僕の古民家再生体験記

2015/05/18

 

 日に日に暖かくなっている今日この頃、対馬に来てから早、一年になろうとしています。まったく怒涛のような年度末進行でした。この修羅場を体験し、自身の圧倒的な力不足を感じ、日々学ぶべきことが多いものだ、とつくづく思い知らされました。会社先輩方の助力もあり、何とか乗り越えることが出来たのだろうかと、ふと、周りを見回した時、皆は少し前に一段落がつき、心機一転、弊社の事務所である古民家の住み心地、仕事心地を少しずつ改善していこうという話になっていたらしく、それぞれで動き出していたようでした……。

 

やったことのないコンサル業に日々苦しむ、私

やったことのないコンサル業に日々苦しむ、私

 

 事務所として使っているこの古民家は、僕らの間では阿部邸と呼ばれている、大きな柱や梁(はり)が印象的な築百年以上の建築物です。今となってはあまり想像できないのですが、およそ10年前に空き家となり、当初は動物(対馬固有種ツシマテンなど)が入り込み、床が抜けるくらいまで荒れ果てていたそうです。空き家は過疎化が進んでいる対馬ではそこかしこにあり、「空き家問題」として顕在化しています。そこで、2年前に弊社MITのK社長は、島おこし協働隊として古民家再生実習を企画・運営し、以後、この活動を「古民家再生塾」と銘打ち活動を続けています。そのプログラムでは、建築の先生や地元の大工の棟梁を招き、建築の基礎的な技術を学びながら、応募してきた学生らの力を借り、合わせ、この古民家を少しずつ再生させる、その体験を通じて様々なことを学ぼうという主旨の下、行われているものだそうです。

 

古民家再生塾

 

土間づくり古民家再生塾

古民家再生塾での土間づくり (Before)

 

現在の事務所の土間

現在の事務所の土間(After)

 

 でもしかし、この事務所、実際には所々使いづらいところが僕にはありました。その一つが冬の間、足の指がちぎれそうになるくらい冷たい板の間の居間(対馬ではダイドコロと呼ぶそうです)です。ここに、とうとう、この春から畳が入りました。今では阿部邸に入ると、すぐ、真新しい畳のいい香りがしてきます。

 

畳が入ったダイドコロ

畳が入ったダイドコロ。この机を囲うための椅子づくりを用命

 

 そんな中、K社長から、ひょっこりとこのダイドコロに置く椅子を作ってくれまいかという指令が降ってまいりました。常日頃から何でも自分でやってみるK社長は、既にこの椅子の設計図も作っており、当人曰く自分は「コンポストトイレ遠隔撹拌機」なるとんでもないものを作っているので、代わりにこの設計図を元に椅子を君によろしく頼むとのことでした。

 その椅子の設計図を見てみると作りはどうも単純そうでしたが、意外に大きく、上部座り板が開け閉めでき、収納も兼ねる、棺桶のような形状の箱型の椅子。これを4つ作るように、というミッションでした。どうやらダイドコロにある囲炉裏とテーブルを囲むように四方にこれらを配置して、冬には炬燵のように使おうという想定がなされているようです。木工など高校生の時に技術の授業でやって以来です。全く自信はありません。しかしながら、このところの事務仕事に完膚なきまでに自信喪失し、倦んでいた僕は引き受けることにしました。

 

 材料は、軒下に格納されている木材と、T事務局長が機転を働かせタダでもらってきたもの、他に残り足りないものはもう既にホームセンターでなけなしを叩いて購入してきていました。準備万端です。道具もだいたい揃っていて、指金(L字型の金属製ものさし)、サンダー(ヤスリがけの道具)、墨壺(長い距離にまっすぐ線を引く道具)、電気丸のこ、電動ドリル(すごく便利)、などなど、阿部邸には充実した大工道具一揃いがありました。もはや、やってみるしかないです。

 お天気の良い日にお庭で、見よう見まねで作り始めてみると、なかなか難しいということが、すぐにわかってきました。決まった長さに材を切ることも、まっすぐネジを打ち込むのも一苦労です。何度も測りなおしたり、打ちなおしてみたり。数時間、サンダーで材を磨いていると、翌日手が痛くって指が伸びない。なんなんだこれは!特に一人で作っていると材の固定が難しい。かなりの部分でうまくいかないことって、これに原因があることのような気がして試行錯誤。ガムテープで仮止めしてやってみたり、ひとり黙々と作業。

 

電気丸のこ

 

 そんな中、こんな効率の悪いことはありえないんじゃないだろうか!と、よくよくネットで調べてみるとクランプとかハタガネとかという材を固定する道具があるらしいということがわかったのですが、ふむふむ、これ少しお値段お高い。会計全般を担うT事務局長がすごく怖かったので、即席の固定用の道具をネジと端材で自作したりしました。他にも下穴を空けてネジがまっすぐ打ち込めるように工夫したり、長さが合わなかったのは、材木にある節や年輪によって歪んでいたからのようだ、とわかってからは、たくさんある材の中から、長いものには真っ直ぐな良い材を、短いものには悪い材を使うという、その場所々々で適したものを選んだりすることが重要なのだな、とわかったりもしてきました。ふと今思ったのですが、あぁ!なぁるほど、これが“適材適所”の語源なのだなぁと思い当たる始末。すこしずつすこしずつ、日々の手作業が手慣れ、洗練されていくことに快感を覚えつつ、作業、作業。

 

手作業

 

 それは、車で片道40分のところにある、最寄りのスーパーのチラシを配達に、お馴染みのおじさんが来てくれた日のことでした。僕はすぐ「はいこんちは!いいおてんきですね!!」と挨拶プラスワン(挨拶の後に一言添えること)を反射的に応答。しかし、なぜか、その後もそのおじさんは、チラシをできかけのその椅子にそっとのせた後、僕のやっている作業をずっと興味深そうに見つめていてくれていたのでした。見透かされたような、少し気恥ずかしい気持ちで、よくよく話しかけてみると、その実その人は本業の大工さんで、僕の不手際にたいへん嘆いており、ドリルで木材に穴を開けるのにもっと適した道具があるということを言いたかったそうで、教わりました。

 

ドリル

 

図らずとも一連の流れから古民家再成塾の片鱗を味わったような気がした体験でした。この古民家再生塾は、対馬市の域学連携事業の一環として大学生を集めて、今年もやるそうです。以下のアドレスにあるプログラムの実習No.15がそれに該当するとのことです。

http://fieldcampus.city.tsushima.nagasaki.jp/student/cat/post_48.html

ぜひ、興味がある学生さんはまずはリンクにある募集要項を読んでみてください。そして対馬においでください。

 

 これまでずっとこもって資料や議事録を作ったりする仕事ばかりしていたので、なんという充実感なのだろうかと肌で感じています。改めて頭を動かす仕事と体を動かす仕事を1:1にすること、ということが理想的であるものなのだなぁと実感しています。

 今はこの椅子に色を塗っているところなのです。茶色にしましたが、しかし僕は生来、文章を書くのが非常に苦手で、皆に心配をかけるほどです。この原稿を書くのにつれて作業がストップしていて、30分毎に統括マネージャーと例の事務局長が「できたかい?」とそれぞれ怖い顔を障子半分に覗かせつつ迫ってきます。早く書いて作らないといけない。この原稿ができ、椅子を作り上げたらあと、

 

 次の課されたミッション、“棚 ”をつくります!!

 

こんなことばかりしていいのでしょうか?社長さん……。

 

社長と私

社長と私 (「MITの北大クオリティーは半端ない、いろんな意味で」 by 統括マネージャー)

 

 

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