迷ったいま、走れ!
先週、対馬から大阪へ少し帰った。外せない少しの用事を済ませると何も予定はなくなった。かといって急に予定を埋めるようなこともしたくなかったので、自転車で近所をふらふらしたあと、誰もいない神社でひとり佇む。
子供の頃からよく通ったこの神社は、夏になると地元では大変な賑わいで、その二日間を過ぎると何もなかったかのように、また静かに参拝客を待っている。
神社独特の凛と張り詰めた空気が心地よく、頭からっぽでぼんやりしていると、自分の居場所がどこにあるのかわからなくなっていくような感覚にとらわれた。
このまま大阪にいる方が自然かもしれない、でも対馬に早く帰らないといけない気もする。それとも違う場所の方が、なんて無責任な考えが頭の中を巡っていく。
68年ぶりのスーパームーンから一夜明けたばかり、ふと見上げるとやけに綺麗なお月さまが浮かんでいたが、星は数えるほどしかなかった。小屋から徒歩ゼロ秒の夜空満点に広がる星空がなんだか恋しくなる。
赤島大橋からの星空は小屋から車で5分程度
自販機で買ったあたたか~いコーヒーを自転車のカゴに入れ、神社を出てすぐの公園のベンチに座った。何かを考えるには十分な時間がある。僕にとって対馬とは何か、いろんなものを失い、たくさんいただいた五ヶ月半のことを少し振り返ってみようと思った。
僕が大阪を出る理由はそんなになかった
去年の今頃は対馬にいるなんて思っていなかった。
同じ歳の平均年収より少し高く、休みもそれなりにとれ、彼女とも順調、特に大きな不満や、絶望的な出来事があったわけでもないのに、このまま歳を重ねていくことに小さな不安があった。その小さな不安は放置しておくと、どんどん大きくなるかもしれない。
椅子に座ってパソコンとにらめっこ。メールや電話を飛ばしながら出張したり、お酒を飲んだり、海外にもいったりする。社会の隅っこのどこかで、かならずお役に立っているからこそ、この立場があって生活もできて、生かされていることはわかる。
でも年収を増やすことが大きな目的になってはしないだろうか。お金は稼ぐに越したことはないが、そんなことでモヤモヤと広がりつつある不安は解消されるのだろうか。
そんな折、突然やってきた対馬(MIT吉野元さん)からのメールに心が揺れた。
地域づくりコンサルティングということで、対馬市のコンサルや観光コーディネーターとして民泊の斡旋事務局等の仕事を想定しています。自分で事業を立ち上げ、仕事を作っていける方を探しています。
いなかパイプでお仕事ウェイティングリストに登録だけはしていたが、それっきりだったので、忘れたころのメールに戸惑い、返信に3日かかった。
ようやく返信してからはメールでのやりとり、スカイプでの話し合い、3月には対馬へ来島、6月から対馬生活スタートと話はどんどん進んでいった。
対馬に来て初日の事務所となにわフィットくん
ちっちゃなころを思い出した
みんな対馬によく来たねぇと声をかけられ、今はどこに住んでいるのと大体聞かれる。小屋に住んでいると伝えると、「え?」と聞き返されることも多い。僕が対馬に来てみんなに驚かれるのは、なにわナンバーではなく、住んでいるところにある。
住んでいる小屋(元:真珠の加工場)
風呂なし!トイレなし!でもかなり快適(今となれば)。向かいにはおばあちゃんが住んでいて、そこから水道と電気は供給されている。家賃は特に決められていないが、水道光熱費と合わせて毎月1万円払っている。
真珠加工の名残で浮かんでいるいかだ
一目惚れした小屋からの景色。
住む場所なんてどうでもよくなかった。公営住宅や、ご厚意で貸していただける一軒家もたくさん回ったが、小屋が良かった。
対馬に来て1番感動したことは、身も知らずの若者を小屋に住まわせてくれた初日に、おばあちゃんがシャワーでも浴びませんかと声をかけてくれたことだった。
お言葉に甘え、シャワーから出たあと貝柱の唐揚げまでいただき、居間でおばあちゃんと話していると去年死んでしまった祖母を思い出して少し涙が出そうになった。もし小屋に住んでいなかったらこれほど対馬を楽しむことはできていないだろう。
小屋でお魚はたくさん釣れ、その魚をおばあちゃんが捌いてくれるし、名前も教えてくれる。BBQなどして、美味しい焼き芋も食べられるし、パノラマの星空を観ながらドリップしたコーヒーを楽しむこともできる。最高級のグランピングではなかろうか!!
向かいのおばあちゃんには感謝でしかない。いつも本当にありがとう。
おばあちゃんと一緒に草刈り
ふたつの世界
あまりたられば話は好きではないけど、考えてみる。
去年通りに過ごしていたかもしれない世界と、対馬で過ごしている世界(いま)。いまだから言えることだが、間違いなく対馬に来て良かった。後悔なんて一欠片もない。
たしかに給料は半分以上減り、外でわいわいお酒を飲む機会もなくなり、大阪にいる彼女とも結果的に別れることになってしまったけど、ここで出会ったたくさんの人や思い出たちが自分にとってすべてで、これ以上も以下もない。とにかく溢れんばかりの優しさをいただいて半年やってこれた。
8月にスタッフとして参加した対馬市島おこし実践塾にて
10月に開催した対馬フェスの実行委員で打ち上げにて
いつもお世話になっている吉野夫妻のお披露目パーティーにて
対馬で出会った友人たちから少し早めのサプライズ誕生会。人生初の似顔絵ケーキが!笑
HOW TO GO
たまたま僕が恵まれた環境にあったことはすごく幸せなことで、大阪の皆さんにも対馬の皆さんにも感謝することしかありません。対馬に行くという自分のワガママで家族や周りのたくさんの人に迷惑をかけてしまったかもしれない。でもやっておけば良かったとか、これは仕方がないなどと後悔はしたくはありませんでした。
少しでも田舎暮らししてみたいと思った今こそ、何かアクションを起こしてみるのも良いかもしれません。
まずは土日の一泊二日だけでも、対馬にも来て暮らしの原点を体験してみませんか。かならず心のどこかにふれる体験や、出会いが待っているはずです。
対馬の霊峰・白嶽
赤島大橋からエメラルドグリーンの海
小屋から近所の住吉神社。鳥居の向こうには海に向かう階段がある。
対馬の魚
3月のターニングポイント。これから対馬に住むかもしれない若者の歓迎会をしてもらった。胃から攻め込まれる。すべてを飲み込んだ僕に選択肢はひとつしかなかった。
こうして振り返ってみると、いまのとこ僕の居場所は対馬にあるようです。
コーヒーもなくなってしまったし、明日の朝には対馬に帰らないと。
ただいま、対馬。