過酷で美味しい「カゼ(ウニ)口開け」

2016/06/24

 

 みなさんはウニの旬がいつか知っていますか???

 海なし県・埼玉出身だからなのか、お寿司屋さんに行くとイカやアジばかり食べているからなのか、恥ずかしながらわたしはウニの旬が、この初夏の時期だということを釜石に来るまで、考えたことがありませんでした。

 ちなみに下の写真で、とげとげが短いのが「ぼうず」と呼ばれる馬糞ウニ、とげが長くて真っ黒なのがムラサキウニです。

 

馬糞ウニ

 

 

ウニではなく「カゼ」

 

 まず、みなさんにお伝えしておきたいのは、三陸では「ウニの水揚げ」とか「ウニを捕る」という言い方は存在せず、「カゼの口開け」と言います。ウニ=カゼ、海中から捕って剥いて出荷すること=口開け、です。「口開け」はカゼだけでなくアワビなどでも言うようです。

 釜石にいるとこの時期、「月、木は口開けだから無理」とか「火、金は朝早いから」という話を時々、耳にしますし、公務員や会社員でも親族に漁師さんがいる場合、代休が取れた日は口開けのお手伝いに言ったりしています。

 ふだん、釜石地方森林組合 という山にかかわる組織で仕事をしていて、家もどちらかというと山の中(海からは15キロほど)なのですが、山と海がちかいのがこの三陸の特徴。春から夏にかけては、ワカメ、ウニ、ホヤ……と漁村集落の息吹を感じる季節であり、好調であれば「震災から5年たってようやく浜にも活気が出てきた」とみなさん明るい笑顔を見せてくれます。(今年は海藻の育ちがいまいちだそうで、全体的にはもう一歩のようですが)

 

 

「カゼの口開け」初体験

 

 3月には、わたしの所属している釜援隊 のメンバーがかかわっている漁業体験プログラムでわかめの収穫を体験しましたが、5月中旬のある日、おなじく釜援隊のべつのメンバーKくんから「知り合いの親戚がカゼの口開けの人手が足りなくて困っているので、手伝いに行かないか」との誘いが。えっ、まったくの素人でもできるものなの???と困惑しつつも、「バイト代はうに丼(白飯は持参)」の一文にも魅かれ、午前5時半起床、6時半集合に駆けつけました。

 

カゼの口開け手伝い

 

 釜石市内には3つの漁協がありますが、漁協によって口開けの日は違います。お手伝いにいった東部漁協の口開けは、月曜日と木曜日。どうやら漁業権を持っている船1隻につき、黄色いかご(いちばん上の写真)いっぱいまで捕ってよい、ということになっているようでした。しかし午前7時から殻剥きを始めて10時には漁協に出荷しないといけないようで、剥き手が少ない場合は、海中にウニがいても、剥ききれる量しか捕らないそうです。

 

ウニ

 

 助っ人であるKくんとわたしは、漁師さんが2つに割ったカゼから黄色い身(ふだんお寿司などでいただく部分)とわた(内臓)をすくい出す係に任命されました。それをさらに2人のプロがわたを取り除き、黄色い身だけにします。

 わたしたちの作業が滞ると、プロの手も止まってしまうので、必死です。Kくんは翌日会ったときに「昨日の夜、寝ようとしたらまぶたの裏に、ウニの黄色がちらついて眠れなかった……」と言っていましたが、たしかに日常ではありえない大量のウニ、ウニ、ウニ……。都会にいてはできない経験です。

 

 カゼは生命力が強いのか、真っ二つに割られても、とげとげは動きます。おいしそう、だけど、ちょっとかわいそう……、しかし、そんな葛藤をしている暇もないほど容赦なく、二つに割られたカゼが山積みになっていきます。まさに時間との闘い。

 通常、1かごであれば、3人ほどでできるのだと思いますが、この日は総勢5人で作業したため、9時半すぎには全部剥き終わり、お母さんが出荷場所に運んでいきました。

 

 

ウニどーーーん

 

 おおむね、予想したとおりの作業でしたが、やはり不慣れな自分が役にたったのかは不安です。かえって、こちらが貴重な経験をさせていただいたかんじでした。

 ひとつ、予想外?だったのは、事前に「ごはんを持ってきて」と言われていたので、ウニを食べさせてもらえることはあつかましくも分かっていましたが、着いたとたん「さあ、食べちゃいましょ」と言われて、作業の前に、ウニ丼をいただくことになりました。

 さらに、出荷するには小さいウニは分けられて、そこからインスタントコーヒーや佃煮の瓶に詰めてもらい、おみやげとしても持たせてもらいました。なんと贅沢な経験でしょうか。

 

ワタと身がいっしょになっているところ

ワタと身がいっしょになっているところ

 

 三陸産のウニ

身の上に専用のスプーンを当てて殻からはずすと、スムーズにはがれてきます

 

 

生産の現場がちかくにある暮らし

 

 わたしが前職の新聞記者を辞めて転職する際に、たくさんの方に「なんでまた?」と聞かれましたが、そのときに伝えていたのが、「生産の現場がちかくにある岩手の暮らしはとても魅力的で、そのなかに身を置きたい」ということでした。いま振り返ると、当時感じていた「生産の現場」というのはあくまで、ソトから来たお客さんとして農家さんや漁師さんが体験させてくれていたものでしたが、岩手での暮らしが長くなるとともに「お客さん」ではないかかわりかたもしていけるのではないかと思っています。

 ウニの旬は今からです。「三陸産」のウニを見たら、食べる前に釜石のことも思い出してもらえるとうれしいです。

 

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