地域おこしは地域住民が本気にならねばならない
- 執筆者 多田朋孔
- 所 属特定非営利活動法人地域おこし
2015/04/08
「地方創生」の名の下に、政府はかなり力を入れて地方への財政的・制度的な支援を行っています。これは地方に住む筆者としては大いに喜ばしい事ではあるのですが、補助金がバラマキになってしまう一因は地方の側にもあると感じています。何の考えもなしにもらえるお金があると無駄な使い方しかできず、活用しない建物を建てて、その後の維持管理に余計な出費や苦労が出てしまう等、かえってマイナスになってしまいます。宝くじで高額当選した人は当選前よりも不幸になるなどと言われますが、分不相応のお金は人をダメにするのでしょう。
お金だけではなく、地域活性化のためのプランを考えてもらう事まで外部に依存してコンサルタントを頼む地域もありますが、これもその地域にしっかりとした考えがないと都会のコンサルタントに振り回されて結局あまり上手くいってないという例も少なくなりません。都会のコンサルタントは他の地域もクライアントとして受け持っている場合が多く、中には金太郎飴のような感じで、ある場所の先進事例をそのまま他の地域にあてはめるという事が問題になっている所もあります。
私の住む十日町市でも中越大震災復興基金の「復興デザイン策定支援事業」という事業で、外部のコンサルタントが色んな地域の支援を受注したが、その申請書はほとんど使いまわしで、中には写真まで複数の地域である地域のものを使いまわしていたという話を伝え聞くほどです。
それでは、今回の「地方創生」の追い風を上手くつかんで地域おこしを進めるために地方の側に何が求められるのでしょうか?これは一言で言えば「地域住民が本気になる事」だと考えています。
うまくいかない地域では行政主導で国と地方自治体の間で補助金や政策のやり取りがあっても地域住民は蚊帳の外になっていて、住民は行政に対して「あんな無駄な税金使って・・・」と考えるような構図があります。地域住民が「地方創生」の現場の最前線であり、主体のはずなのに実行する事について全く意見をする機会が持たれていなければ他人事になってしまい、うまくいくはずがありません。
私が地域外から来た人間として感じるところは、地域の人達の中には自分達の住んでいる地域を良くしたいという想いを持っている人は少なくないという事です。このような故郷への愛着は都会に住む人に比べると地方の人達の方が強いと思います。ですが、なかなかそういう想いをみんなで話し合う機会が持たれていないのが現状です。そして、「将来自分達の地域をこんな風にしたい!」という事をそれぞれに語り合い、地域の人達の思いを引き出しながら「地域の将来ビジョン」を一緒に創る場を上手に持つ事ができると、大きな力になります。
「地域の将来ビジョン」を作る際に注意する点としては、
① その場に参加した人が「自分事」として考える
② 話を「広げる」段階と「まとめる」段階を分ける
③ 話を「広げる」段階では実現性は二の次にして自由な発想を大事にする
④ 話を「まとめる」段階では実際に取り組む事を意識する
⑤ 創った「将来ビジョン」はその後も目に触れるところに置いて都度思い出せるようにする
上記のような内容は会社の経営等では教科書的な話かと思いますが、実際に私も今住んでいる池谷集落で行ってみたところ、効果があったのであえてポイントとして整理して記載させていただきました。
実例として池谷集落の「地域の将来ビジョン」づくりの事を少しご紹介させていただきます。
私は地域おこし協力隊として2010年2月4日に池谷集落に移り住んだのですが、その約1か月後の2010年3月6日~7日にかけて「5年後を考える会」を行いました。将来ビジョンを描くワークショップについて、私は前職の時から仕事を通じて携わってきた経験があるので、ファシリテーションをさせて頂きました。その時に作った5年後のビジョンが下の写真の絵です。
この時は3グループに分かれて話をし、あえて3つのグループの意見を1つにまとめるところまではしませんでした。5年経ち、当時描いた内容の多くが現実となりました。
【2010年3月に行った「5年後を考える会」で描いた将来像のうち実現した内容】
★分校の体育館を多目的ホールにする (2010年度に体育館を改修)
★村全体を法人化 (2012年度にNPO法人化し、元々の集落の方は希望する人全てが理事になっています)
★海外からも人が来る
★米は全部直販 (お米は個人への直販とお米屋さんへの直接出荷のみで農協には一部付き合いで出している方以外は出してません)
★集落営農 (2014年度から作業委託実施、農業参入完了したので2015年度からNPO法人名義で土地を正式に借りる予定)
★加工品開発 (加工所は作ってませんが2014年度から委託加工で白がゆ・山菜ご飯の素、野菜がゆを商品化)
★若い人の住宅 (現在建設中)
当然、これらを実現する上では色々な苦労や困難もあり、必ずしも「地域の将来ビジョン」を作ったからこれらの事が実現したというわけではありません。ですが、「地域の将来ビジョン」を作った事で、私は池谷集落の人達が目指したい方向がある程度わかりましたし、地域おこし協力隊の3年間、どういう動き方をするべきか?という事が判断しやすかったです。なので、多くの事が絵に描いた餅で終わるのではなく、実現させることが出来たのだと思います。
2015年の今現在、2010年に5年後を考える会を開いてから5年が経ちました。すると、「また3年後を考える会を開こうじゃないか!」とのリクエストを池谷集落の方々から頂きました。この話を聞いたある地域活性化の専門の方は、「地域の人達から3年後を考える会を開いてほしいと言われる集落なんて聞いたことがないですよ。」と驚いていました。
今回5年後ではなく、3年後になった理由は、集落の方々の年齢がご高齢(80代前後)の方が多く、あと5年先は自分自身がどうなっているかわからないけど3年ぐらいは頑張れるという理由でした。(個人的には100歳まで生きてもらえばまだ20年近くあると思っていますが。) そこで3月28日に私が住んでいる池谷集落の3年後を考える会を行いました。
今回、将来ビジョンを考える際に感じた事として、「ライスセンターを作りたい」等といったハード面の話はわかりやすいのですが、そういった取組みの土台となるソフト面のちょっとした意見がもっと重要なのだと実感しました。
例えば、今回個人的に一番秀逸な意見だったと思う事に、「農繁期は集落で一緒にお昼を食べる」という意見がありました。実はこれまで、各家庭でバラバラにご飯を食べていましたが(これは普通の事だと思いますが)、農繁期だけでも一緒に集まってお昼を食べる事でちょっとしたコミュニケーションがとりやすくなり、それによって一体感がさらに増し、創発的なアイデアも出やすくなる事が期待できます。こういった意見は現場の人達が考えるからこそ出てくる意見だと思います。
また、この会の後に集落の皆で飲みながら色々と話をしたのもかなり盛り上がりました。こういった場を持って対話をする事自体が地域住民の本気度を上げる事に直結する事も改めて実感しました。
今後、今回の3年後のビジョンも集会場に掲示し、常に集落の方々が意識できるようにしつつ、実現に向けて責任感を持って取り組みたいと思います。また3年後どうなっているのかが楽しみです。
繰り返しになりますが、「地方創生」においては、お金を出したり制度を作る国の方々の努力も必要ですが、地方の側が自ら本気で考えて主体的にそれらのお金や制度を有効活用できるような状況になっていなければなりません。そのためにも地方では「地域住民の魂の入った地域の将来ビジョン」を対話を通じて作り、共有することは効果的であると思います。