出産前夜

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執筆者 安澤真希
所 属かつおゲストハウス

2015/06/30

 

 私は今、分娩室の前でいなかマガジンを執筆しています。明日の今頃には、この分娩室に横たわり、帝王切開で子どもを出産する予定です。今の率直な心境は、手術への恐怖心60%、好奇心30%、子どもに会える楽しみ10%といったところでしょうか。手術まであと15時間。もうそろそろ腹を切ることに腹をくくらないといけません。今回は、母親になるまであと数時間、お気楽だった人生最後の夜をリポートします。

 

分娩室

 

 私が出産する病院は高知日本赤十字病院で、分娩室は3部屋。この日は、その全室が満室で3人の妊婦さんが出産しておられました。そこから漏れてくる悲鳴たるや、なんて恐ろしいことでしょう。「痛ぃぃぃ~ 痛いよぉぉぉぉぉ~ うぅぅぅぅぅぅぅぅ~ あぁぁぁぁぁぁぁぁ~ っつーーぐはーーー」などと、喘ぎ声にも似た、悶え苦しむような、幽霊の叫び声のような、すすり泣きのような、唸り声のような、とにかく悲しみでいっぱい!! 明日我が身に降りかかる手術のことを思うと、これはもう恐怖でしかありません。

 

果たして、陣痛を伴う普通分娩と、お腹を切る帝王切開、どちらの痛みが強いのでしょうか?

 

 帝王切開の道を選んだ私は、おかげさまでこの「陣痛の痛み」を味あわずに済みますが、その代償にお腹を切られます。でも麻酔でその痛みはありませんし、下半身麻酔なので「意識があるなか腹を切る」という、まさに生と死のはざまを体験することができます。これは宇宙へ行くことと同じくらい貴重な経験だと思います。

 でもでもでもでも、陣痛への憧れのような好奇心も、私は捨てきれないのです。陣痛は、私の母も、祖母の、祖祖母も通ってきた、いわゆる女の道です。そう、女性として産まれてきたならば極めるべき女の道。しかも、一度帝王切開をした人は、次のお産も子宮に負担をかけないよう普通分娩になるとか。そう思うとやはり、普通分娩をしてみたかった。陣痛を味わってみたかった。自分の力で産んでやりたかった。親子最初の共同作業を、出産という感動の花道で飾りたかった。色んな思いが巡ります。

 

 私だって、普通分娩で出産できるはずでした。なぜなら、私の妊婦生活は、ありえないほど元気で順調で、世間一般的だったはず。ツワリもほどほど、体重増加もほどほど、子どもの成長もほどほど。全てがほどほどでフツー。むしろゲストハウスの布団のあげさげ、掃除、接客、家事など、今日まで働きっぱなし。なんなら今も病室でパソコンをいじって仕事をしています。

 さらに精子が卵子に到達したであろうその日には、タイヤにお尻を突っ込んで仁淀川を下り、夜はワインを2本空けて焚き火の前で踊り来るっていました。そんな過酷な状態だったにも関わらず、着床→妊娠というスーパーゴールを決めたウルトラ元気な私と子ども…

 

仁淀川川下り

 

仁淀川下り

 

 なのになのに、予定日を過ぎた検診日(今日)に「児童骨盤不適合」という類いまれな病名をさずかり、その日に緊急入院、明日帝王切開で出産するという、超スペクタクルな展開になってしまったのです。しかも、普通分娩で出産できると信じきっていたので、帝王切開関係の情報はノーマーク。出産情報誌にある帝王切開体験談なども完全にスルーしていました。傾向と対策をまったく持ち合わせていない今、頼るべきものはただ一つ。帝王切開経験者の友人のみ!

 そうこう考えを巡らせていると、分娩室が慌ただしくなってきました。まだ見ぬ妊婦さんがいよいよラストスパートに入ったようです。ご家族に「私は普通分娩できないの見学させて下さい」と不思議なお願いをして、産まれるその瞬間まで外で一緒に見守らせてもらいました。

 

助産師「「もうちょっと!グッと頑張れ!ほっ!ほっ!」
妊婦「っつーーーはーーーー」
助産師「頑張れ、頑張れ、息をはきましょうか」
妊婦「はーーーーーー!!」
助産師「頭がでてきましたよ~ 髪の毛フサフサですよー」
父親「うわっ!ほんまや!あとちょっと!!」
助産師「はーい、おめでとうございます!!」
妊婦「え?え?赤ちゃん産まれたが!?うわーー可愛いー♡」
父親「おーーーーー!!」
赤ちゃん「フフフンギャァアァアァアア!!」
助産師「元気な女の子です、おめでとうございます。おつかれさまでした!」

 

 文字にしたら呆気ないけど、生命誕生の瞬間たるや、なんて感動的なんでしょう。ネガティブな感情が全くない汚れなき透明な空間、野性味溢れる赤子の産声、とろけそうな家族の笑顔。この100倍もの感動が、明日、私も帝王切開でも味わえるのでしょうか…

 とにもかくにも、神様、仏様子、イエス様、どうか私も明日、無事に出産できますように!間違っても卵なんか産みませんように!!

 

次回は帝王切開のお話です。

 

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