東京オリンピックの後を見据えて田舎で暮らすのをおススメする理由(後編)
- 執筆者 多田朋孔
- 所 属特定非営利活動法人地域おこし
2019/06/21
前回の記事では、東京オリンピックの後を見据えて田舎で暮らすのをおススメする理由として、住居にかかる費用をできるだけ抑えつつ、副業を絡めて仕事を柔軟に選択しやすいという観点をお伝えしました。今回は、地方移住をするとしたら、なぜできるだけ早い方がいいのかという事についてお伝えしたいと思います。
地方移住するとしたら、なぜ早めにした方がいいのかという理由は、徐々に地方移住をする人が増えているため、いい空き家や農地は早い者勝ちという状況になってくることが予測されるからです。
例えば、私もそうですが、いなかパイプに関わる人にも何名かいる地域おこし協力隊などは、都会から地方に移住を促進させるための制度でもあります。最近は地域おこし協力隊は定住しなくてもよいという意見も出てきており、私も定住が全てと言うつもりはありませんが、総務省による定義では、地域おこし協力隊とは、都市部から過疎地に住民票を移し、「地域協力活動」を行いながらその地域への定住・定着を図る取り組みと書かれており、基本的には移住施策でもあります。
平成21(2009)年度から開始され、初年度の平成21(2009)年度は全国に89人だった隊員は、平成29(2017)年度には約5000人にまで増えており、任期終了後約6割が同じ地域に定住していると総務省は発表していますので、実際に地域おこし協力隊の制度を通じて地方へ移住した人が増えているのは間違いありません。
図6地域おこし協力隊について 出所:『地域おこし協力隊の概要』 総務省
政府はさらに東京一極集中の是正、地方の担い手不足への対処、移住者の多様な希望をかなえることを狙いとして、「地方で起業したい」「自然豊かな地方で子育てをしたい」人たちのために「わくわく地方生活実現政策パッケージ」を策定・実行するとしています。
そして、6年間で6万人のUIJターンによる起業・就業者創出や、地域おこし協力隊の拡充として6年後に8000人に増やす事を資料に明記しています。
図7わくわく地方生活実現政策パッケージ 出所:『総合戦略2018改訂版の基本的方向(案) 』平成30年11月21日内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 内閣府地方創生推進事務局
具体的に東京23区在住者・23区への通勤者が東京圏以外の道府県に移住し、就業または起業した場合に交付金を出す(就業した人には最大100万円、起業した場合には最大300万円)ことを平成31年度に予算要求しています。
図8地方創生推進交付金を活用した移住支援
出所:『総合戦略2018改訂版の基本的方向(案) 』平成30年11月21日内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 内閣府地方創生推進事務局
こうした中、まだまだボリュームは少ないのですが、実際に地方に移住したいという人達は確実に増えています。ふるさと回帰支援センターが公表している「2017移住希望者の動向プレスリリース」、「2018移住希望者の動向プレスリリース」によると、移住相談の件数(面談・セミナー参加などと電話などによる問い合わせの合計)は右肩上がりで増え続けており、2008年に2475件だったのが2018年には41518件と16倍以上になっています。
図9来訪者・問合せ数の推移
2015年には移住相談窓口として移住・交流情報ガーデンもオープンしているため、実際の移住希望者はもっと増えていると考えられます。人数が増えているだけではなく、相談者の年齢層も若返っています。同じくふるさと回帰支援センターの「2018移住希望者の動向プレスリリース」によると、2008年には約70%が50代以上であったのが、2017年には70%以上が40代以下とまったく逆転しています。
図10センター利用者の年代の推移
この間に地方移住が増えているのは社会的な背景も影響していると私は考えています。2008年の秋にリーマンショックがありました。
私自身もリーマンショックをきっかけとして、お金の信用度の危うさを感じ、生活に必要なものをできるだけ自分で調達できるようになりたいと考えるようになりました。
その後、2011年に東日本大震災が発生し、原発が大きく社会問題として取り上げられるようになり、子供を安全な場所で育てたいという人が増えました。
また、東京のスーパーやコンビニからモノがなくなり、いざという時に東京は危ういと気づいたこともあり、田舎暮らしを考える人は増えてきました。
さらに、2014年からの「地方創生」の掛け声のもと、政策的に地方に目を向けられるようになりました。まだまだ日本全体から見ると少数派ではありますが、地方移住を考える人が確実に増えてきており、それは単なる一時的なブームというよりも、社会的な流れが変わってきていると感じています。
こういう状況ですので、今後も都会から田舎へ移住する人は増えてくると私は思います。そうすると、田舎のいい条件の空き家や農地の需要が増え、ある意味の早い者勝ちになっていくと思うのです。
これは空き家や農地だけではありません。私が地域おこし協力隊になった2010年ぐらいの時点では地方ではIT系のスキルを持った人が少なく、田舎の情報をインターネットで発信している人も少なかったですし、ホームページが作れる人がいたら重宝されていました。それが、都会で働いていたことがある若い人が増えてくると、そのようなスキルを持った人が珍しくなくなってきました。
そして田舎では顔が見える関係での信頼がモノを言う社会ですので、「○○さんは何々が得意だ」という情報が行き渡るとその地域での第一人者になれてしまうのです。ある意味、都会的なスキルを持つ人にとっては自分の希少価値を持たせやすいのが田舎であると感じています。
そういう意味ではこれも早い者勝ちと言える部分があると思います。地方移住の分野では今の段階はイノベーター理論で言うところのアーリーアダプターの人達の時期だと言えますので、まだ手遅れではないです。
※イノベーター理論とは、世の中に物事が普及するときの過程を以下の5つのグループに分けた考え方です。
・イノベーター 革新者
・アーリーアダプター 初期採用者
・アーリーマジョリティ 前期追従者
・レイトマジョリティ 後期追従者
・ラガード 遅滞者
詳しくはこちらのリンクをご覧ください。
私自身も地域おこし協力隊が始まった初期の段階から協力隊員として現場で活動してきた事が積み重なり、いまでは地域おこしに関する本を出版するまでに至りました。ちなみに本はこちらです。
『奇跡の集落:廃村寸前「限界集落」からの再生』
これも早い段階に迷わず飛び込んだ事で、他に同様の活動をしている人がほとんどいなかったので、自分がある意味その道の専門家というところまで行けたのだと思っています。まだまだ田舎はフロンティアと言える部分が沢山ありますので、これを読んでいる方でもご自身のキャリア設計を考えるうえで、「地方で○○の第一人者になる」という生き方は今のタイミングであれば十分可能だと思います。これが地方移住を迷っている人はできるだけ早く移住した方がいいと私が考える理由です。
最後に、一つ興味深い話を入れたいと思います。この写真は私の住んでいる池谷集落の集会場にあるお米1俵の価格変動史です(スライド10)。江戸時代後期の天明元(1781)年から昭和56(1981)年までの200年間の米1俵の金額が毎年どのように変動したのかが全部書かれています。これを見るとおもしろいことが見えてきます。
かつて米の値段は物価の基本指数でしたので米価が上がるときは物価が全体的に変動したと考えられますが、幕末の10年間で米の値段は約10倍になっています(1858年57銭7厘→1867年5円29銭)。もっとすごいのは第2次世界大戦終戦の前年からの10年間で、米価が200倍以上にはね上がっているのです(1944年19円92銭→1953年4272円)。
図11米1俵の価格変動史
幕末の10年間の間で時代は江戸時代という鎖国の武士の時代から開国し、大日本帝国という天皇が国家元首であり現人神の時代になりました。そして、近代国家の仲間入りをしたわけですが、世界恐慌に続いて第2次世界大戦がはじまります。
この戦争で日本は敗戦し、大日本帝国から日本国となり、天皇は現人神から人間宣言しました。ここでまた時代が変わったわけです。つまり、時代の転換期に経済をリセットするかのように、米の値段が急激にはね上がったという事実があるのです。
明治維新と第2次世界大戦終戦の間が77年ありましたが、終戦から東京オリンピックの間もほぼ同じ75年です。
2008年にリーマンショックに端を発した世界同時不況がありましたが、これも世界恐 慌と呼ばれました。最近も金融庁が老後に2000万円必要だと発表したところですが、 日本では少子高齢化により年金はほぼ破たんしており、若い人の中には自分が年金を もらえないのではないか?と思っている人もいます。
さすがに東京オリンピックが終わったらすぐにハイパーインフレが来たり世界大戦が起こるとまでは思いませんが、これまでの歴史的な経緯を見ると、近代社会の一つの時代の「耐用年数」は70年~80年程度なのではないかと個人的には感じています。
東京オリンピック後にもしもバブルが崩壊したとしても被害を受けないように今のうちに準備をしておく事が必要だと思いますし、いざという時のために自分で作物を作る事が出来るようになっておくという事も必要だと思います。
自分が高齢者になった時に、生涯現役で作物をつくりながら適度な運動をする事は健康寿命を延ばす事にもつながると感じています。
東京オリンピック後を見据えると、農村で暮らすのも悪くない生き方だと思いませんか?