地域おこし協力隊が、田植えに挑戦する理由
2015/07/06
- 執筆者 石田朋久
- 所 属四万十町地域おこし協力隊
四国地方も梅雨入りし、四万十町十和にある田んぼでは植えられたばかりの稲の苗が風に揺れています。そんな風景を見ながら四万十川沿いの道路を走るのがとても気持ち良くて大好きな石田ですこんにちは。
実は去年初めて自分でも米作りを体験してみました。
家からすぐ近くの田んぼの持ち主が高齢のためにいくつか持っている圃場の一つを貸してくれることになったのですが、自分一人でやるには荷が重すぎると思ったので当時6人いた四万十町の協力隊に一緒にやりませんか?と声をかけて協議した結果、それぞれの隊員のミッションに差し支えない程度で自由参加という形で実現することになりました。
全員が米作りはほぼ初めてというレベルなので、地元の農家さんに一から指導していただきました。しかも、機械を使えばすぐに終わるような作業なのに勉強のために手作業に拘るので大変です。地元の小学生が体験学習で田植えや稲刈りをしているのと同じか、それよりもまだ初心者ぐらいのレベルです。
自分が小さい頃、小さすぎて記憶が残っているかどうかというぐらいの年齢ですがその頃は実家でも米を作っていました。小さすぎた自分は何も手伝うことはなく田んぼの外から見ているだけでしたが、家族や親せきが集まってきて田植えをしていた光景とか、稲こなしをした後の稲藁の匂いといったものを微かに覚えています。
自分が大人になって、四万十町に来て、幼い頃に見たあの光景やあの匂いが蘇ることになったのです。
去年米作りを指導していただいた農家のおばあちゃんが「やってみんとわからん、やってみることが大事」と教えてくれました。確かにやってみないとわからないことばかりです。
田植えをすればお米ができる。そこまで簡単には考えてなかったけど、植える苗はどうするの?苗を育てるには?籾の撒き方は?田んぼの準備は?代掻きってどうやるの?耕運機のエンジンのかけ方は?などなど、たくさんのわからない事をひとつずつ解決しながらなんとか田植えの日を迎えることができるのです。
これらの疑問は、やってみて初めて疑問に思ったことで、おばあちゃんが言ってくれた言葉が見事に的を射てますね。あの経験が無ければ冒頭で書いたように「ああ、田植えが終わってるな」と今年も風に揺れる苗を見ながら過ごしていたでしょう。
田植えが終わってからは草との戦いが始まります。水の中の稲の間に伸びてくる雑草を押し倒し、畔に生える雑草を刈り飛ばします。畔の草刈りは月に1回ぐらいと聞いていましたが夏場は成長が早くて半月ぐらいするとかなり伸びてしまうので時間があればどんどん刈っていきました。周りの田んぼを見ていると、もっと頻繁に綺麗に草刈りを行っているようで、草刈りスキルももっと上げていかないとダメだと痛感しました。
草刈りといえば、役場の職員の皆さんも町有施設の管理のために草刈りを行うことがあります。手が空いてる人は総員出動して一気にやっつけていくのです。
この草刈りもやってみないとわからない。やって初めてわかる。というものの一つで、スキルの差は歴然としていて上手い人は倍ぐらいの速さで綺麗に刈って行きます。
さて、米作りの話に戻りましょう。5月~6月頃に植えた稲の苗は夏場にぐんぐん成長して8月の終わり頃には小さな花を咲かせます。この小さな花の一つ一つがお米になるわけですが、去年はこの花が咲く2週間ぐらい前に約50年ぶりという四万十川の大増水があって成長していた稲は完全に水没してしまいました。数時間で水が引いて再び現れた苗は何も無かったかのように花を咲かせてくれたのですが、近所ではこの水害によって全滅した田んぼもあり天候に左右される農業の怖さも目の当たりにしました。
花が咲き終わり実を結び始めると、十和の田んぼからは独特の匂いが漂ってくるようになります。十和生まれの香り米「十和錦」の香りです。お米を炊いた時に香ばしい香りがするこのお米は育っている時から既に香っているんですね。
花が咲いてからおよそ一カ月後に稲刈りをしました。これも機械を使えばすぐに終わる作業なのに手刈りで行います。そして乾燥機も使わずに稲木に掛けて天日干しにしていきます。天日で乾燥させた米はやっぱり味が違うということで、刈り取るのは機械でも稲木干しで乾燥させている農家さんもあります。
ほぼ3週間天日で乾燥させた稲を機械にかけて籾にして、精米所でお米になって出てきた時は「やっとできた」という嬉しさと「無事にできて良かった」という安堵感でいっぱいでした。
水没した時はもうダメかと思ったし、稲木に干している間にも台風が来て倒れて飛ばされないかと冷や冷やしたり、心配する事ばかりでした。もっと山の中に行くと猪なんかの有害鳥獣に収穫直前の米を食べられないかというような心配も増えるんでしょうね。
何事もやってみないとわからないことばかり。
一般には普通のお米に2割ぐらい混ぜて炊くという香り米。精米した日は100%十和錦で炊いてみました。それはそれは良い香りがしましたよ。そして今年も協力隊が集まって田植えをしました。
大勢で集まって時間をかけて手で植えていると、通り掛かった近所の方が車を止めて声をかけてくれます。たくさんの人達に見守られながら、十和錦も協力隊も育っていくのです。
最後に
ずっと止まっていた炭窯の屋根の修復作業が終わりました。まだやる事はたくさんありますが炭を焼くのに一歩前身できたことを報告させていただきます。