“いなかハケン”には可能性がありますか?公開インタビューのご報告 〜いなかの小さな事業者さんのための「いなかパイプ」でありたい〜
- 執筆者 古川智恵美
- 所 属一般社団法人いなかパイプ
2021/07/26
いなかパイプでは派遣業の許可更新に伴い、次の5年間、いなかパイプと連携しながら“いなかビジネス”を展開していこう!といういなかビジネス事業者と、そんなビジネスを応援しよう!という個人を募集しています!
●募集内容はこちら:いなかパイプと一緒にやりたい人募集!「いなかつなぐハケン組合」
とは言え、なかなかわかりにくい、いなかパイプの取り組み。そこで、10年来お付き合いのあるの長谷川奈月(NPO法人ETIC.)さんに聞き手となっていただき公開インタビューを行いました。
配信された動画はこちらからご覧いただけますので、動画で見たいという方はぜひご覧ください。
いなかパイプは、いなかの小さな事業者さんの人材面をお手伝いしている会社
長谷川:ETIC.(エティック)という起業家支援やインターンシップ、地域コーディネーターのネットワーク作りを行っている団体で14年働いています。レオさんとも10年来のお付き合いになりますね。
レオ:いつもお世話になっています。今日はよろしくお願いします。
長谷川:まずは「いなかパイプとは」というところから。
ETIC.もそうですが、自分たちの団体のことを説明するのが一番難しい。なので、レオさんに聞く前に私から見た「いなかパイプ」をまず紹介します。
いなかパイプは、「いなかをつないでいく」ということを目的に、高知に限らず全国で、大企業や人材会社では届かない、地域になくてはならない小さな企業や農家さんなどの人材面をお手伝いしている会社、という風に説明していて、なかなか他でやられているところがないという認識なんですが、レオさん付け加えありますか?
レオ:すばらしい説明です。
いなかの山の中で誰にも出会わずに暮らしていけるようなところで、「お茶や栗を売らないと」と孤軍奮闘している事業者さん達が周りにいます。
その人達をイメージすると、自分達だけで発信して外から人を呼んでくるのは難しいなと思い、そういう人達とともに力を合わせ何かお役に立てたらいいなと思って10数年やっています。
いなかの小さな事業者さんのための「いなかパイプ」でありたいと常に思っています。
人をつないで、いなかインターンシップから人財派遣まで
長谷川:元々事業を始めた時はインターンシップという形で人をつないでいた?
レオ:29泊30日、1ヶ月滞在するプログラムを10数年前からやっています(いなかインターンシップ)。そこから研修生の受け入れだけでなく働いてほしい、という声が自然に生まれました。
でも働いてもコミュニケーションが不十分なため決裂し、いなくなってしまうケースがありました。
「いなか」と「とかい」の人あるあるで、日本人なのでお互いやりとりできていると勘違いしているが、本当のところはできてなかった、というところが見えてきました。
お互い歩み寄り、コミュニケーションしないと、いなかに人を呼んでも続かないと思い、そこに関わるすべとして「いなかマッチ」という人財派遣の取り組みを6年前からはじめました。
長谷川:お客さんとしてご一緒している地域の企業さんは、地域外の人とお仕事するご経験がない企業さんが多いのではないですか?
レオ:いなかの事業者さんは「誰かいい人いない?」と身内からはじまり、親戚、地域の人に聞き、「最近帰ってきた子がいるよ」というかんじで採用され、人がまわってるのが「いなか」の通常だと思います。
人間がいよいよいなくなってきて、「いなか」の中で事業展開をしようとがんばっているところも広げようにも人がいなくて広げられないという事業者さんが出てきた。そこを何か役に立てないかと思ってやっています。
長谷川:大企業でも人の育て方を研修するわけで、やってない方たちからすると間に入ってくれるレオさん達みたいな方がいると助かります。決裂したいわけじゃないけど決裂してしまう、ということが多いんだろうなと想像しました。
レオ:最初は「あいつはいい」でスタートしたはずなのに、いつの頃か「あいつはダメだ」になり、「だから移住者は雇わない」となり、それは違うんじゃないの?と思う。
事業者のみならず、働いている人も「あのおっさんはダメだ」となり、「こんな地域では働けない」ということが起こる。そこにはお互い誤解あるり、なんとかしないと続かない。
こちらも紹介した側として心が痛いですよね。なので、おせっかいにボランティア的に関わったりするけど、もっとちゃんと関わらないことにはこの課題は解決できない。
そこをビジネスにしていくために、派遣業という形で人間を送りながら関わります、というスタイルを考えました。3年ごとの節目を迎え、さらに事業をブラッシュアップしているところです。
地域をつなぎたいという人から後を継ぐ若者へ
長谷川:いなかパイプがいなかマッチとして入っていて、働く人と事業者さん双方にとって役に立ったという事例はありますか?
レオ:愛媛県四国中央市の切山という山の上でやっている養鶏場のエピソードです。20世帯くらいで70歳超えた方ばかりの小さな集落。たまたま僕が取り上げられたテレビを見て問い合わせをいただき、お話に行きました。
餌にこだわって配合していて、弾力がある黄身の美味しい卵を作っている自然卵養鶏場。400年続く歴史ある地域で、その地域をつなぎたいとその人はおっしゃっていて。
でも高齢だから養鶏を止めようと思っていたが、もしやりたい人がいたら譲ると言われ、募集をかけたところ半年後に生き物に関わりたいという若者があらわれました。
同じタイミングで帰って来ないと言ってた息子さんが帰ってきて、若者二人が意気投合し、後を継ぐことになりました。
若者は1年間「いなかマッチ」という仕組みを使って、商品開発や面談などでいなかパイプがサポートし、「働いてほしいけど雇うお金がない」という話だったので、「お金がないだけならお金を集めましょう」と一緒にクラウドファンディングをしました。
今は若手二人が引き継いで養鶏をやっています。まだ地域の長さか見ると、はじまったばかりでどうなるかわからないけれど、辞めようと思っていた方からなんとかバトンが渡り、若者たちが心折れないうちはバトンは続いていく。僕たちは彼らが心折れないようにサポートして、一緒にがんばっていきたいと思ってます。
こういう事例を増やしていきたい。いなかにいると横とつながりにくいので、そこがつながることができたらいいと思っています。
「派遣」という言葉ではおさまらない、事業伴走もするパイプ役
長谷川:レオさんのやりたいことは「派遣」の形をとってるけど、事業の伴走もしていきたいように見えます。マッチングされた人がその後も事業が続いていくような仕組みを作っていきたいと思われている。
レオ:最近思うのは「立ち上げ支援」だということ。立ち上がった後は中小企業診断士や商品開発のプロなどがいる。そこまでの間の海のものとも山のものとも、やれるかどうかも不明な人と一緒にやって立ち上げる。なんでもやる力、やれる力はあるし、できる自信がある。養鶏手伝えと言われたら手伝えるし、農業も漁業も手伝える。
立ち上げようかな、とか、継ごうか継ぐまいか、という不安な時期、一人でやりきれない時期をサポートし、「もう立ち上がったから大丈夫です」と卒業していくようになったいいと思っている。
長谷川:なるほど。やっぱりそれは「派遣」という言葉ではおさまらないですね。
レオ:そうなんですよ。でも儲かるかもわからないからお金も取りづらい。コンサルフィーと言ってもいなかの人はそれ払って本当にできるの?となる。それよりは人間にくっついてやるという方がお金も出しやすいし、やれる。
いなかの人もどういうサービスなのかが不明なものにお金を出しづらいと思うので、人間が来るプラスα相談相手になったりつなぎ役になったりはできる。本来はサービスを提供し、対価をもらえるビジネスモデルを作りたいがそこは模索中ですね。
あっちこっちの地域の人とのつながりで高知から日本、世界へ
長谷川:レオさんは高知四万十で事業を立ち上げて、高知から日本、世界に広がっていったタイミングはどんなタイミングだったんですか?
レオ:最初から広げたい一心です。「世界を股にかける男になる」が小さい頃からの夢でいつか実現させてやろうと思っています。
学生時代から12年沖縄に住んでいて、そこの人達とつながりがあり、何かしたいと思っている。
地元のため高知のためにもと思うし、中学高校が愛媛だったし友達もいて、うちの奥様が愛媛で働いていたつながりもあって愛媛のためにもと思うし、あっちこっちの地域の人とつながりができてそこの人達と一緒に仕事したい、お役に立ちたい。
世界でいうと、日本人だけどアメリカ国籍を持ってテキサスで牧場を持たれている方との出会いがあり、その方のお役に立ちたいし、日本の「いなか」に住む人がそこへ行っても面白い相乗効果があるだろうと思って。最近ではブータンの人をサポートしたいという人と出会っていてブータン進出するかも。
そういう人のつながりで広がっていってビジネスで形にできないか。一緒にやりたいと言ってくれる人と、いなかパイプの得意なところを生かして実現したい。
長谷川:なるほど。
パートナーのためにいなかパイプが機能し、役に立てたら十分ではないか
核心にも入りたいんですが、今回のパートナー事業者&支援者募集ということで、資金調達をするだけだったらいろんな方法があると思いますが、あえてパートナー募集としたところにはどんな思いがありますか?
レオ:「地域のために、みんなのために」ではぼんやり感がある。万人の役に立ちたいと思っているのではなく顔が見えている人たちのために役に立てたら僕は幸せ、いなかパイプは幸せになれるなと思いました。
パートナーのためにいなかパイプが機能し働けたら十分ではないかと思い、そこを明らかにすることをやってはどうかと。
長谷川:今のレオさんが言ってるパートナーさんはいなかの企業さんのこと?
レオ:そうですね。いなかの事業者さんも含め、そこを応援したいと言ってくださる方もいる。
自分は直接そのビジネスはしないけど応援したい、いなかをつなぐことを自分はやりたかったけどできなかったから応援するよ、と言ってくださる方もいてお金という形で出していただき、そのお金を運用していなかビジネスをつないでいくことに役立たせてください、と思ってやっています。
長谷川:今すでに応援してくださってる方は、自分はやれないけど代わりにやってくれることがありがたいという気持ちが大きい?
レオ:そうですね。
長谷川:まだ見ぬ支援してくださる方はどんな方がいいなというのがありますか?どんな方に仲間になってほしいか?
レオ:組合みたいな形で、組合員を募集というイメージ。そこは事業者さんも応援したい人も働く人もいて、組合のなかで人間が行き来したり相談しあったりして、県を越えて、お互い思いを同じにした共同体。
こっちが大変と言えば、みんなで働きに行くよ、ということが起こったり、そこでできた農産物海産物を買うよ、お中元で使うよ、というコミュニティになったり、お互いお金も出し合って、お客様とサービス提供する側という関係性じゃなく、一緒にいなかをつなぐことを取り組む仲間、連携しているパートナーとしてやりとりをちゃんとして生きていきたい。
いなかパイプで働く人もつながりの中で生きて行くということに幸せを感じる人が多い。
農業したい、海の仕事をしたいという具体的なものはないけど、自然環境が豊かなところでいろんな人に関わって関係ができながら仕事になっている、暮らしていけてる状態が幸せ、という人たちがいなかパイプで働いている。
今は働く場所は高知が多いので、働く人にとってはいろんな場所に広がったほうがマッチしやくすなったり、高知に合わないけど愛媛には合うということが起きやすくなる。
働く人も雇う人も、いい関係を作りマッチした状態で楽しく幸せに働いていくといういなかライフを実現したいという野望です。
いろんな地域と関わりを持ちたい都市部の人たちが、いなかの地域と関係性を作るひとつのきっかけに
長谷川:今いなかに住んでないけど資金的に応援するという人たち、例えば私みたいな人は個人支援金10万円を出したら組合員になれるということ?
レオ:そうです。組合員になり、オンラインなどでミーティングを持ち、あーだこーだ言っていただきたい。
長谷川:例えば私だったら人の話を聞くことが得意だから、どこどこの企業さんの面談やりますよ、となって関わっていくこともオッケー?
レオ:おお、そうなっていったら面白い。
長谷川:それは私が本業でやっていることにも近くて、都市部の人たちでいろんな地域と関わりを持ちたいというニーズを持っている人は関心を持ちそうな気がします。
レオ:地域の中だと事業者さん同士の連携は行われているけど、地域を越えて連携するということがやれたら。狭い地域だけだと限界もあり、難しいこともあるので、できるだけいろんな地域とつながっていたほうがリスクマネジメントにもなり、助け合えるということを作りやすい。そこを実現させたい。
長谷川:私は大阪という都市部側にいて、暮らしのリスクマネジメントを考えても、いろんな地域と濃い関係を築けるって大事だと思ったりする。いなかの地域と関係性を作るひとつのきっかけにしてもらってもいいのかもしれない。
5年間という組合の期間の中でいろいろ関係ができそう。大前提としていなかパイプがやってることに共感し、高知に限らずいろんな地域の情報が得られ、自分で関わりしろを見つけて関われるのは面白いと聞いてて感じました。
レオ:いなかのスピード感は都会よりもゆっくり。都会のビジネスは1年でなんとかして、とか、3年で成果を出すことが求められる。人間が成長する、いなかの事業が成長する、ということは3年でどうにもならないんじゃない?と思ってる。10年やってやっと、というのが体感です。
今回の5年という期間は普通だと長い、そんなに関われないよ、と思われるかもしれませんが、気長にのんびりゆっくりやって、関係性を作れたらと思っています。
長谷川:確かに都会の5年と地域の5年は感覚が違いそうで、それはコミュニティに入らないと体感できないでしょうね。
一緒につくるいなかパイプ、ご自身の楽しい範囲で巻き込まれていただきたい
レオ:これを聞いてくださる方は身近な方だと思うので、そこからさらにいなかの奥地にどうやって情報届けたらいいか困っています。「知り合いに困ってる事業者さんいるよ」と紹介していただけたら。
都会にいながらいなかに思いをはせている方が、うちのいなかにこんな人がいるよ、と言われたら「その人たちのためにがんばります私たち」といなかパイプはすぐなるので。
長谷川:応援したい地域とセットで組合員になるというのは面白いですね。
レオ:いなかパイプにある資源を活用できるなと思ってくださる方に活用していただきたい。そんな資源があるのかどうかを問い直している最中。それは時代遅れだよ、とか、いらないよ、ということであれば引き下がり、新しいこと考え直さないといけないと思っているので、そこを問い直すことを定期的にやってる感じがします。
長谷川:そんなこと言われたら応援しないわけにはいかない。いらないでしょ、とは誰も思ってないと思う。
レオさんが今日ずっとおっしゃっていた、人のつながりでつながっていくことを大事にしてらっしゃるところがいいなと改めて聞いてて思いました。
「みんなでいなかを次世代につないでいく」という取り組みに共感する人が私はこの形だったら関われる。お金を出す、スキルを提供する、紹介するなどいろんな関わり方を提示してもらえるといいし、それを受け止める素地がいなかパイプさんにはあるなと見てて思います。
レオ:いなかパイプは変幻自在。こういう活動するといろんなことをおっしゃっていただけるので、それを受けていいアイデアがあったのでそっちに変えます、それをやります、ということになる。
アドバイスも含め言っていただけたら。支援できないから何も言わない、ではなく、言いたいこと言っていただきブラッシュアップしていけたら。なんなりとお願いします。
長谷川:手前味噌ですが、最近、ETIC.は組織体制の変更をし、「一緒につくるETIC.」を掲げました。いなかパイプも「一緒につくるいなかパイプ」ですね。
これを聞いてる方はご自身の楽しい範囲で巻き込まれていただきたいなと思いますし、こういう感覚に合いそうだなという方が周りにいたら、こういう不思議な面白い団体あるよ、といなかパイプさんの記事などをシェアしていただけると嬉しいなと思います。
レオ:いなかパイプ次の5年に向けてがんばっていきますのでパートナーとして一緒にやっていきましょう!ありがとうございました。