母乳が出ない① マタニティブルー
過去3回にわたってお届けしてきた出産エピソード(①出産前夜 ②帝王切開~痛みの考察編~ ③帝王切開~切腹編~)。第4回目は「母乳が出ない①」お話です。長いので今回も2回にまたぎますm(_ _ )m
意外かもしれませんが、多くのママさんは、産後からすぐ思っている以上に母乳が出始めません。虹がかかるような美しい母乳を飛ばすには、血のにじむようなオッパイトレーニングが必要でした。「母乳は出るもんじゃない! 出すもんだ!」です。日本でも、出産前の母親の90%以上が母乳育児を希望しているにもかかわらず、生後1ヶ月時点で母乳のみで育児をしているのは50%とのことです。母乳が十分に出ない場合もあれば、赤ちゃんがうまく吸えなかったり、乳首が切れたり乳腺炎の痛みに苦しむ場合もあります。
私もそうだったんですが、産後のトラブルって案外ノーマークなんですよね。出産があまりにも恐怖すぎて、あとはなんとかなるだろうって。でも、私は出産より産後が苦しかったし、2ヶ月も母乳が出なかったし、眠れなかったし、とにかく気が狂うほど大変だったので、出産をひかえるママさんの役に少しでもたてるよう、産後のこと(特にお乳)を記しておきたいと思います。
産後初日
産後30分。うまれたての我が子に授乳。天使や〜♡と大感動
帝王切開で出産したあと、ついに我が子を胸に抱く憧れの時間がやってきました。不思議なもので、出産後すぐ私の乳首からは「初乳」といわれる栄養満点の母乳が出はじめており、産後30分ほどから赤ちゃんにオッパイを舐めさせる練習をはじめます。またそれは「カンガルー抱っこ」と呼ばれていて、産後の母乳を促すために特に有効な方法だそうです。天使のような我が子を抱き、オッパイをささげ、家族の笑顔や助産師さんの優しさに見守られる至福のひととき… 本当に感動的だったのですが、ドラマなどによく出てくる夢の時間はこの時だけで、翌朝からは助産師さんが鬼に、我が子がモンスターと化すのであります…
産後2日目
赤ちゃんはベビー用カートに入れられ、常時隣にスタンバイ!
出産した日は「母体が疲れているから」という理由で赤ちゃんは別室にあずけられます。しかし、翌朝からは母親の部屋で一緒に過ごすようになります。俗にいう「母子同室」です。いきなり赤ちゃんが隣にやってきて、夜中だろうがトイレ中だろうがお構いなく泣き叫びはじめます。子どもの奇声がマシンガンのように連射されても、どうあやせば良いのか、いつ終結するのかまったく分かりません。私は5分で打ちのめされ、たまらず最終兵器・ナースコールボタンを押していました。
すると昨日とは違う助産師さんがやってきて、「あぁ、初産婦かぁ… 何も聞いてないの?」と残念そうな感じで、赤ちゃんの抱き方やオムツ交換、授乳方法など、初歩的な練習がようやくはじまります。「泣いたら速やかに抱っこ。それでもダメならオムツ交換。排泄した回数も記録しておいてね。あと3時間ごとに起きて、そのつど子どもに母乳を飲ませて。授乳は右乳15分、左乳15分、ハイやってみてー!」昨日は優しかった助産師さんも、今では鬼の軍曹です。
しかーし、助産師さんの言う通りにいくどもやれども、赤ちゃんは永遠と泣きやみません。オッパイだって上手にあげられないし、赤ちゃんも上手に吸うことができない。助産師さんもコロコロ変わるので言うことがコロコロ変わる。気づけば時刻は深夜0時。隣には他の親子が寝ていて、早く泣き止まさなければとさらに焦りテンテコマイに。しかも隣のママさんは授乳も寝かしつけも全てが上手で(出産2回目の妊婦さんだったのでうまいのは当然なのですが)劣等感や敗北感、恨みつらみねたみみたいなものが募り、心がネガティブな感情に支配され、脳がプスプスと沸騰し、耳から蒸気がプシューと出たら目がクルクルまわりはじめて、頭がこっぱみじんに破裂。もう限界です。
私は白旗をあげながらよろよろとナースセンターに出頭し、再び子どもを助産師さんにたくして、翌朝からは個室に移動してもらうよう頼み込みました。子どもを預け一人部屋に戻る途中も、我が子の泣き声が「お母さん捨てないでーー」と今生の別れかのように聞こえ、落ち込みました。
そして私と同じように涙に暮れるママさんたちがすれ違っていきます。1人は点滴を引きずりながら陣痛をむかえている妊婦さん。もう1人は赤ちゃんを入れたカートを力なく引きずる新米ママさん。「ここは女の戦場…」そう呟きながらベッドの上に横たわると、記憶がないまま眠ってしまいました。
産後3日目
30分以上泣き叫ぶ我が子… 根性があります
3日目の朝。再び子どもと対面するも束の間、「人生終わった…」と途方にくれました。この日も我が子はずーーーっと泣き続けます。オムツをかえても泣きます。抱っこをしても泣きます。オッパイをあげても泣きます。なにをしても、眠ることを知らないカラスのようにひたすらギャーギャー泣き続けます。それは同じ病棟にいる乳児の中でも1位2位を争うやかましさで、助産師さんの中でも名を知られるようになっていました。
また、子どもが寝ているからという理由で授乳をせずに昼寝した時には、助産師軍曹に起こされ「3時間ごとに必ず授乳しなさい!」と怒られます。夕方にはマタニティブルーなる心の闇が襲ってきて「この子はきっと精神疾患があるんだわ… だから泣き止まないのよ」と落ち込み放心状態になります。そんなプチウツ状態を見かねた実の母親が「きっと母乳が足りてないんだよ。お腹が膨れたらどの子も眠るんだから粉ミルクを追加してもらいなさい」とアドバイスをくれるのですが、私としてはしっかり授乳できていると信じこんでいたし、母乳の美学を教えこまれていたので、粉ミルクを使う助言を受け入れられません。
しかし、子どもの体重が大幅に減っていることが診察で判明し、私のオッパイから母乳がほとんど出ていないことが分かりました。つまり子どもは飢餓状態です。だから泣きやまないのです。それは大変ショックな出来事で、子どもの命を自力で守れないことに混乱しました。
あの有名議員のように「小さいうえにぃいぃぃいぃぃぃ… 母乳も出ないオッパイなんてぇええぇぇ…っ役立たずだわああああーーーうぁああああああああああ!!…うっ…産まれて間もない赤ちゃんにぃーーひもじいおもいをさせてぇええええええぇぇえええええええっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ごめんなさいぃいぃぃ。ああああーーーうぁああああああああああ!!…っ」と号泣していました。
今となればなんでもないことなんですが、あの時は体もヘトヘトなうえ、マタニティブルーというホルモンの大波に完全に飲み込まれ溺れていたように思います。マタニティブルーって妊娠中ではなくて、むしろ産後に起こりやすく、出産を終えた30%ほどの女性が経験するようです。
つづく