猫が見つけた空き家をリノベ ⑤ 最終回 シェアする空間「山のホムサ」 がOPENするまで~高尾の暮らしのおすそわけ~

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執筆者 鈴木一恵
所 属山のホムサ

2023/05/02

 すっかり春を迎えたけど、所々に雪の塊がまだチラチラと見え隠れしている新潟県上越市牧区のちょっと小高い里山にある「高尾」地域にて、家族を中心に行った古民家リノベシリーズも今回で最終回となります。今回は改装とその後はじまるシェアスペースを作るまでの2021年の振り返りです。

 

 今年も5月1日(日)のゴールデンウィークから3年目のシェアする空間「山のホムサ」が再オープンします。シェアスペースを含め、この古民家が再生・・・というよりは眠りからたたき起こされる様をご覧いただければと思います。

 

豪雪

 

2020年末~35年ぶりの大雪

 前年は異常なほど雪が少なかったのですが、その反動と言わんばかりにこの2021年は2020年年末からすでにかなりの積雪に見舞われました。

 なにがまた異常かと言うと、この山間部は日頃から雪が多いのが通常運転なのですが、この年は普段はそれほど降らないような平野部、街中が大雪にやられてしまったのです。

 

 そして年が明け、2021年1月からも年末に引き続き積雪が続き、山間部のみならず、普段はそうそう積もらない市内の方までが2メートル越えの大雪という35年ぶりの大豪雪となりました。それにより、災害救助法が適用されたり、被災された市内の方々を支援するための義援金口座も開設されました。

 

豪雪

 

 そんな中ですが、まだまだ未完成の古民家と自宅の2拠点暮らしを始めてしまった我が家は、改装作業はノンストップで進めていきました。

 

雪があるからできる事

 流石にこの年は作業の他に除雪作業にも追われていました。屋根の雪を降ろした翌日にはまた降ろした分だけ積もっている、、、なんて事は雪国あるあるです。

 我が家はみんな高いところが苦手なので、出来る事なら登りたくない。そんな思いもあってか、旧自宅は雪が自然に落ちる勾配で屋根を作ったのですが、こちらの古民家は一部を屋根に登って降ろさなくてはなりません。

 そして屋根から降ろした雪が2階の窓に届く位たまり、玄関前が塞がれる事もしばしば。

 そんないつもはウンザリする積雪がまさかの役にたつ時が来たのです。

 

豪雪

 

 外壁に張り替えずにそのまま使っているトタン部分が随所にあり、そこを塗りたいと思いつつ、足場が悪くなかなか塗れずにいたのですが、この屋根の雪下ろしなどで積もった雪を利用して塗装しました。

 まさかのアイデアでしたが、晴れ間を見て一気に仕上げ、一見すると新しいトタン?のような外観に(よく見ればムラだらけ)。

 雪が積もっているところは春になるに従い徐々に溶けるので、その都度塗っていきました。

 

大工のトクちゃんと内装こつこつ作業

 外作業は流石にペンキ塗り位しかできませんが、中では2階の内装を仕上げていきます。内側の壁や天井はすべて解体し、畳も撤去したので、B級品の杉板、檜板、廃材で大量に頂いたパーチクルボードを利用しました。

 2階も1階同様に元あった場所の窓を違う窓に付け替えたり、窓が無かった場所に窓をつけたりと、おおよそ私たちだけでは恐ろしく時間がかかりそうなところをトクちゃんに助けてもらいながら(ほぼトクちゃんがしているのですが・・・)この冬も引き続きお世話になりまくりました。

 

内装

 

大雪からの脱出~春がきた!!~

 あんなにも降られると、二度と春は訪れないのでは無いのだろうか、、、といらぬ妄想にかられますが、もちろん春はやってきます。

 2階の内装も冬の間にほぼ終わり、春には一大イベントが待っています。いよいよシェアスペースOPEN!!・・・・ではなく古民家への猫たち(6匹)の引っ越しです(+私と家財道具も)

 

 距離こそ近いですが、普通に自力で引っ越しするって結構な重労働なはずですが、そこは何故かちょっとしたおまけ・・・みたいな感じで心配は特になかったのですが、とにかく猫達の移動が心配でした。

 6匹中3匹は時々改装中も来ていたり、なんなら「山のホムサ」の名前の由来のホムサにいたっては既にほぼ古民家にいたので心配なかったのですが、残りの3匹をどうやって連れて行くか?また連れてきたはいいけど、また向こうの家に戻ってしまうのではないか?と何度も脳内シュミレーション。

 しかしこちらの心配をよそに、猫たちは意外にあっさり引っ越しに対応、順応してくれました。

 

 始めこそ、元の家に戻るかなと思いましたが、意外と家族がこっちにいるのをわかってか、向こうの家も入れないし、ご飯もないので「仕方なし」と思ったのか、、、は分かりませんが、すでにここが我が家ですが?とばかりにくつろぎ始めてくれました。良かった~。

 

猫の引越

当日は流石に緊張気味?

 

装飾作業も廃材、頂き物をフル活用

 自宅としてのみ使うのであれば、あとは暮らしながらまだコツコツ作るところを残すのみなのですが、1階の一部をシェアスペースとして運営するにあたり、いろいろ今度は「整えつつ装飾」作業が待っています。

 

シェード作り

 

 照明器具の装飾一つにしても、市販品ではなくいちいち作ります。古民家に残されていた昔ながらのかんじきと楮をつかったシェード作りは父の担当。

 

 ここで「楮(こうぞ)」の説明を少し。

 楮は、和紙の原材料です。桑科の植物で、株で冬を越し春に芽を出し夏にはぐんぐん3m、4mと伸び、11月の葉が落ちる頃に収穫します。

 当時高尾の山で栽培から始め、収穫したものを1メートルほどに切りそろえ蒸して皮をむき、乾燥させたものを小国町まで出荷するまでの工程をこの古民家改装の除雪や譲り受ける際にも手助けして下さった、ご近所のお家で行っていました。

 秋の収穫後の楮の皮むき作業は人手がいる為、母が数日間手伝いに行っており、その際皮をむいて不要になった楮の芯の部分を頂いていたのです。

 

楮

 

 頂いたものを、自宅にそのまま置いて飾ったり、遊びに来るお客様が珍しがって、畑の支柱に使ったり、杖にしたり。

 その楮の芯をこの古民家では塗装してランプシェードにしたり、他にもちょっとした仕切りに使ったり、いろいろ活用しています。

 

私がもっとも欲しかった書籍コーナー

 そして、古民家に残っていたり、人から頂いたりした大量の桐ダンスの引き出し達もいよいよ出番です。既に自宅で何年も前から使っていた同じく元はタンスの引き出しだった本棚と共に、この古民家でも本棚コーナーを作っていきます。

 

本棚コーナー

一度水洗いして乾かしているところ。早速猫の遊び場。

 

 シェアスペースをするにあたって、家族や私の本の他、知人からも大量に絵本を頂いたのでお客様にも自由に読んでもらいたく、本棚コーナーは必須でした。あと個人的には私が本に囲まれた空間が好きなので、それをここで存分にしよう!と思っていたのもあります。

 

 流石にタンスの引き出し本棚だけでは足りず、もちろん買う、、、選択肢はなく、それじゃあと作る事に。サイズも調整できますし。

 家の改造のみならず、家具作りにもトクちゃんの参加であれよあれよと新たな本棚が出来上がりました。

 

本棚づくり

 

 こだわりだすとキリが無いのが装飾です。実際この頃ほぼ完成とは言っても、細かくは玄関横の倉庫や室内の押し入れ部分、玄関の石畳などもまだ手付かずだったので、あれもこれも現在進行形で「改装」「装飾」「改装」「装飾」の繰り返しでした(なんだったら今なお)

 

高尾の皆様にお披露目する日

 何とか整ってきた古民家をシェアスペースとしてOPENする前に、高尾の皆様に、1日【お披露目の日】として開放しました。

 田植えや農作業でお忙しい時期に本当に申し訳ありませんでしたが、都合をつけて見に来て頂ける方もいて嬉しかったです。

 

 本当はこの改装に当たって2020年にクラウドファンディングにも挑戦しており、そこで支援して下った方々や当時地域のイベントが定期的に行われていた際にそこで、お披露目会をしようと考えていたのですが、2020年~のコロナ禍真っ只中に、大勢の人を招くイベントはおろか、地域の他のイベントですら軒並み中止となっている中では、行う事が難しく断念しておりました。

 地域の中には私たちが何をしているのか、これから何をしたいのかを知って頂く機会が中々持てずにいたのでこの機会にお話もできてよかったです。

 そんなこんなを経て、ついに2021年8月、シェアする空間「山のホムサ」がオープンしました。

 

シェアスペースオープン

 

永遠に未完成の家

 セルフビルドをしている人は結構普通に

「10年かかって造りました」

「あと何年かかかるでしょうね」

と口にします。これは今となってはよくわかります。わかりすぎます。

 

 我が家はそれでも近所の大工さんに手伝ってもらった事もあって、これでも想像以上に早く進んでいる方だと勝手に思っていますが、これが本当にそれこそ基礎や配管設備を業者さんに頼んだとはいえ、ほかを自分たちだけでするとなったら、本当に何年かかるのだろうと、今更ながらたくさんの方々のご協力に感謝するばかりです。

 そして「自分たちで作る」からこそ「終わり」がなかなか見えない。。。構えばかまう程「やっぱりこうした方がいいんじゃないか」がいつまでも付きまとい「これで完成」は自分たち次第。それは途方もないけれど、考え次第ではいつまでも「家」で自由に遊べる訳なのです。

 

いつまでもDIY

 

私の好きな「高尾」の暮らしをおすそわけ

 長い冬が終わって、木や草や花、鳥、虫、動物たちが春が来たことを実感させてくれるこの山の暮らしが好きです。

 夏は昼間はどんなに暑くても、夜になるとヒンヤリとして、いつまでも田んぼで元気よく歌っているカエルの声を聞くのも好きです。

 短いけれど、山が色めき始め、人も動物もソワソワと冬支度を始める秋の気候、暑い夏が終わって、冬になる前のほんの一時の過ごしやすさが嬉しいし、冬の雪はこんなに降らなくてもいいだろうと泣きたくなる事もあるけれど、あのシンッとした張り詰めた空気の中「綺麗だな」と感じる事も多々あります。そしてまた春が来る。

 

 子供の頃、四季があるのは当たり前だと思っていました。大人になってから、短い都会暮らしのあいだ、暮らしは山間より便利でちょっと出かければワクワクする楽しいものがあふれる世界でした。

 でも都会では四季を感じる事が私にはできませんでした。新潟にいた時は、あんなにうんざりしていた雨ですら、都会暮らしの時には時々降るとなんだかホッとしたのを覚えています。

 新潟に帰ってきて、高尾に帰ってきて、家に帰る道中だんだんと自然が、四季の景色が迫ってくるとなんだかホッとするのです。

 都会に遊びに行って帰ってくるときも、上越市内に買い物に行って帰ってくるときも、仕事から帰ってくるときも、いつでも。

 

 暮らす場所はそれぞれで、それぞれ素晴らしいものがみつけられる場所になるはずです。街には街の、山には山の、暮らしやすいところ、暮らしづらいところがあって当たり前で、でもそこにずっといると、それに気づきにくいのかもしれません。

 

シェアスペース

 

  シェアする空間「山のホムサ」は5月1日(日)に再オープン。2021年8月のオープンから今年で約3年目を迎えます。

 シェアスペースの説明や実際利用している方々はどんな風に過ごしているかのお話は以前の「シェアスペースのすごし方~日常からすこし離れて、日常をすこし忘れて~」を良かったら一読くださいね。

  30数年前に高尾に移住した私たちが、沢山の人達に助けてもらいながら作った手作りの古民家で、今年もお待ちしております。

 

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