をつくる」ことがより重要なのかもしれません。

 

人が居続ける田舎

あらためて、まとめの図。

 

 

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