「地域おこし協力隊」の成功・失敗は何で測る?
- 執筆者 多田朋孔
- 所 属特定非営利活動法人地域おこし
2016/07/04
今回は「地域おこし協力隊」の成功・失敗について現場で地域おこし協力隊として活動し、その後同じ地域に残っている人の目線から書いてみたいと思います。
私自身はこの制度が始まった2009年度に地域おこし協力隊として今住んでいる新潟県十日町市の池谷集落に着任しました。そして任期終了後も十日町市に定住し、協力隊員時代に行っていた活動の延長線上で今も取り組みを継続できています。
まずは地域おこし協力隊の制度についてざっくりと概要を書きます。
この制度は2009年度から始まった制度で、総務省が実施してる制度です。2015年度は2625名の地域おこし協力隊員が活動していたようです。ちなみに協力隊員の人数の推移はこちらのグラフをご覧ください。
政府は「2016年に3000人、さらに2020年に4000人をめどに拡充」と地方創生の総合戦略に明記しました。
※【出典】『まち・ひと・しごと創生総合戦略における 総務省の主な施策(参考資料)』(平成27年1月)13ページ目
政府が地域おこし協力隊を3000人に増やすという話は安倍首相が言い出したと思っている人も多いかもしれませんが、実は平成21年度に制度ができる当初から初年度300人、3年で3000人体制にするという事が総務省の資料に書かれています。
【出典】 総務省のPDFデータ
地域おこし協力隊の関係者の中には「そんなに人数ばかり増やして大丈夫か?」という声があるのですが、最初から3000人体制は視野にあった話なので別に驚くことではないのです。
ですが、全国に地域おこし協力隊が実際に増えると、成功例もありますが、失敗例も沢山出ているようです。何をもって成功したとか失敗したとかの定義も曖昧な状態ではありますが、定住率は一つの指標になります。
総務省は任期終了後の協力隊員の定住率を出しており、同一市町村内に定住した割合は47%です、途中で辞めた人は集計の対象になっていないと思われます。
※【出典】『平成27年度地域おこし協力隊の定住状況等に係る調査結果』5ページ目
私の住む新潟県十日町市では地域おこし協力隊の受け入れを当初から積極的に行っており、2009年度から5人の任用、2010年度に10人追加し、2011年度は7人追加、途中退職や任期満了もあり、その後入れ替わりつつ常時約15名~20名の隊員が同時期い活動しています。
十日町市の地域おこし協力隊の定住率は、全国平均に比べて高く、33名辞めたうち24名が2016年4月1日現在十日町市内に残っています。割合にすると73%の定住率です。これは任期終了の人も途中で辞めた人も含めた数字です。途中で辞めた人を除き、任期終了後の協力隊員の定住率は十日町市では28名中24名で86%です。
つまり十日町市では地域おこし協力隊の定住率が全国平均を大きく上回っている上に、母数も多いので仕組みとして受け入れ体制が安定していると言えるでしょう。
この高い定住率につながった受け入れ体制の良さが評価され、十日町市は平成27年度ふるさとづくり大賞の自治体部門で表彰されました。
※【参考】『平成27年度ふるさとづくり大賞受賞者の概要』15ページ目
私自身が地域おこし協力隊員であったことと、任期を終了した後も何人もの現役の地域おこし協力隊員と関わっていろんなケースを直接見る事も出来ていますのでそういう立ち位置から地域おこし協力隊の成功・失敗をどう考えるのかについて色々と書かせていただきたいと思います。
協力隊は定住だけが全てではないという意見もあり、私もその意見を全面的に否定するつもりはないのですが、定住した方が地域の人は間違いなく喜びますし、地域の人の本音は「派手な企画とか目に見える実績よりもともかく定住してもらいたい。」です。
これを象徴する言葉を協力隊の任期が終わった後に直接地域の人から言われました。
「多田君も小学校に子供も入学したし、消防も入って地域に根付いてきたな。地域の人はいついなくなるかわからない人の事は信用しない。責任がないんだから。」
「お前は逃げ出さないと思うから厳しい事も言えるんだ。」
これはそれぞれ違う人から言われた言葉ですが、いずれも一緒に飲んでいるときに言われた言葉です。定住するかしないかで地域の人の対応が変わるのが読み取れる言葉だと思います。
定住しなくても信頼される人ももちろんいるとは思います。ただ、それは自身の専門分野における高い知見と地域の人のニーズを汲み取る力を併せ持っており、自分の専門性を押し付けるのではなく、地域の人のニーズを汲み取った上で自分の専門性を地域に役立つように提供できる人だと思います。
このような高い専門性を持つ人が、地域おこし協力隊の募集条件で来るというのはある意味特別な例であり、ほとんどの地域おこし協力隊に応募する人には当てはまらないと思いますので、多くの地域おこし協力隊にとっては、地域の人があえて厳しい本音を直接言ってくれる関係になるというのが目指すべき事だと思います。
これ抜きには何をやっても空回りになりますが、逆にこれができたらほぼ8割は上手くいったと言っても過言ではないと思います。そして、地域の人からそのような信頼をしてもらえるようになるためには、「地域の人の物差しで評価される」という事を積み重ねるのが重要です。
例えばわかりやすい例としては、「肉体労働で頑張る」とか「立派な農作物を作る」とか「家の周りをきれいにする」とか「消防団に入る」とか「子供が生まれる」などです。
また、自分ができてない点を指摘された内容が直接的でも間接的でも耳に入ったら、そのことに対して言い訳をせずに改善するという事です。この時に注意するべき点としては言い訳をしない事です。
言葉だけで「あれはこういう事なんですよ」と説明したとして、指摘した人が納得したような反応をしても心の中では納得してません。それよりも行動を変え、地域の人が指摘した事を改善したという事がきちんと目に見える形としてあらわす事が大切です。
例えば、「畑の草が全然手入れされていない」という指摘を受けたとしましょう。とても忙しくて草刈りをする時間が取れず、わかっていてもできていなかった場合に「これこれこういう事で忙しくて・・・」などというのはNGです。
草が手入れされていないという指摘を受けたら、「すみません」とだけ言って最優先で次の日ぐらいには草刈りをしてしまう事が重要です。地域おこし協力隊員が、地域の人から信頼されるのに大事な事は、こういう事の積み重ねしかありません。「郷に入りては郷に従え」ということわざは本当にその通りだと思います。
そして、地域の人達との信頼関係を作る事を地道に行い、地域に残る事を明確に周りの人に表明していたら3年目にはおのずと道は開けます。地域の人も協力隊の任期が3年という事は知ってますので、「この人にずっと地域に残ってもらいたい」と思えば色々と協力してもらう事も出来ます。
地域おこし協力隊の3年間が成功か失敗かというのは地域の人の多くが地域おこし協力隊員の事を好きになり、地域おこし協力隊員も地域の事を好きになるという事であると思います。お互いがお互いの事を好きになった上で定住しないという展開もあるかもしれませんが、多くの場合、それは定住という結果につながると思います。
地域おこし協力隊は定住ありきではなく、地域の取り組みに協力する事なのでしょうが、地域の人はどうせいなくなる人に、無責任に関わってもらいたくないという気持ちを持つ人が多いので、定住して地域に根付く気持ちを持たないと地域の取り組みに本当の意味で協力できるようにはならないというのが実際のところだと思います。
そういう意味ではこの地域おこし協力隊という制度は住民票を移すという点で絶妙なポイントを押さえていると思えてなりません。
何十年もかけて今の状態になった過疎の地域が、たった3年間でどうにかなると思うのは無理があります。協力隊の3年間の成功・失敗は、地域と協力隊の信頼関係を築けたかどうかであり、本番は任期終了後であると思います。