柳川暮らしが楽しすぎて困ります。 ~潟焼きの巻~

2015/06/09

顔の写真
執筆者 阿部昭彦
所 属柳川市地域おこし協力隊

 

 福岡県の最南部、佐賀県と熊本県に挟まれ、有明海に面した柳川市からこんにちは。柳川市地域おこし協力隊員の阿部と申します。

 

ウナギの蒸籠(せいろ)蒸し

 

 柳川と聞いて「ああ、柳川鍋の柳川ね」と思ったあなた、柳川ではドジョウを食べませんので悪しからず。でも、ウナギはたくさん食べます。その名も「ウナギの蒸籠(せいろ)蒸し」と言い、秘伝のタレで味付けしたごはんの上に、焼き上げたばかりの蒲焼きを載せ、それをさらに蒸籠で蒸し上げて、仕上げに錦糸玉子をトッピング。ただでさえ美味しい蒲焼きをもう一度蒸すことで、ウナギの脂と秘伝のタレがごはんに染みこみ、言葉に出来ない美味しさとなるんですよ。ぜひ一度はお試しください!

 

 柳川川下り

 

 柳川は、福岡県でも随一(唯一とも)の観光名所です。ウナギの蒸籠蒸しの他に、どんこ舟に乗ってゆらゆらと街をめぐる「川下り」も大人気です。ちなみに結婚式や力士の昇進祝いなどの時は、験を担いで「川上り」をします。教科書にも載っている北原白秋をはじめとして柳川出身の有名人も多く、俳優の妻夫木聡さんもここ柳川の出身です。土俵入りの型としてその名を残す雲龍久吉さんを筆頭に、力士を多く輩出する歴史もあり、最近では柳川出身の大関・琴奨菊関が活躍しています。

 このように観光資源に恵まれた柳川には、年間100万人を超える観光客が訪れます。しかしながら、強力な観光コンテンツがあるために、その他の地域資源に光が当たることがなく、埋もれてしまっているというもったいない現実もあります。

 そこで、この「いなかパイプ」さんへの投稿は、そうした柳川の「隠れた主役」たちにスポットをあてて紹介することを中心にしたいと考えています。

 

 有明海

 

 記念すべき第一弾は「潟焼き」です。潟とは干潟のこと。有明海に広がる干潟は国内最大規模で、全国の干潟面積の約4割を占めるほどです。お隣の佐賀県は、この干潟をうまく観光資源に活用して「ガタリンピック」などを開催していてうらやましい限りです。この有明海干潟は生物多様性に富み、ムツゴロウやワラスボなど、独特の生物が生息することでも有名です。また、有明海を赤く染めながら、長崎の雲仙岳と佐賀の多良岳の間に夕日が沈んでいく眺めは柳川ならではのもので、この夕景を見るためだけでも柳川を訪れる価値があると、私は声を大にしてお伝えしたいです!

 

 潟焼きコーヒーカップ

 

 さて、その有明海干潟の泥を使った「潟焼き」ですが、潟の泥を練って器にしたわけではありません。それでは、どこに潟を使っているかというと、実は釉薬(うわぐすり・ゆうやく)として使っているのです。最初は、潟の泥で器を作ろうとしたのですが、泥の成分の関係からか、熱を加えると溶けてしまいます。それでも、あきらめることなく試行錯誤を繰り返す中で、あるときに釉薬として使ってみたらどうかと思いつき、試してみたところ、窯から姿を現したのは、緑色に輝く器たちでした。

 

 潟焼き釜

 

 潟焼きを一から生み出してきた陶芸家の松岡誠悟さんは「ある程度の予測はついていたけれども、実際に窯から出してみると、その美しさには言葉を失った」とおっしゃいます。松岡さんは備前焼を主としながらも、他の陶芸にも非常に造詣が深く、潟焼きを生み出すにあたっては、彼の豊富な知識と経験が欠かせませんでした。

 阿蘇山からもたらされた鉄分などのミネラルが、河川を通じて有明海に流れ込み、干潟の上の付着珪藻類を長い時間をかけて育んできました。潟焼きのこの奥深い色は、干潟の珪藻そのものだと言えます。

 

 芋

 

 有明海は島原半島によって外洋との出入り口が狭くなっています。そのため、筑後川などの河川から運び込まれた土砂は外洋に流れ出すことなく、有明海の中に閉じ込められていきます。また、最大干満差6メートル(一般的な建物で2階の天井くらいの高さ)となる有明海は潮流が速く、海底の泥は押し戻されるようにして河口付近に堆積して、広大な有明海干潟を形成していきました。柳川の場合は、遠く大分県との県境の矢部村を源流とした矢部川が、61㎞かけて運んできた土砂が、干潟を作ってきたことになります。

 長い長い時間をかけて、矢部川の恵みが育んできた柳川の干潟。その潟から作った釉薬がこれほどに深い緑色となるのは、実にドラマティックではありませんか?

 

 NPO法人SPERA森里海・時代を拓く

 

 柳川で活動するNPO団体の1つである「NPO法人SPERA森里海・時代を拓く」は、豊かな森が豊かな海を育む関係に、流域(里)に暮らす人々がどのように寄り添っていくのかという「つながりの価値観」を大切にして、さまざまな活動を展開しています。その中では、森と海をつなぐカギ物質である溶存鉄を生み出す環境改良剤を用いて、有明海の腎臓・肝臓機能を担う干潟を再生する実験も実施していて、非常に興味深い結果が得られています。高校生が積極的に活動に参加していることも非常に素晴らしいことですね。

 

 潟焼き

 

 矢部村の豊かな森の恵みが、豊かな有明海の干潟を育て、その潟を人が里で陶器とすることによって、遠く離れた矢部村の森の恵みが、鮮やかな緑の輝きとなってよみがえります。こんな素敵な物語が、この潟焼きには隠されているんですよ。

 この潟焼きに興味を持たれた方は、販売もしていますので、遠慮なく下記までお問い合わせください。

 

 NPO法人SPERA森里海・時代を開く事務局

 tel:0944-72-2424 e-mail:speramorisatoumi@gmail.com (@マークを小文字に変えてメール送信下さい。)

 

 

 

 

 

FacebookTwitterLine