尾道散歩日誌 vol.2 映画を観て、まちを歩く

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執筆者 中尾早希
所 属フリー

2021/12/22

 私は映画館で映画を観ることがとても好きだ。東京に住んでいた頃には、いくつもの映画館で年間会員になっては惜しげも無く足を運んだ。

 座り心地が決して良いとは言い切れない老舗の映画館では古い時代の映画を観るのがピッタリだったし、クリアな大画面・贅沢なスピーカーが用意されている映画館ではアクション映画との相性が抜群だと感じていた。

 映画を観終えた後には、気分に合わせてまちを歩いたり、喫茶店やバーを選んだりして、その映画について考えたり感想をまとめたりしたものだった。

 都内の場合だと徒歩や電車移動で映画館をはしごすることもできるので、テーマと上映時間を考えてプランを組んだ『映画館オール』なるものを企画して、昼夜問わずに映画を堪能した。

 

 また、「この映画ならあの街のあの映画館がピッタリだ」と、わざわざ映画や映画祭を中心に旅を計画したりもするくらい。知らない言葉を話す国に行った時にも、 映画館に吸い寄せられは『1国1映画館体験』を堪能して帰る。

 国によっては自由にスナック菓子を食べたり、大きな声で笑ったり叫んだりと空気感も様々で、映画館の中での様子は街中の商店の様子を切り取ったようだとも感じた。同じ空間で同じものを共有している雰囲気を楽しむだけでも満足だった。

 映画だけを目的とするならば DVD やネット配信でも事足りるかもしれないけれど、映画体験と合わせることで映画がより印象的なものになるし、相乗効果のようにその街での思い出も色濃いものになるのだった。

 

 ここ尾道のまちには「シネマ尾道」という小さな映画館がひとつだけある。

 1947年に演劇場として始まり、映画館「尾道松竹」へと形を変えたり、鉄筋へと建て替えたりしながら、街で最後の映画館として長らく営業を続けていた。

 2001 年に一度幕を閉じたが、7 年間の閉業を経て2008 年には「シネマ尾道」として復活したのだった。

 その開業費が市民草の根募金から捻出できたというからまた驚きで、この街には文化的なものを受け入れる土壌や必要としてくれる人々が多くいたからこそできたことなのだろうと感じている。

 

シネマ尾道

シネマ尾道2階から1階にあるエントランスを見下ろした様子。両サイドには上映予定の映画のポスターが貼られている。

 

シネマ尾道

ジム・ジャームッシュ監督の特集が組まれていた。レトロな映画館で、30年以上前に制作された映画を観ると、その当時へとタイムスリップしたような感覚が味わえるからオススメ。

 

シネマ尾道

館内の様子。私は前の方に座る派です。シネマ尾道は1スクリーンしかないため、タイムテーブルが組まれているので、要チェック。

 

 また、いくつかある尾道の枕詞のひとつに「映画のまち」というのがあるが、そううたわれるよになったのは小津安二郎監督の『東京物語』(1953 年)や大林宣彦監督の『時をかける少女』(1983 年)など、有名映画の舞台となったことがきっかけだと言われている。

 シネマ尾道では現在も年に数回、それらの映画の特集が組まれている。映画に合わせてシチュエーションを選びたい私からしたら、尾道の街で尾道に関係する映画が観れることはこの上ない特別なことに感じられる。

 

尾道

映画を観終わった後に街を歩くと、何気ない景色まで映画の中のように思えてしまう。

 

 ロケ地として選ばれる尾道(旧市街地エリア)は、北を見上げれば岩山があり、貼りつくように古民家や、寺社仏閣がひしめき合っている。

 商店街の隙間を縫うように並んだ民家からは、洗濯物を干している様子やランドセルを背負って駆け回る子供達の様子があり、今も昔も変わらぬ暮らしが垣間見える。

 南の方には穏やかな海が輝いていて、大なり小なり様々な船が行き交っている。

 まるでそのまま映画の世界に飛び込んでしまったかのような、違う時代のセットの中にいるような、不思議な気持ちになれるのだった。

 そしてそんな非日常のような場所に、自分の日常を溶け込ませることができているのは、なんてロマンチックで嬉しいことなのだろうと感じてしまう。

 

尾道の街並み

車の通らない山側エリアでの暮らしは、ひとつの文化を感じられる景色。

 

 皆様が尾道を訪れたい理由にはどんなものがあるだろうか。

 おいしものを食べ歩いたり、見慣れぬ景色を撮り歩いたりしたいのだろうか。ぜひその旅程に、映画館で映画を観る予定を組み込んでみてはいかがだろうか。または、映画の上映に合わせて尾道滞在の計画をしてみてはいかがだろうか。

 これまでとは違う感性で、まちの景色に感動すること間違いなしです!!

 

文 / 中尾早希

 宛てもない旅、映画館で映画を観ること、いい感じの石を拾うことなどが好き。
 肩書きは特になく、コンセプトを考えたり、イベント・ワークショップの企画運営、商品開発、広報活動(写真を撮ったり文章を書いたり)などを生業としています。
 お店を開くべく、空き家探しに奮闘中!

instagram : https://www.instagram.com/so_sakinakao/

 

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