隈研吾作「ゆすはら雲の上の図書館」へ遊びに行ってみた~前編~
いよいよ2018年7月24日に開館した「オーテピア」。とりわけ追手筋周辺が盛り上がっている今日この頃ですが、もう一つ、忘れてはいけない立派な図書館が開館したのをご存じでしょうか?
その名称ならびにキャッチフレーズは「ゆすはら雲の上の図書館」。なんだかジブリ映画のタイトルのような名称です。開館を目前にひかえた5月26日には、設計者の隈研吾さんと、歌手の加藤登紀子さんを招いて記念行事が行われました。
高知新聞の記事を読んでいると、「設計者が隈研吾」、「梼原町で初の図書館」、「木と本のいい匂い」等々、心惹かれるパワーワードが並んでいて、これはもう現地に行って感じるしかない!と思い、開館日の3日後に早速、休養を兼ね行ってまいりました。
梼原町役場から歩いて5分程度の好立地に「ゆすはら雲の上の図書館」はあります。
青空に映える木目調の外観。
ロゴやフォントがすごくオシャレです。
さすがは隈研吾さん設計の図書館とあって、一目でワクワク心をくすぐるデザインです。特徴的なのは、まず決まった入り口がありません。というのは、こちら。
もちろんメインの入り口はあるのですが、晴れの日は常に窓を開け放しているので、どこからでも靴を脱いで入ることができるんです。この開放感と自由性は、実際に体験してみるとすごく便利です。現に私の子どもは、あっち行ったりこっち行ったり忙しなく動き回るので、これには非常に救われました。
さて、図書館はというと、開架書庫と閉架書庫をあわせて、およそ9万冊(2018年6月現在)もの本があります。フロアは大きくわけて1階と2階。1階は主に総合カウンターや交流広場、多目的ルームやステージやえほんコーナーが、2階は一般図書やコミュニケーションラウンジ、井戸端エリアなどで構成されています。とまあ、紹介するべき点がかなり多いのですが、まずは、ゆすはら雲の上の図書館を知る&楽しむ7つの特徴を紹介してみたいと思います。
その① 地元の木材をふんだんに活用した空間で、木の床の感触や香りを楽しむくつろぎの空間。
その② 隣接する複合施設「YURURI(ゆるり)ゆすはら」や子育て支援センターとの連携。
その③ 老若男女、町民と観光客、梼原と日本と世界、心と体など、交流と越境による多様な文化の創出。
その④ 町民の教養と興味を担保する選書、独自分類の書架構成、自由な編集による特集棚の充実。
その⑤ ゆったりと落ち着いて語り合うラウンジと、まったりと過ごすカフェなど、滞在型空間の工夫。
その⑥ 季節ごとの年中行事や、映画会からビブリオバトルまで、人々が集まり、交流する機会を演出。
その⑦ 郷土資料の充実と、雑誌・新聞・DVD・インターネットなど豊富な情報へのつながりを提供。
実はこの7つの特徴、図書館の公式リーフレットにも記述されているもので、雲の上の図書館を構成する上で欠かせない要素たちなんです。たとえば、見た目の最大の特徴であるその1。
地元の木材であるスギやヒノキをふんだんに使用。本と木組みに包まれた空間は、まるで森の中にいるようです。朝や昼には陽光がたえ間なく差し込み、夜には木々の間から優しいライトで空間を照らすので、常に自然のぬくもりを感じられます。
さらに、特徴その5。
コミュニケーションラウンジやカフェでは、通常の図書館ではNGな行為の代表例である「飲食」が可能なんです。また、テレビやDVDも視聴可能で、みんなでワイワイ話し合ったり交流ができるんです。これぞ、まさに滞在型空間。時間を気にせず、そしてずっと居たくなる図書館なんですね。
このように、7つの特徴で構成されている雲の上の図書館なのですが、他にも、大人も子どもも存分に楽しめる工夫が随所に散りばめられています。
中二階にある井戸端エリアと呼ばれるスペース。ちょっと座るためフリースペースといったところで、縄が網目状になっている所からは、1階のえほんコーナーが見える造りになっています。なので、子どもが1階でえほんを読んでいてもチラチラと覗き見できるわけですね。お母さん方はちょっと安心かも?
総合カウンター横にあるボルダリングコーナー。図書館でアクティビティもできちゃいます。
ゆすはらステージ。音楽会から朗読会まで、新たな梼原の文化の発信拠点として活用されています。
ライブラリースペース。リベラルアーツ(教養)を支えるライブラリーが、4つの小部屋で構成されています。本の内容の充実さも去ることながら、それぞれの部屋のモチーフ・テーマを表すユニークなジオラマも必見です。
そのほか、閲覧コーナーはもちろんのこと、情報交流コーナー、子育て相談室、多目的ルームやベビールームまで、とにかく細部にまでこだわり抜いた、そして利用者向けの配慮や遊び心が行き届いた、まさに至れり尽くせりな図書館なんです。もちろん、本の内容も抜かりなし。梼原町ならではの本から、資料本や郷土本や雑誌まで、図書館としての機能も文句なしなのです。
総合カウンター裏の棚にもびっしり本が詰まっています。
図書館なので、言わずもがな本はたくさんあるのですが、ただ、いわゆるギュウギュウ詰めではないところも一つの魅力です。たとえば、大型の書店や県や市が運営する図書館は、本がキレイに、どこか無機質に並べられていますよね? いっぱいありすぎてなんだか探しにくい、見づらい、疲れる、と感じたことはないですか?
ここは、一つひとつの棚のスペースにゆとりがあって、装丁が美しい本や話題の本などが丁寧に展示されているんですね。これも実はアイデア。本と本の隙間も、ぎっしりではなく、あえて少しゆとりを残しているそうです。そうすることで、利用者が見やすいレイアウト、手に取りやすく、かつ戻しやすい空間にしているんだとか。たしかに、長時間どんな本があるのか読むとも探すとも見ていた私も、肩こりや目疲れに悩まされることはありませんでした。リーフレットの隈研吾さんも語っていた「小さな空間を散りばめる」とはこういうことなのですね。
「あ」~「ん」までのカテゴリーも、一風変わった見出しです。
さて、それにしても…、です。いったいなぜこれほど立派な図書館が、あの隈研吾さんを設計者として迎え、高知の、それも梼原町という人口3,500人あまりの町で建設することができたのか? ちょっと不思議に思いませんか? 次回は、この雲の上の図書館が建設に至った経緯や、梼原町ならではの体制について掘り下げてみたいと思います!