多角的農業経営の人生~伊井さん~
2013/03/14
今日は上勝町にお住まいの農家さんの紹介をしたいと思います。
今日ご紹介するのは伊井さん。
葉っぱビジネス―彩で有名な上勝町ですが、伊井さんは葉っぱの生産はされていません。
上勝町には葉っぱ以外の農家さんも多くいらっしゃるんですよ。
お父さんの重夫さんは御年73歳。
伊井さんのお家は元々400年余って何代も続いた由緒正しい農家で、重夫さんも中学校を卒業すると同時に家業を継ぎました。
小学校の時から学校に行く前には毎日、牛の餌となる草を刈ったり、秋には稲刈りのお手伝いしたりしてから登校されていたそうです。
そのため学校に着くのはいつもギリギリ。遅刻してしまうこともしばしば。
中学校にあがると、農繁期には学校を休んで家の手伝いをすることも多く、同級生にひどいことを言われたこともあったそうです。
そんな中、学校を休んだ日には伊井さんのためにノートをとってくれる女の子がいて、その子のおかげで学校を続けることができたとのこと。
今でもその方とは手紙をやり取りしたり、上京した際には会ったりされるそうです。
とてもいい話ですね。
農業のあまりの過酷さに、
「弟たちにこんな思いはさせとうない」
と思い自分は家業を継ぎ、2人の弟さんたちには進学させてやろうと心に決めたそうです。
とてもカッコいいですね。
その弟さんたちは現在、病理医と歯医者をされているそうです。
重夫さんも昔のお話をしてくださる時は、細かい年号までいちいち覚えていらっしゃって、「ああ、伊井さんの家系は頭がいいんだなぁ」といつも思います。
伊井さんの家は昭和30年頃、他の多くの上勝町の家と同じくみかんの生産をされていました。
当時はみかんで御殿が建つほど、みかんがよく売れていたそうです。
伊井さんも家業を継ぐと、どんどん山を切り開いてみかん畑を増やしていったそうです。
しかし、次第にみかんは売れなくなり、葉っぱビジネスが始まるキッカケとなった昭和55年の大寒波を機に、伊井さんもみかんの生産をやめました。
みかんをやめる数年前からブロイラーの生産を始めていた伊井さん。
最初は種鶏をされていましたが、日に日に卵を産むので、みかんと両立していたら寝る間がないほど忙しかったそうで、ブロイラーに転換。
上勝町では一番初めにブロイラーを始められたそう。
今では鶏舎は業者に貸し出して、伊井さんはブロイラーの飼育のサポートをされています。
それから菌床しいたけの生産を始めるために1500万円のハウスを建てますが、5年ほどで採算が合わないことから事業撤退。
菌床しいたけは上勝町内の何軒かで同時に始めたそうですが、伊井さんは一番初めに撤退されたそうです。
みかんの生産をやめてから数年後にはキウイフルーツの生産を開始。
これは最初なかなか高く売れたそうです。
今もキウイの樹は残っていますが、どんどん規模は縮小していっています。
伊井さんのキウイはとてもおいしいんですよ。
このように様々な事業を手掛けてきた伊井さん。
なぜ?と聞くと
「自分の土地を守るために適材適所でニーズに合わせて事業を変えていった。
経営者目線で将来性がないと思ったら次々と事業を変えていった。」
とのこと。
僕は最初インターンシップに来た時に、伊井さんのところでお仕事をさせて頂いて伊井さんのお話を聞き、伊井さんの農業や自分の家や土地についての考え方、特に「自分の家・土地を守っていく」という強い思いを聞いて、農業への道を考え直しました。
農業というのは土地というものと深く関係していて、「ちょっとやってみる」というような軽いノリではないんだな、と感じたからです。
15歳で家業を継いでから半世紀以上の間、自分の土地を守り抜いてきた伊井さん。
自分がその年の頃に兄弟のことを思って、自分のやりたいことを我慢して家を継ぐ決断ができただろうかと思うと、たぶんそんな勇気はなかっただろうと思います。
今は自分の土地を荒らさないように管理はしつつ、農業の規模はどんどん縮小していっているそう。
ご長男が退職されて帰ってきたときに少しでも住みやすいように、という気遣いだそうです。
土地が守られていくのであれば、農業でなくてもいいのでしょう。
杉の木を伐採して、ケヤキの木を植えていっています。ケヤキが大きくなるのは200年、300年後のこと。
うーん。かっこいい。
そんな伊井さんが最近熱心なのがインターンシップ生の受入。
現代っ子には想像もつかないような苦労をされてきた伊井さんのお話は若い大学生の心にも響くようで、伊井さんはとても人気者です。
伊井さんの携帯電話には数多くの女子大生のメールアドレスと電話番号が登録されており、近況報告をしたり、あけおめメールを送ったりして楽しんでいらっしゃいます。
お父さんはしゃべりだすと止まらないたちなのですが、実はお母さんも負けていません。
お母さんのご趣味はおもしろいものを作ること。
家の近くの畑にはお母さんの趣味でありとあらゆる作物が植えられています。
皆さんはチャンドラポメローをご存知ですか?
グレープフルーツとよく似ているのですが、なんせデカイ。
実が重すぎて枝が折れることもしばしば、というのですからちょっとマヌケですね。
お母さんはお父さんに対してなかなか普段は毒舌なのですが、とっても仲がいいんです。
見ているとホッコリします。
僕は伊井さんご夫婦にはインターン生時代からお世話になっていて、しょっちゅう晩御飯にお呼ばれしたり、誕生日会を開いてもらったり開いたりと、家族のような付き合いをさせて頂いています。
インターンが終わって一人で上勝に来た時に伊井さんの家が近くにあったのはとてもありがたいことでした。
お父さん、お母さんいつもでもお元気で。
これからもよろしくお願いします!