柳川暮らしが楽しすぎて困ります。~イチジクの巻~
2015/09/30
- 執筆者 阿部昭彦
- 所 属柳川市地域おこし協力隊
福岡県の最南部、佐賀県と熊本県に挟まれ、有明海に面した柳川市からこんにちは。柳川市地域おこし協力隊員の阿部と申します。
柳川の「隠れた主役」たちにスポットをあてて紹介するこのブログ、今回は柳川産のイチジクをご紹介させていただきます。
突然ですが、イチジクが禁断の果実だと言ったら驚きますか? アダムとイブが楽園で禁断の果実を口にしたあと、裸を隠すのに使ったのはイチジクの葉ですよね。だから、口にした果実はリンゴではなくイチジクだったのだという説があるんです。私も最近までは知らなかったのですけどね。webで拾った豆知識です。
イチジクは南アラビアが原産で、6000年以上も前から栽培されていました。古代ローマではありふれた果物としてよく食べられていたようです。理由は定かではありませんが、不老長寿の果物としてもよく知られています。
イチジクを漢字で書くと「無花果」となりますが、その名の通り。イチジクは外から見えるところに花が咲きません。では、花はどこかというと、私たちが「実」だと思って美味しくいただいているあの部分が実は花なんですよ。「隠頭花序(いんとうかじょ)」と言って、袋のようになった中に小さい花がたくさん咲きます。イチジクを割ったときに見える白あるいはピンクのつぶつぶが、イチジクの花ということです。
ちょっと待って!それじゃあ受粉できないじゃないか!と思ったあなた、大正解です。そのような花の咲き方をするので、通常の受粉はできません。受粉には「イチジクコバチ」という専門(?)の昆虫が不可欠なのですが、気温の関係から日本には住むことができません。つまり、日本ではイチジクは受粉できない=種で増えることができないということになります。そこで、日本では接ぎ木や挿し木という形でイチジクを増やしています。
蘊蓄(うんちく)はこのくらいにして、柳川のイチジクの話をしましょう。
柳川では2種類のイチジクが栽培されています。「ドーフィン」と「とよみつひめ」です。2つを比べると、とよみつひめの方が、少し小玉で甘みや香りが強いのですが、柳川の農家さんにうかがうと、「ドーフィンの方がすっきりとしてよか!」とおっしゃる方が多く、生産もドーフィンが中心となっています。とよみつひめはドーフィンよりも栽培が難しいというのも、その理由の一つです。
いつ頃から柳川で栽培されるようになったのかははっきりしませんが、平成の始めくらいには作られていたという話です。イチジクの木は寿命が長く、その頃から20年以上も長生きしているものも珍しくないとのこと。
イチジクの収穫は8月〜10月頃ですが、収穫が終わった後も木はそのままにしておき、その後に枝を落とします。収穫後もしばらくそのままにしておくのは、葉を茂らせて栄養をしっかりためておくためで、2月頃に幹から2つほど節を残して、その先の枝はばっさりと落とします。そうすると、根元からまた新しく生命力に満ちた若い枝が伸び、次の夏に美味しい実をたくさん付けるのです。
9月の下旬、柳川の干拓地の一角にあるイチジク畑で収穫体験を行いました。抜けるような青空の下での収穫は実に気持ちがいいものです。しかし、私には悲劇が起こりました。カラス除けのネットにからまっていた猫を助けようとしたところ、思いっきりかまれてしまいました。たぶん一晩中、ネットから抜けられず、死ぬほど不安だったのでしょうね。ネットを切ると飛ぶように去っていきました。よかった、よかった。私の方はくっきりと歯形が分かるかみ跡をもらい、おまけに破傷風対策の注射を打つはめになりましたが。
園主さんや農協の担当者さんが、あれこれと詳しくイチジクのことを教えてくれます。美味しいものはどうやって見つけるのかについては、色と固さとのこと。全体が紫に色づいて、先端の赤い口が開き始めた頃、ちょうどテニスの硬式ボールくらいの固さのものが美味しいのだとか。ただし、人によって好みはあるので、あまり甘くない若いものが好きだという人もいます。天ぷらにして食べるなら、まだ熟し切っていないものがぴったりですね。
熟したイチジクは、道具を使わずに手で収穫できます。持ち上げるようにして軽く引くと、節のところから簡単にとれてくれます。力を入れて引っ張ったり、ハサミを使って切ったりすると、切り口から白い液体があふれてきます。これが「母乳」あるいは「精液」をイメージさせることから、イチジクは「生殖」「生命力」の象徴ともされてきました。この白い液体は、皮膚や筋肉を柔らかくしたり滑らかにしたりする働きがあって、なんと痔や水虫の薬にもなるそうですよ。
また、ペクチンという植物繊維を多く含むので、腸の運動を活発にしたり、便通を整える働きもあります。肉料理などの後にイチジクをデザートとして食べると、胃の負担が軽くなるそうです。ただし、食べ過ぎるとお腹を壊すのでほどほどに。
旬のイチジクはやはり生食が美味しいですね。上品にナイフで4つ切りにしてスプーンですくって食べるのは東京の食べ方。ここ柳川では、手で四つに割いて、そのままかぶりつきます! 手と口のまわりが汚れてしまいますが、このダイナミックな食べ方がいちばん美味しいですよね。
他には、生のイチジクに生ハムを乗せていただいたり、上述した天ぷらや、赤ワインなどと煮込んで、肉料理のソースにするのもいいですね。
生のままでは保存がきかないので、ジャムにしてみたり、今回は冷凍したイチジクを使ってスムージーを作ってみました。美味しいお顔、いただきました!
それにしても、とにかく美しいイチジク園で、園主の方の愛情がひしひしと伝わってきます。柳川は先日、台風の直撃を受け、この園も強風のため実が葉で擦れてしまい、傷んでしまったものが少なくないとのことでした。こうした美しい農園を残し、柳川らしい景観を守っていくためにも、地産地消に励んで、消費者がしっかりと生産者を支えていく仕組み作りを進めていきたいものです。ぜひみなさんも、柳川のイチジクをたくさん召し上がってください!