地域おこし協力隊が四万十町でピザを焼く理由
2014/10/08
- 執筆者 石田朋久
- 所 属四万十町地域おこし協力隊
いなかマガジンでは初めまして、四万十町地域おこし協力隊で十和を担当している石田です。普段からFacebookにはいろいろ投稿しているので知ってる人もいるかと思いますが、大阪から四万十町に移住して1年と少しが過ぎたところでめでたく「いなかマガジン」デビューします。
1年間で、連日40℃を超える夏の猛暑から、氷点下で雪が積もる真冬の寒さ、また豪雨による50年ぶりの増水まで駆け足で体験しながら、日々移り変わる四万十の大自然を満喫しています。
さて、いきなりですが。自分が住んでいるのは四万十町の十和にある旧広井小学校の元教員住宅です。今は廃校となってしまったこの小学校は現在シェアオフィスとして使われていて、綺麗な校舎が綺麗なまま残っているし、昼間は人が仕事しているので廃墟のような不気味さは全くありません。広い校庭は我が家の庭でもあるので、夜中に真っ暗な校庭の真ん中で星の撮影もできる贅沢な所にあります。
住んでみるとなかなか快適なこの広井小学校には、なぜか立派なピザ窯があるのです。自分が協力隊として去年の7月にこの小学校に引っ越してきた時は、まだ土台が作りかけの状態でした。その後、役場の職員の方が忙しい仕事の合間にコツコツと少しずつレンガを積み上げていき、2ヶ月ぐらいかかって完成した窯を見た時、皆さん窯作りは専門じゃないのに素人が作ったとは思えない出来栄えに驚いたものです。自分は窯作りもレンガの積み方も知らないので何も手伝えなくて、完成した後でこの窯の看板だけ作成しました。
さあ、ピザの窯が完成したらあとは焼くだけですね。
でも、誰が?どうやって?
普通ならピザ窯ができてもなかなかピザを焼いて食べるところまでいかないと思うのですが、たまたま自分が大阪のテーマパークでピザを焼いていたことがあったので、この窯を任されることになりました。前の職場でも最初は別の店舗に居て、途中で異動した店でピザを焼くことになった時、まさか自分がピザを焼くことになるとは!!と思っていたのですが、退職して協力隊になってもまさか自分がピザを焼くことになるとは!!
3年近くピザを焼いていたのは事実だし、その間にゲストさんに提供したピザは数万枚という途方もない数になっていました。しかし、ここに完成したような薪で焼くピザ窯ではなかったし、自分で生地から作ったこともなかったので最初は戸惑いの連続で、とにかく火加減が難しくてなかなか上手く焼けない日々が続いたのです。これまでの経験は役に立たず、全てが四万十町に来てから独学で考えました。なので「大阪でピザ焼いてました」って紹介することはあっても、その時のピザとは別物ですね。自分で言うのもアレなんですが、前に仕事で焼いていた贅沢な食材を使ったピザよりも、今焼いている四万十町の食材を使ったピザの方が美味しくなっていると思います。
今思うと最初の頃は無茶なピザを作っていました。ピザ窯ができた事を知った人から「焼いて欲しい」という依頼があれば、なるべく安くしてあげようという想いから、1枚¥250~¥300で受けていたし、枚数も20枚とかを一人で焼いてました。結果、満足な材料も揃えられずにピザ生地を伸ばしながら、トッピングしながら、火加減を見ながら焼くので時間もかかり、あまり美味しいとはいえない物ができてしまったのです。
これじゃイカンということで、今年の2月は勝手ながら「ピザ強化月間」に決めて試作を重ねました。しっかり熱が入った石釜の火力は半端じゃありません。2分ちょっとでピザが焼きあがるぐらいの高温になります。この絶大な火力を誇る広井の窯で中途半端なピザを焼いていては申し訳ないので、材料から見直して色々試してみた結果、1枚¥500ならかなり美味しいピザが焼けるようになり、試食してもらった人も「これは美味しい」と言ってくれるようにもなりました。
ピザは美味しくなったかわりに、材料の買い出しから前日のソースの仕込みなどに手間がかかるようになって、気軽にピザ焼きましょうという訳にはいかなくなってきます。
ピザといえば誰もが思いつくであろうマルゲリータを例にあげますと、トマトソースはフレッシュトマトから手作りです。もちろん、素材のトマトも塩も四万十町産のものを使いますよ。バジルとオレガノは自宅横で栽培しています。そしてフレッシュなモツァレラチーズは近所の店では手に入らないので往復数10kmの道のりを車で買いに行きます。この買い出しの燃料代を考えると少し赤字になってしまうのですが、ピザに使う食材以外についでに自分用の買い物も済ませることで燃料代は除外して、儲けも無く赤字にもならない¥500というギリギリの値段になりました。それでも、多目に食材を用意しておいてキャンセルなどがあるとその分だけ確実に赤字になってしまうので、人数と枚数を予め教えてもらってその分だけ用意する完全予約制でやっております。面倒だとは思いますが先に説明したような値段設定でやっていくための方法なのでご理解いただきたいと思います。
ピザ生地を伸ばしているのを見ている人は皆さん「生地も手作りなんですか?」とか、ソースを塗っていると「このソースも手作りですか?」と質問されるんですけど、ピザ生地なんか売ってないから手作りするしかないんです。 ソースも市販のピザソースは味と香りが濃すぎて具材の味がわからなくなってしまうから手作りするしかないんです。
ピザ強化月間にこの四万十町で収穫される四季の味覚を取り入れたピザを試作しながら、役場の職員の方に試食してもらっているうちに評判が口コミやFacebookなどで広がっていき自分は直接知らないところからも問い合わせがくるようにまでなったのです。
中でも、四万十町青少年育成町民会議さんからのお話は町内の小学生にピザ焼きの体験をしてもらうという楽しい企画で、仕込み作業からスタッフが手伝ってくれてリハーサルまで行うという丁寧な対応をしていただき子供達も喜んでくれました。凄い人気ですぐに定員一杯になったということで2回目も開催したのですが、この2回目もすぐに定員が一杯になったようです。この開催にあたっては、主催の四万十町青少年育成町民会議の方々やウエル花夢の小野川さんやスタッフの方に大変お世話になりました。
このピザ焼き体験の会場となった大正のキャンプ場ウエル花夢さんにあるピザ窯は、広井の窯の型枠を残してあったものを使ったので基本的な形は同じです。内部構造とか煙突の位置が違って焼き方もちょっとコツが要るみたいですが広井と同じく美味しいピザが焼けます。
先日は初めて地元の住民の方と町道の草刈りの後、田休みで広井小学校の校庭でピザを焼いてワイワイと楽しく過ごすこともできたし、あとは自分が居なくても生地作りから焼きまで全部できる人を育てて四万十町にピザブームを起こしてみようかと企み始めているのです。
このいなかマガジンの原稿もほぼ書き終わり、後は写真を撮ってまとめて送ろうかと思っていた時にまたピザを焼いて欲しいという依頼がありました。依頼主は、この原稿を送ろうとしているいなかパイプさんです。人数と枚数を確認してみたところ驚くことに「20人なので40枚とか焼けますか?」との返事。しかも開始が17:30なので10分に1枚のペースで焼いていくと全部焼き終わるのは日付が変わる頃になりますし、途中で暗くなって焼き加減が見えなくなります。前述しました四万十町青少年育成町民会議さんのピザ焼き体験では20人の小学生に30枚のピザを焼くのに、スタッフ15名が付いていただいても3時間近くかかっていますから、一人で40枚というのがいかに無謀な事かわかるかと思います。
まあ、常識的な人数と枚数であれば難しいことではないし、ゆっくりと余裕をもって美味しいピザを食べていただきたいので、人数は8人まで、枚数も一人2枚まで、暗くなる前に焼き終わるぐらいの開始時間がベストですね。それと、ピザしか用意してないのでドリンクやデザートは各自持ち込んでいただいて、帰りに運転される方はビールも我慢でお願いします。