続いていくということ
2016/01/25
- 執筆者 鈴木陽子
- 所 属一般社団法人 ピースボート災害ボランティアセンター
いなかマガジン読者の皆さま、ご挨拶が遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます!
みなさんはどんなお正月を過ごしましたか?私は、大好きな行事「獅子振り」に、今年も交ぜてもらって来ました。
獅子振りとは、石巻では主に漁村部で昔から受け継がれてきた伝承文化で、獅子とお囃子隊が浜の家々を一軒一軒回り、その年の無病息災を祈願します。獅子に噛まれると一年健康に過ごせるといわれているので、家族みんな順番に噛んでもらいます。
同じ獅子振りでも、シャンとしていたり、やんちゃだったり、どこか穏やかだったりと、浜によって雰囲気が違うのが面白くて、私は毎年何箇所かの獅子振りを観にいきます。今年一番最初に観にいったのは、牡鹿半島牧浜(まきのはま)。
夕日がきれいな牧浜
朝から獅子振りを始める浜もありますが、牧浜の獅子振りが始まるのは夕方、日が暮れる少し前。浜に古くからある神社から始まって、一軒一軒家を回っていきます。獅子に入るのは大人の男性の仕事。こどもたちは太鼓や笛で盛り上げます。一軒獅子を振り終えると、その家の人が料理とお酒でもてなすので、一軒あたり1時間くらいかけながら浜の中を巡っていくことになります。当然夕方から始まった獅子振りは、明け方近くまで続きます。
神社での様子
一軒終わると歩いて次の家まで移動。
獅子を振り終わるとその家の人が料理とお酒でもてなす。
………といっても明け方までかかるというのは、ほとんどの浜にとっては少し前までのお話。
10年前20年前は、それこそ次の日の夕方くらいまで終わらなかったこともあるそうですが、時代とともに簡略化されたり、引き継ぐ人が少なくなったり、震災で家を失って仮設住宅暮らしを余儀なくされたりする中で、昔のようなやり方を続けていくのは難しく、おもてなしも、家の中で料理を出すという形からお土産にお菓子などを持たせてくれるという形に変わりつつあるようです。そのため今年は一軒あたり20~30分くらいでしょうか。22時あたりには終わっていました。
おととしはそれでも24時くらいまではやっていて、私は寒さに耐え切れず先に家の中に引っ込んでしまった記憶があったので、「今年こそは最後までついて回るぞ!」と意気込んでいただけになんだか拍子抜け。おまけに暖冬と来たもんだから、ものすごく寒かった(初めて過ごす石巻の冬だったからかな?)おととしを思い出し、これでもかと厚着をした上に、貼るホッカイロまで買って準備万端で望んだ私の覚悟は、結構な勢いで空回りに終わりました。
仮設住宅は狭くて一軒一軒回れないので、談話室にみんなで集まります。獅子に噛んでもらえば今年一年健康に過ごせるといわれています。
それでもなんだかんだ言って石巻の冬の夜はそれなりに寒いわけで、まだ明るい時間帯からだんだん陽が落ち、気づけば回りは真っ暗で空にはたくさんの星が瞬いていて、そんな静かな浜の夜に響く太鼓と笛の音は、どこかあたたかくて懐かしい気持ちにさせてくれます。
仮設住宅を出るともうあたりは真っ暗でした。
私は、地域独自の伝承文化というものに、たぶんほとんど触れずに育ってきたので、石巻に来て獅子振りのことを知り、一晩中かけて浜の中を練り歩くことや、子どもたちはみんな学校で獅子振りの笛を教わること、「昔は朝までずっと太鼓と笛の音が聞こえてたんだぁ。」という浜の人の言葉にロマンを感じ、憧れの念すら抱いているのですが、昔からずっと受け継いできている浜の人たちにとってはもっと現実的なものなんだなということを、今年の獅子振りで感じました。
それは例えば、一軒ごとにお料理やお酒が振舞われる習慣が「毎年毎年用意するのが大変だから」という理由で薄れてきていることとか、「うちは今年は来なくていいよ」という家が年々増えて行っているということに表われているように思います。それが、最近の獅子振りが昔より早く終わる大きな理由の一つなのだそう。そういう話を聞いていると、あぁやっぱり漁村のような、昔ながらの暮らしが脈々と受け継がれている集落でも、時代とともに新しい価値観へと変わっていくんだなぁと実感します。
伝承文化である獅子振りですが、牧浜をはじめその周りの浜ではいっとき、伝承が途切れていたこともあるそうです。牧浜に住んでいるわたしの知り合いの漁師さんは、若い頃仕事で浜を離れていたことがあり、地元の獅子振りを見たくて何年かぶりにお正月に帰省してみるとすでに獅子振りはやらなくなっていたそうです。そこでその漁師さんが中心となって、また獅子振りをやろうと周りに声を掛け、牧浜の獅子振りは復活しました。それから少しずつ、周りの浜の獅子振りも復活し始めたそうです。
そして今また規模が小さくなりつつあるのですが、来年以降になれば、浜に作られる高台に新しい家や復興住宅が今よりもっと建てられます。「仮設」ではなく念願のマイホームです。そうしたらまた、獅子振りに参加する家が増えるのではないかと勝手に想像しているのですが、未来は闇の中。
でもわたしはこの行事が大好きだし、次の日の夕方まで続く本来の姿の獅子振りを、いつか見てみたいなと思うのです。地域の一体感、アイデンティティレベルでの深い繋がりをこれからも粛々と伝承していって欲しいなと思います。まぁ、自分がその中で一生住み続ける覚悟でも持たない限り、それこそ「外の人」が抱く勝手な理想の押し付けなのかもしれませんが。そんなことを考えたお正月でしたとさ。
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獅子振りの最後はみんなであったかカップラーメンでした☆