馬ッコと暮らす古民家リノベーション 求む!クラウドファンディング協力者
2015/11/04
何年か前から全国的に空き家リノベーション旋風が巻き起こっていることは、田舎暮らしや地域づくりに興味のある人ならご存じでしょう。わたしも「越後妻有アートトリエンナーレ」などを見に行くたびに、「古い民家を使って何かできたらおもしろいなあ」とあこがれつつ、昨年から暮らしている岩手県釜石市は東日本大震災の津波被災地で空き家が少ないため空き家リノベーションはむずかしいかとおもっていましたが、思いがけず身近なところで、リノベーションが始まり、早くも佳境を迎えています。
釜石に馬ッコが来るぞ!
全国的にもリノベーションした物件をカフェや宿泊施設にしたりいろいろな事例がありますが、釜石では、馬と人がともに暮らす生活を復活させながら、ホースセラピーなどを行う事業の拠点とする計画です。岩手は馬産地と言われていて、いまも毎年「チャグチャグ馬コ」という農耕馬に感謝する行事があったり、「南部曲がり家」という馬と人が一緒に暮らしていた住宅が残っています。
そんな岩手ですが、当然のことながら、農業や林業に馬が使われる機会は減り、私たちが馬ッコと触れ合う機会もほとんどなくなっています。しかし、今だからこそ、馬ッコを連れてこよう!と立ち上がった男性がいます。それが、現在わたしが所属している「釜石リージョナルコーディネーター協議会」(通称:釜援隊)のOBで、今年春に一般社団法人「三陸駒舎」を立ち上げた黍原豊(写真左)さんです。
黍原さんは愛知県出身で、岩手大学進学をきっかけに岩手との縁が生まれました。卒業後、県内のNPO法人が運営する「森と風のがっこう」などに勤務していました。子どもたちとかかわる活動で経験を積んできた2011年、東日本大震災が発生しました。妻の里枝さんが沿岸の釜石市の出身ということもあり、黍原さんは2013年4月、「釜援隊」に加わりました。釜援隊を通じて、海や山での自然体験、漁業体験のコーディネートなど行っている一般社団法人「三陸ひとつなぎ自然学校」に派遣され、地域の大人たちも巻き込んだ子どものためのイベントの企画運営などを担当してきました。
なぜ「馬ッコ」を?
子どもたちが自然とのかかわる機会をつくってきた黍原さんですが、なぜ「馬ッコ」を活用した事業を始めようとおもったのでしょうか。きっかけは、ほかの釜援隊メンバーが前職のつながりを生かして、2014年に釜石に試験的に馬をつれてきたことでした。馬を活用した地域活性化や観光振興の可能性をさぐった数日間でしたが、実際に馬が地域にやってきて、子どもたちや住民と触れ合うのを見るうちに、黍原さんの馬ッコへの思いが強まっていったと言います。黍原さんは
「馬が来ると、普段はおとなしくしている仮設住宅暮らしの子どもたちの表情がみるみる間に変わっていきました。また、昔は馬がいた橋野地区では、地域の人たちが馬を懐かしがって、昔の話をしてくれたり……。この地域と馬の親和性の高さを実感しました」
と言います。
黍原さん自身も釜援隊時代は、妻と、震災の年に生まれた長女とともに仮設住宅で暮らしていました。だからこそ、せまくて隣近所の声が筒抜けになる仮設住宅での暮らしを続けている子どもたちの精神的なケアの必要性を実感することも多かったのでしょう。
馬を連れてくる、と決めるやいなや、昨年末には家族会議を開いて相談。妻も意外にもあっさりと応援してくれたということです。
「馬を飼うにはお金もかかるし、とてもたいへんなこと。でも誰かが腹をくくってやらないと」
家族会議から半年後には、釜援隊を退職。一般社団法人「三陸駒舎」を立ち上げました。山間部・橋野地区で昔、馬を飼っていた民家をリノベーションし、そこで馬と暮らしながら、仮設住宅の子どもたちへのホースセラピー事業や、馬ッコとともに里山を歩くトレッキングなどを行っていく予定で、晩秋にはいよいよ馬ッコもやってきます。
今年のはじめに訪れたときは、所有者さんが住んでいたころの衣類やふとん、日用品が大量に置かれていて、片付けるだけでもさぞ大変だろうと思われましたが、今年春から週末を中心にのべ400人以上のボランティアが、地元釜石や首都圏などから駆けつけ、地道に作業を進め、10月末には室内のリノベーションはほぼ完成、お披露目できるまでになりました。
自分の暮らしは自分でつくる
元同僚の挑戦ということで、私も何度か手伝いに行きましたが、東京からのリピーターのボランティアがいたり、Facebookなどでリノベーションのことを知った人が大阪からも来ていたり、三陸駒舎を中心とした輪が広まっているのが印象的でした。
彼らをひきつける理由のひとつは、床を貼ったり、漆喰を塗ったりする作業自体のおもしろさももちろんですが、作業をしながら同時に古民家での暮らしの一端を体験できるからではないかとおもいます。夏の終わりに、東京の大学生が10人前後で来ていた時は、黍原さんを中心に、みんなでかまどで栗ごはんを炊き、出始めたばかりのサンマを焼いて食べました。イカの捌き方が分からない学生がいると、黍原さんが手際よく捌いて見せたり、ご飯を炊く火力をアドバイスしたり、都会で生活している学生にとっては新鮮な体験になったようでした。
自分の暮らす家を自分でつくる、とか、自分の食べるものを自分で育て自分で料理する、とか、100年くらい前まではきっと当たり前だったことを、いまの世の中に生きる私たちは他人にまかせてしまっています。リノベーションや古民家での暮らしは、そういったものを取り戻す試みなのかもしれません。
クラウドファンディング宣伝させてけろ!
……とはいえ、21世紀の私たち。何をするにもお金がかかります。馬ッコを連れてくるにも、馬ッコを飼うにも。すでに、馬ッコ購入の準備は済んでいますが、輸送費などを調達するために、現在、「いしわり」という岩手に特化したクラウドファンディングを利用して、協力者を募っています。そして、期限はいよいよ11月6日22時に迫っています。被災地域でふるくからの生活文化を取り戻し、さらには子どもたちにもっと笑顔になってもらおうという取り組みです。ぜひ全国からの応援をお願いします。