クラウドファンディングを活用した地域おこしのポイント
- 執筆者 多田朋孔
- 所 属特定非営利活動法人地域おこし
2014/11/26
農村の現場にいると、クラウドファンディングを活用した取り組みが色々行われている事を目にします。
クラウドファンディングの事はご存知の方も多いかと思いますが、インターネット上で様々なプロジェクトに対して共感する方を募り、寄付金として資金を集める手法です。有名なところでは先の東京都知事選で家入かずま氏が供託金をクラウドファンディングで集めたのが記憶に新しいです(目標金額5,000,000円に対して7,447,500円集めて達成しています)。
農村地域に関する取組の中で個人的に非常にインパクトがあると思うプロジェクトとしては、和歌山県にある「いなか伝承社」が行っている“和歌山に残る「醤油の伝統技術」×未利用資源の「昆虫(イナゴ)」=世界初の「おいしい昆虫発酵調味料イナゴソース」”というものもあります。著者である私自身も「農業後継者育成のための住宅を新潟県魚沼産の棚田米で作りたい!」というプロジェクトでクラウドファンディングを活用しています。
個人や地域の団体のみならず、自治体専門のクラウドファンディングのサイトも2014年9月には開設されています。その名も「ガバメントクラウドファンディングふるさとチョイス」です。このサイトはふるさと納税のポータルサイトを運営する株式会社トラストバンクが新たなサービスとして開設しました。
このようにクラウドファンディングが地域活性化に活用されるケースが増えてきているのですが、実際に取り組んでみて効果的に活用するためのポイントがいくつか見えてきましたのでそれらについて書かせて頂きます。
クラウドファンディングを効果的に活用するためのポイント
①多くの人が共感するビジョンを明記する
②寄付金を頂いてお礼をするというよりも形を変えた商品販売としてとらえる
③お礼の品の発送作業は自分達の商品販売のオペレーションに組み込む
稲刈り後集落遠景
①多くの人が共感するビジョンを明記する
これは言うまでもない事ではあるのですが、寄付を頂くという事は基本的に取り組みに共感していただかないと無理だと思います。農村の取組で多いのは「自分達の地域を応援してほしい」という事はあるのですが、私はそこを一歩進めて自分達の地域の取組と言うだけでなく、その取組が将来の社会を良くしていく事につながるという事にまで自分の視野を広げたり、時間軸を長く見据える事がとても重要な事だと思います。クラウドファンディングとは関係ありませんが、実際私が会社員を辞めて東京から十日町市へ移り住み、今の取組をするようになっているのは「食料の問題、環境の問題等に真正面から立ち向かうつもりでやっている」という当団体の代表の言葉を聞いて、自分がうすうす思っていた事がここでの取り組みを通じてやれそうだと思ったからです。今や「消滅自治体」の衝撃から政府が「地方創生」を掲げる時代になっています。地域の取組が日本の将来を良くするためにつながるという事は多くの人にも理解をしてもらいやすい状況にあると思います。
②寄付金を頂いてお礼をするというよりも形を変えた商品販売としてとらえる
クラウドファンディングという仕組みは寄付金を募るという名目になってはいるのですが、通常寄付金額に応じたお返しをする形になっている事がほとんどであり、見方を変えると形を変えた販路という風に捉える事も出来ます。そのように考えると、農業経営にも新たな可能性を見出すことが出来ます。
地方で実際に農業にも携わっていると、農業の担い手が少ない、または定着しない根本的な原因はズバリ「労働に見合った収入が取れない」という事が大きく影響しています。基本的に農家には人件費の概念を持たない人が多く、公的機関等の提示する作物のモデル収支についても、「これだけの面積で標準的な収量が取れれば売上いくら」というものは表記されていますが、その作物を育てて出荷するまでにかかる作業時間については全く触れられていません。そして作業時間について集計をとっている農家はよほどしっかりとした農業法人以外聞いたことがありません。同じ地方の田舎でも土建屋さんや大工さんなど他の業種では料金は作業時間に応じた作業者の日当を積み上げて材料費等と合わせた金額になっていますが、農作物はそうではなく、市場の相場が価格決定に大きく影響しており、人件費を含めたコストに見合った販売価格になっていない事が多く、そのため「労働に見合った収入が取れない」という状況になっています。
精米の様子
そういった中で、このクラウドファンディングの「寄付金に対するお礼」という形をとれば、市場価格との比較が度外視された形で寄付金と引き換えに農産物を送り届けるという事ができます。その際に人件費を含めたコストに見合ったお礼の内容を設定すれば(勿論クラウドファンディング運営会社に支払う手数料もコストに含めます)、通常だと不当に安く買いたたかれている農産物を正当な価格で購入して頂くという事が出来る可能性を持っています。
但し、クラウドファンディングはプロジェクトへの支援という形をとっているため、新たに行う取組みに関する新規の投資にあてるための資金集めには向いていると思うのですが、日常業務の運転資金にする性質の資金調達をしようと思うと難しいかもしれません。それでも、自分が作っている農産物の一部でもクラウドファンディングを新たな販路として販売出来れば大いにプラスになると思います。
また、商品販売ととらえる事で、寄付をして下さる方々にとっては、他のプロジェクトに比べてお得感が出ます。寄付のお礼ととらえると、寄付金に対するお礼の品の金額換算した割合は低くても良いと思ってしまいがちですが、商品としてとらえると寄付金に対するお礼の品の金額換算した割合は高くなり、寄付をして下さる方からしても寄付をしやすくなります。実際目標達成しているプロジェクトはお礼の品も魅力的であることが多いです。
山清水米
③お礼の品の発送作業は自分達の商品販売のオペレーションに組み込む
都会の大企業ではこういう発想は当たり前の事だと思いますが、クラウドファンディングに取り組む際には、既に自分達が取り扱っている商品をお礼の品の軸にする事が効果的に活用するポイントになります。
ある地域活性化に関するNPO法人の方から「お礼の品を送るのにお礼の品を用意して発送する手間が現状取れないのでなかなかクラウドファンディングに挑戦できない。」というお話を頂いた事があります。クラウドファンディングでは新しいプロジェクトに対して支援をして頂くという性質上、お礼の品に関してもどうしても既存のものではなく、プロジェクトに関連した新たなものにしたくなりますのでこういう問題が出てくるのだと思います。クラウドファンディングの寄付のお礼として普段自分達が販売しているものを中心とした形にすると、販売のオペレーションの中に組み込んでお礼の品を送る事が出来るため、新たな手間というのはそんなに多くありません。ですが、クラウドファンディングのために通常販売業務で取り扱っていないものが多いとお礼の品を送るのにとても手間がかかってしまい、その準備や発送にかかる手間暇を人件費として換算すると、割に合わないという事が発生する可能性があります。
例えば、普段自家用野菜しか作ってない人がクラウドファンディングのお礼に「野菜を送ります」としてしまうと、最初は自分で食べきれないほどの自家用野菜を作っているのでお礼も十分出来ると思っていたとしても、実際にやってみるとお返しをする時になって送る野菜が足りなくなってしまい、近所の農家さんからかき集めるのに苦労するという場合も出てきてしまいます。自分の商品でない場合だと、その商品を仕入れる費用もかかってしまいます。ですので、自分達の商品として、商品販売のオペレーションの中に組み込む事が大切だと思います。私達十日町市地域おこし実行委員会が取り組んでいるプロジェクトではお礼の品もお米を軸として+αという形にしていますが、お米の直販を通常業務で行っていますので発送作業も効率よく行う事が可能です。
つぐらさんと山清水米
以上、色々と書かれたポイントを踏まえて私達十日町市地域おこし実行委員会のプロジェクトページを作成したつもりですので、クラウドファンディングで地域活性化をするという事にご関心をお持ちの方はこちらもご覧いただくと良いかもしれません。
家の建設の様子